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壱
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しおりを挟む沈みかけている夕陽を背に、首実験を終えて興奮冷めやらぬ様子の義仲が姿を現す。
「ただいま戻った」
小子は巴とともに戻ってきた義仲を迎える。昨日と同じ戦装束の義仲を見て、昨晩の出来事が素早く脳裡をよぎっていく。
「おかえりなさい?」
素直に口にすればいいのに、緊張と戸惑いでつい語尾が上ずってしまった。義仲はそんな小子を見てくすくす笑いながら、ぽんと頭を撫でる。
「どうだ、この邸は。お前が暮らしていた邸よりはちいさいが、きれいにはなっているだろう?」
義仲に言われ、小子はこくりと頷く。
もともとは平家一族の何某かが愛人を住まわせていた場所だという。平家が西国へ逃げた際、多くの建物は彼らによって火をかけられたというが、この邸だけは残されていたとのこと。
「だけどしばらくひとが生活していなかったからか、けっこう荒れ果てていたのよ。義仲がここに正室を迎えるなんて言いだしたから慌てて掃除したの」
「助かったよ巴。おかげで俺はこうして小子と静かに暮らしていける」
何が静かなものか、と巴は苦笑を浮かべるが、義仲は気にすることなく小子の手をとり奥の室へ連れていく。
「義仲、さま?」
「義仲でいい、俺だけの小子」
手を引かれ、義仲の胸元へ吸い寄せられる。ふわりと漂うのは昨日と同じ、危険な血の、それでいて甘美な香り。
奥の室は塗籠のようだった。転がり込むように入って、巴の姿が見えなくなったところで義仲はようやく安心したのか、小子の身体をぎゅっと抱きしめた。
「ずっと、こうしたかった……」
それは、夫婦となるものがするにしては幼稚な、つたない抱擁。
なぜ、ここまで自分が義仲に求められているのか、小子には理由がわからないし、理解ができない。
だけど小子は決めたのだ。自分は義仲のものになると。たとえそれが自分たちふたりを滅ぼしかねない行為だとしても、彼は構わないと言って、小子を幸せにすると誓って連れだしてくれたのだから。
抱きしめたまま、義仲は何もしない。
小子も、義仲に抱きしめられた状態のまま、じっと、その体温を感じている。
抱きしめられて、小子は思い出す。
かつてこんな風に、大切に抱きしめてくれたひとが、いたことを。
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