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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
時宮の双子令嬢 01
しおりを挟む「迎えに来たよ、我が花嫁どの」
静岡で暮らしていた桂木音寧のもとに帝都から来たという軍服姿の屈強な男性が現れたのは、秋冬番茶の収穫次期に重なる大正十三年神無月のことだった。
鮮やかな黄緑色の茶の葉が茂る段々畑で作業していた音寧は、養母に呼び出され、長身の彼の前へと顔を出す。
西から照らされた太陽のひかりに当たった彼の栗色の髪は金髪のようで、まるで異国の王子様が絵本の世界を飛び出して来たのではないかと心配してしまったほど美しかった。
だが、茶摘着物を着ている音寧を見下ろす榛色の瞳もまた、驚きでまるくなっていた。
「……なるほど、綾音嬢に瓜二つだな」
「姉のことを、ご存知で……?」
「まぁ……このたびは、ご愁傷様なことで」
「今更なことでございます。あれから一年以上経っておりますのに……それに、わたしはすでに彼女と縁を分かたれた身」
「だが、貴女が時宮家の姫君だったことは事実だろう?」
「……わたしは姫などでは」
「謙遜する必要はない。調べはついている。貴女がかつて時宮の双子令嬢と呼ばれ」
「いい加減になさってください。わたしはもはや時宮の家に棄てられた娘です、今更あの家と縁を持つつもりもございませぬ」
男の言葉を遮り、不躾に睨みつける音寧を見て、彼は申し訳なさそうに髪をかく。
「嫌な事を思い出させてしまったのなら謝る。俺は岩波た……有弦だ。有弦と呼べ」
「ゆうげん、さま?」
「そうだ。お茶の『岩波山』の岩波といえばわかっていただけるか」
「……ええ、岩波山茶園には桂木の人間もお世話になっております。そういえば、そちらのご主人の名前が代々『有弦』だったかと」
「そこまで知っているのならば、話は早い。この度、岩波有弦が花嫁を迎えることになってな」
「あら、それはおめでとうございます!」
それでは目の前にいる漢前な方は、結婚間近ということなのだろう。
音寧は目をまるくして有弦の言葉を待つ。
「……おめでたい、だと?」
「ええ。迎えに来たとおっしゃるのは、桂木本家のサチお嬢様のことでしょう?」
音寧が言い放てば、有弦は「誰だそれは」と困ったような表情を浮かべている。
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