深紅の鬱金香に恋して。 ―人形姫―

ささゆき細雪

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魔術師の憂鬱

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 自分の姿を見てもらうことの叶わないリナリアは、スクノードの唇をかすめ取る。
 一瞬の隙を奪われた口づけに、スクノードが固まっている。その様子を見てリナリアはくすりと笑う。

「レンブラントを手に入れるなら、人形姫がいなくてもいいじゃない」

 あたしが呪われた人形姫に代わって、あなたの人形姫になる。
 呪いを解いて等身大になった姫君になって、スクノードさまの伴侶になればいいのだと、当り前のように言葉にしたリナリアに、スクノードは呆れたように声を出す。

「――それでも、姫を探さなくては」

 二階の回廊から転落したリニフォニア。咄嗟に風の精霊魔法を使った彼女のことだから無事だとは思うが……

「リナリア。その話は誰にも言わないでほしい。僕は……まだ、どうしたいのかわからないんだ」

 ヘルミオネ王家はレンブラントの姫君をどうこうするよりもレンブラントの土地を自分たちのものにしたいと考えている。呪われた人形姫など呪いを解いたところで厄介な次期女王になるだけだというのが一般論だ。けれどスクノードはちいさな人形姫と過ごして行くうちにその考えに疑問を持った。ほんとうにリニフォニアはレンブラント王のように強大な魔術師の素質を持つ厄介な娘なのだろうか。たしかに精霊のちからを使うことはできるようだがそれだって微々たるものだ。スクノードが呪いを解いて彼女の婿になったからといって彼女がヘルミオネの脅威になるとは考えられない。けれどヘルミオネ王家に仕えるリナリアはそう思っていない……そして危惧している。スクノードがリニフォニアの婿となってレンブラントの人間になったら、ヘルミオネ王家に利用されるだけ利用されて捨てられてしまうことを。
 スクノードは溜め息をつく。スクノードのためにリニフォニアを殺そうとしたリナリア、王家のためにリニフォニアの呪いを解くつもりの自分、そして呪いを解かれることによってモノのように取引される哀れな人形姫……

「スクノードさま」
「リナリア。僕はどうすればいい?」

 陽のあたる場所は苦手だ。ずっと魔術の研究に勤しんでいられればどんなに良かっただろう。隣には当り前のようにリナリアがいて、これからも一緒にいるんだと思っていたのに父王の命令のせいで歯車が狂いだした。人形姫の呪いを解けばレンブラントが自分のものになると思っている滑稽な王に躍らされて、リナリアは苦しんでいる。スクノードはそんな彼女を知っているから、彼女の手を放すことができない。大魔女べルフルールの最後の弟子、リナリア。ヘルミオネ王家がレンブラントを我が物にするために呼び寄せ、この地に捕えた魔女。彼女もまた、城に囚われた少女だ。そして自分も。
 スクノードは必死になって手を伸ばす。温もりが欲しい。ちいさな人形が持つ温もりじゃあとうてい足りない。生身の人間の、甘い匂いのする、いつも傍にいてくれる女の子が自分には必要なんだ。

「誰も、傷つけたくない」

 ――けれど、そんな魔法、誰も知らない。
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