雪空に蒼き燕舞う

＊ １ ＊

　橙色と瑠璃色の花弁がレモングリーンの長細い萼に収まっている。毒々しい色づかいが、閉ざされた小さな熱帯雨林に拡がりを魅せている。
　人工の雲が降らす冷たい雨に濡れるなか、手に取った極楽鳥花は、先端が尖っていた。
　白い指の腹に、赤い点が生れ、ぷくりと膨らむ。くちゅ、と淫靡な音を鳴らしながら、あたしは流れ出た血を舐めとった。
　口腔に拡がる鉄の味が、少しだけ自身を正気に戻す。
　ただでさえ暑苦しい場所だ。そこで雪のように白い冬のコートを着ているなんて、尋常じゃない。それなのに、全裸だったあたしは重いコートに包まれ、雨に降られて蒸されている。いっそのことこのまま水蒸気になって溶けて、消えてしまいたいくらい。

　――事後はいつもこう。
　行為の最中は気まぐれな優しさを見せるけれど、欲望を放ったらそれでおしまい。
　青臭い精液の生々しさが、皮肉にもあたしを生かしているなと感じる。
　いまのあたしはあの男のお気に入りの玩具。
　だから、孕むことができなかったほかの被験体みたいに棄てられることもなく何度も”実験”を繰り返されていた。
　あの男になぶられて死ぬのが先か、それとも発狂して死ぬのが先か。
　考えるのすら億劫で、身体は快楽に溺れていく。

　極彩色の世界そのものが作られた薬の幻覚なのかもしれない。初めて連れ込まれた際に行為を強要され、拒否したあたしに容赦なく射ち込まれた媚薬の。
　寒いのにカァっと身体が火照り、触れられただけで下腹部が疼くのと同時に、白衣の男たちの勃ちあがった逸物に犯された。
　それはこの施設にいる限り終わることのない悪夢。覚悟をして臨んだはずが、心は置いてきた恋人を裏切ることが耐えられなかったらしい。怒り狂った別の男に薬を射たれ、意識が闇に沈んだ。
　ただただ時間が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。一度で飽きればいいと。だが、与えられた痛みと快楽の意外さにあっけなく身体は堕ちてしまった。

「あぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
　
　なぜ自分が。
　……すべてが終わってから後悔してももう遅い。
　かつての恋人にだけ捧げていた身体は凌辱の限りを尽くされた。気だるい残滓とともにあたしのなかに男たちの精液が注がれる。孕むことがなかったため自分はそれ以上のことを求められずに済んだ。孕んでいたらいたで更なる地獄に連れていかれただろう。

　ひとまず、正式な実験が終わったことで白い鴉があたしを引き取った。もとの生活に戻ることはできないとわかっていたから、その後も求められたら素直に快楽に身を委ねることにした。
　死を待つ運命なのだと悟ってからは、希望を棄てた。

　それでも彼方がデートのときに買ってくれた白いファーコートだけはずっと持っている。　
　あたしが死んだ後でも、白い一つの点を誰かが見つけてくれるように。