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そして最後の夏へ
10.麗しき兄妹愛
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「……とは言ったものの。監督に知らせないでいいの?」
「想が意地を張るのがいけないんだからいいの。あたしがフォローするから先輩は気にしないでください」
きつく言われると、頷かざるおえない。悠も、想が今になって熱を出したことに憤りを覚えているのだろう。
「フォローするって?」
あたしが不審になって尋ねると。
「あたしが想の代わりになります」
* * *
無茶だとか無謀だとか色々言っていた張本人が、想の身代わりになって、投球をしている。
……正直、驚いた。
想に変装した悠は、黙々と投球練習をしている。フォームは完璧。多少、ぎこちない部分もあるが、初対面の人間が見れば、高校球児だと思い込むだろう。
悠はキャップに自分の髪の毛を仕舞い、自分が女性であることを隠す。その凛々しい姿は、どこか官能的だ。
傍目から見れば、これが弘前想だと判断される。ユニフォームを着ているのが、女の子だなんて誰もわからないだろう。
現に彼女は監督や顧問を騙しているのだ。想の意志を叶える為に。
「麗しい兄妹愛だな」
「ムツゴロー」
あたしが顔を上げると、ムツゴローがスポーツドリンクを飲んでいた。
「あれ、悠だろ」
「なんで?」
なぜ、ムツゴローは、投球している人間を想ではないと判断できたのだろう?
あたしが驚いた顔をしていると、ムツゴローは簡単なことだと教える。
「投球フォーム」
「想そっくりだと思うけど?」
「よく見てみ。あれが想だとしたら、あんな投げ方できないぜ」
彼に言われた通りに、彼女を観察する。
「……特に、問題ないと思うけど?」
「お前、想の球種記録したことあっただろ? それ思い出せって。絶対気づく」
「うーん……」
悠の投げ方をまじまじと見つめる。
外側から曲がるアウトカーブ。球速がかなりあるであろう強引なストレート。高校球児の多くが投げる典型的なスライダー……
想は、様々な球種を試合で手品のように繰り広げていた。得意技はゆっくりと放物線を描くオーバースロー。
……だけど。
次の悠の投球は、紛れもなく、想には出来ない芸当だった。
率直に言えば、下手投げ。
あたしは思わず声を荒らげる。
「あ、アンダースロー?」
「想は、あそこまで見事な下手投げを究めてない。あれは、悠だからできるんだよ」
――悠だから。
その言葉に、少しだけ傷つく。
「そうなの?」
「知らないのか? アイツ、中学時代、女子ソフトボール部で、投手として活躍したんだぜ」
「想が意地を張るのがいけないんだからいいの。あたしがフォローするから先輩は気にしないでください」
きつく言われると、頷かざるおえない。悠も、想が今になって熱を出したことに憤りを覚えているのだろう。
「フォローするって?」
あたしが不審になって尋ねると。
「あたしが想の代わりになります」
* * *
無茶だとか無謀だとか色々言っていた張本人が、想の身代わりになって、投球をしている。
……正直、驚いた。
想に変装した悠は、黙々と投球練習をしている。フォームは完璧。多少、ぎこちない部分もあるが、初対面の人間が見れば、高校球児だと思い込むだろう。
悠はキャップに自分の髪の毛を仕舞い、自分が女性であることを隠す。その凛々しい姿は、どこか官能的だ。
傍目から見れば、これが弘前想だと判断される。ユニフォームを着ているのが、女の子だなんて誰もわからないだろう。
現に彼女は監督や顧問を騙しているのだ。想の意志を叶える為に。
「麗しい兄妹愛だな」
「ムツゴロー」
あたしが顔を上げると、ムツゴローがスポーツドリンクを飲んでいた。
「あれ、悠だろ」
「なんで?」
なぜ、ムツゴローは、投球している人間を想ではないと判断できたのだろう?
あたしが驚いた顔をしていると、ムツゴローは簡単なことだと教える。
「投球フォーム」
「想そっくりだと思うけど?」
「よく見てみ。あれが想だとしたら、あんな投げ方できないぜ」
彼に言われた通りに、彼女を観察する。
「……特に、問題ないと思うけど?」
「お前、想の球種記録したことあっただろ? それ思い出せって。絶対気づく」
「うーん……」
悠の投げ方をまじまじと見つめる。
外側から曲がるアウトカーブ。球速がかなりあるであろう強引なストレート。高校球児の多くが投げる典型的なスライダー……
想は、様々な球種を試合で手品のように繰り広げていた。得意技はゆっくりと放物線を描くオーバースロー。
……だけど。
次の悠の投球は、紛れもなく、想には出来ない芸当だった。
率直に言えば、下手投げ。
あたしは思わず声を荒らげる。
「あ、アンダースロー?」
「想は、あそこまで見事な下手投げを究めてない。あれは、悠だからできるんだよ」
――悠だから。
その言葉に、少しだけ傷つく。
「そうなの?」
「知らないのか? アイツ、中学時代、女子ソフトボール部で、投手として活躍したんだぜ」
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