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しおりを挟むシーツの海で何度もヤヒコと愛を交わしたナターリアの身体はクタクタになっていたが、心はしっかりと満たされていた。
運命の番と身体をつなげることのなんと甘美で素晴らしいことなのだろう。
けれど。
「人魚であるあたしがこの国で結婚することは、可能でしょうか?」
ふと不安になるナターリアに、ヤヒコは問題ないときっぱり告げる。
「俺はこの国の第三王子だが、正妃の息子でもないし、たいした地位も持っていない。俺の暗殺を企てたのは一部の獣人否定派の連中だったが、そいつらは隣国のヒョウレンの王女が人狼の国の王と結婚したことですでに権威を失墜させている。それに派閥事態が風前の灯だから反対の声をあげようが実力行使に出ることもなかろう。もはや番の強制力はこの国の人間なら逃れられない運命であると誰もが知っていることだ。それに、いまさら俺はお前を手放せぬ」
もしナターリアを傷つけるような輩が現れても、白虎の姿の自分なら相手にならぬと自信満々に口にする。
なんて頼もしいのだろう。
「ヤヒコさま」
「何があっても起こっても、俺がナターリアを守る……生涯な」
誓いをたてるように彼女の額へ口づけを贈るヤヒコに応じるように、ナターリアもこくりと頷く。
それはナターリアも思っていたことだ。だって、出逢ってしまった運命に抗うことはこの世界を否定することと同義だと、リーシアも常に口にしていたから。
出逢わなければ番であることに気づかなかっただろうが、ナターリアは出逢ってしまったのだ……半年前の嵐の海で、ヤヒコという白虎の王子に。
「気持ちは同じです。もう、人魚の国に戻れなくなってもかまいません」
覚悟ならとっくにしている。
そう言って、ナターリアはヤヒコのはだかの胸に顔を寄せる。
まんざらでもない表情で、ヤヒコはナターリアの長い髪を撫でながらぽつりと呟く。
「まぁ、泡になることすら躊躇わなかったのだからな……」
だが、泡になって消えてしまうのだけは勘弁しておくれとヤヒコに抱きしめられ、ナターリアは口づけを返す。重なりあう口唇は啄むようなものからやがて舌を絡ませる深いものへと変わり、やがて口づけだけでは物足りないとふたたび身体を密着させていく。
「ンっ」
「ナターリア。覚悟しろよ……いいな」
「……はい」
もう決めたのだ。
これから人間として、ヤヒコとともに生きていくことを。
人魚としての自分を捨ててでも、白虎の獣人である彼を傍で支えていたいから。
彼とのあいだに、愛する子を腕に抱ける日を、夢見ながら。
そしてふたりはふたたび愛の海に、溺れていく。
――fin.
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