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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
憂いの初夜 01
しおりを挟む身体が火照っているのは事前に彼から飲まされた薬酒のせい、だろうか。
ジジジ、と幽かに揺らぐ洋燈の淡いひかりが邸の片隅にある夫婦の寝室を照らしている。夜だというのに明るさを保つ光源の前で、寝台の上で着ていたものを脱がされた妻は、真っ白な裸体を照らされ、すべてを夫となるひとに晒されていた。
そのまま恥ずかしそうに瞳を伏せれば、彼に顎を持ち上げられてしまう。どうにかして視線を重ねた夫の榛色の双眸が、困ったような、それでいて楽しそうに煌めき、音寧を怯えさせる。
「怖がらないでおくれ、我が花嫁どの。ようやく俺の手のなかに堕ちてきてくれたのだからな、大層可愛がってあげようではないか」
「っ……」
夫婦となる初めての夜の知識など、何も持たされなかった。
ただ、夫となる男性に逆らってはいけないと、それだけは強く養母から言い聞かされていたから、音寧は素直に彼に求められるがまま、羞恥に耐えながらも身体を捧げている。
けれど、男にとってみると、それが不服なのかもしれない。初夜の床に薬酒を持ち出し、妻となる女に有無を言わさず飲ませ、自分から彼を求めさせようとしたくせに、右も左もわからない彼女は自身の身体の変化に気づきながらもどうすればよいのかわからないまま、迷子の子どものようにこちらを見つめるばかり。いまにも泣き出しそうな瞳の色は、青みがかった美しい夜の闇のようで、まるで星空を抱くような錯覚を男にもたらしている。
「おとね」
「有弦、さま」
有弦が囁いた名前に反応したかのように、音寧がか細い声で彼の名を呼ぶ。
たどたどしく名前を呼ばれた夫は、嬉しそうに彼女に覆いかぶさり、しっとりとした接吻を贈る。
彼の長い舌先が音寧の歯列をなぞりながら彼女の舌を絡め取る。口の端からたらりと雫のように溢れたのは、ふたりの混ざりあった唾液だ。冷たい唾液が初々しい音寧の乳首に垂れて、尖端を勃ちあがらせ、濃い紅色に染め、艶を放つ。
それを見届けた有弦は唇をはなし、音寧の左右の乳房へ両手を添える。それだけで彼女の身体はびくっと震える。そのまま顔を左胸に近づけ耳を寄せながら、ゆっくりと揉む。心臓の鼓動を直に感じ取るかのような彼の仕草に、音寧は目をまるくし、そのまま与えられる快楽に打ちひしがれる。
「あぁ……ゆ、うげん、さま……ぁあ」
「綺麗な色をしている。ほんとうに、男を知らないのだな」
「だ、だからそうだと……きゃあ!」
初々しい乳頭が彼の手に摘まれ、キュン、と下腹部が蕩けるような感覚が生まれる。
はじめは淡い桜色だった乳首は唾液をまぶされ赤みを増した。そのまま彼の舌によってれろれろと舐められ、はくり、と食むように口の中へ導かれる。至福の表情で音寧の乳首を舐めしゃぶっていた有弦は、甘い啼き声をあげる彼女を堪能している。
やがて乳房を揉み上げたその手は下乳から臍の下へ、転がり落ちるように撫でていく。
「なんて滑らかで、さわり心地のよい肌なんだろう。ずっとこうして愛でていたい」
「そんな……ッ」
「わかっている。身体が疼いているのだろう?」
「っはぁ……は、い……なんだか、おかしぃ、の」
「それでいい。俺がその疼きを快きものへと昇華させてやろう」
「ゆ、げんさま?」
有弦の手が臍よりもさらに下、音寧の下半身へと進んでいく。薄い茂みにふれられた途端、信じられないと音寧は悲鳴を零す。
それでもさわさわと、長い有弦の指先は音寧の和毛をかき分けて、焦らすように自分ですらふれたことのない場所に指の腹を乗せて、つんつん、と尖った部分を刺激する。
「きゃっ……ぁ、ん……え?」
「愛らしい芽が出ているな。もっと膨らませてみようか」
「ひあっ、あ、ぁ……!」
陰核をつつかれて、先ほどよりも直接的な快感を得たことで音寧の身体がひくひくと弾む。その瞬間、とろりとした粘り気のある液体が敷布まで染みだしたことに気づき、恥ずかしそうに音寧が嘆く。
「あぁ……ゆうげんさま、いけません……っ!」
「ようやく薬酒の効果が出てきたか。案ずるな、粗相ではない……おとねの身体が気持ちいいと、正直に反応しているだけだ」
「はぅっ」
有弦は音寧にふれる手を止めることなく、なんでもなさそうに告げてにやりと笑う。
「俺の手で、達するがいい……時宮の姫君よ」
「ぁああ、や、いやぁああ……!」
時宮の姫君――有弦が口にしたその言葉に、音寧は絶望する。
絶望しながらも、彼の手のなかに、堕ちてゆく。
――わたし、は、あやねえさまじゃないのに……
絶叫は、破瓜の痛みを凌駕して、音寧の心の奥底に、おおきく消えない傷痕をのこす。
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