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chapter,5 Australia
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* * *
「わあ……! ここが船のうえだなんて信じられない」
「さすがハゴロモだな」
カナトに連れられてプレミアムスイートルームのバルコニーから外階段をのぼったマツリカは、船上の巨大プールを前に歓声をあげる。泳ぐことは嫌いじゃない。小さい頃は毎日のように海で泳いで過ごしていたから……けれど、海で泳いだ記憶はどこかちぐはぐしていて、完全には思い出せない。
おそるおそるプールサイドに腰かけて、マツリカは足をいれる。ゆうらりと水面が波立つ。そのまま腰を落とせばちゃぷん、と小さな水音が周囲に響く。カナトはその様子をどこか楽しそうに見つめている。
「冷たっ……」
「水のなかに入った気分はどうかな? 俺の人魚姫」
「人魚なんかじゃないよ、あたし……っ」
――あれ、なんだかこんなやりとり、ずいぶんむかしに誰かとしたような……?
「十五年前。俺がはじめて貴女を見つけたとき……貴女は楽しそうにシンガポールの海で泳いでいた。まるで人魚のように」
困惑するマツリカを追い詰めるように、カナトの声が内耳に届く。
いつの間にか彼もプールのなかに身体を沈めて、マツリカの近くまですいすいと泳いできた。人魚のようだと言っているカナトの方がフォームが綺麗だと感じたマツリカだが、彼はマツリカのことを「俺の人魚姫」なんて呼ぶ。
上半身はだかの彼の姿を見たのは、マツリカが彼専属のコンシェルジュとして傍で生活するようになった日以来だ。船のなかでも時間があればジムで汗を流していることもあり、彼の肉体はほどよく引き締まっている。海上で長期の任務に赴いていた経験もあるから、体力には自信があるのだろう。プールの水滴を弾く胸板を前に、マツリカは赤面する。
「カナト」
「青い目の人魚に俺は魅入られた……覗き込みたいと思った」
両肩を抱かれて、そのまま漆黒の双眸に見つめられたマツリカは、思わず瞳をとじてしまう。
カナトが瞳をとじたマツリカの顎に手をかけ、そのまま唇を重ねていく。
「ン――……?」
「気がついた? 船のなかでは水は貴重だから、プールの水は汲み上げた海水を循環させて利用しているんだよ」
「だからほんのりしょっぱいのね」
「塩辛いキスは嫌い?」
カナトの茶化すような問いかけに、マツリカは既視感を抱く。
十五年前。シンガポール。夏。海水浴。
自分が泳ぐ姿を人魚みたいと口にしてくれたお兄さん。
しょっぱい記憶。溺れた人魚は「彼」が助けてくれた。バパじゃなくて。
それからふたりで見に行った、「とっておきの場所」。
夕暮れとともにライトアップされたタンカービュー。
その、ロマンチックな情景は「誰」と一緒に見たんだっけ……?
そして「彼」はマツリカに何か大切な言葉をくれた気がする。
それが嬉しくて、マツリカは素直に頷いたのだ。大切な約束。
――しょっぱいキスとともに。
「!?」
「マツリカ?」
「……思い出した、かも」
スコールが降ったあとの夕暮れ時。実父に連れられてふだん行かない海水浴場に行って、無様に溺れたマツリカは、そのとき近くにいたハイスクールのお兄さんに助けてもらったと思っていた。はなしをきいたら自分とふたつみっつしか年齢が離れてなくて、しかも彼の正体は……
「Anak raja perkapalan――あのときの海運王の息子、よね?」
「世の中にそんなにたくさん海運王の息子がいたらたまったもんじゃないよ」
「アッ」
マツリカの肩を抱いていた彼の手がしゅるりと下へおりていく。水着越しに胸元のラインをくすぐられて、思わず甘い声をあげるマツリカを見つめながら、彼は容赦なく肩紐を落として、隠れていたふたつの果実を外へ出す。まろびでた乳房を両手で抱え込んで、プールのなかで揉みこめば、信じられないとマツリカが顔を真っ赤にしながら声をあげる。
「ンっ、カナト……ここ外ッ」
「俺とマツリカだけのプライベートプールだよ。誰も邪魔しない」
「で、でもぉ」
「ぜんぶ思い出してくれるまでこの手は止めないから」
「そんなっ……アンっ、ダメぇ」
「身体は嫌がってないよ」
容赦なく指先で乳首を捻り、尖端を膨らませたカナトは、そのまま顔を寄せてちろちろと舌で敏感な場所をくすぐっていく。プールにはいった状態で水着を半分脱がされたマツリカは、甘い刺激に翻弄されながら、幼い頃の記憶を掘り起こしていく。海運王の息子と交わした約束は、なんだっけ……?
いつしか彼の手は胸だけでなく下半身にも伸びていた。水着の生地越しに足の付け根に指がふれた瞬間、敏感な場所が擦れて痺れるような快感が沸き上がる。
視界が真っ白に染まり、脳髄まで電流が走るかのような絶頂。同時に、閉じられていた記憶の蓋が開きだす。脳裡に流れ込んでくる映像を再生しながら、ガクガク足を震わせて達した彼女はカナトに身体を委ね、荒い息を吐いていた。
「あのとき、俺が貴女に言ったこと、覚えてる?」
「け、結婚、しよ……って」
「正解」
ほんのり塩辛いプールのなかで、強制的に身体を暴かれ彼に抱き抱えられた状態で快楽を与えられたマツリカは、カナトに求められるがまま、しょっぱくなった唇を差し出した。
「わあ……! ここが船のうえだなんて信じられない」
「さすがハゴロモだな」
カナトに連れられてプレミアムスイートルームのバルコニーから外階段をのぼったマツリカは、船上の巨大プールを前に歓声をあげる。泳ぐことは嫌いじゃない。小さい頃は毎日のように海で泳いで過ごしていたから……けれど、海で泳いだ記憶はどこかちぐはぐしていて、完全には思い出せない。
おそるおそるプールサイドに腰かけて、マツリカは足をいれる。ゆうらりと水面が波立つ。そのまま腰を落とせばちゃぷん、と小さな水音が周囲に響く。カナトはその様子をどこか楽しそうに見つめている。
「冷たっ……」
「水のなかに入った気分はどうかな? 俺の人魚姫」
「人魚なんかじゃないよ、あたし……っ」
――あれ、なんだかこんなやりとり、ずいぶんむかしに誰かとしたような……?
「十五年前。俺がはじめて貴女を見つけたとき……貴女は楽しそうにシンガポールの海で泳いでいた。まるで人魚のように」
困惑するマツリカを追い詰めるように、カナトの声が内耳に届く。
いつの間にか彼もプールのなかに身体を沈めて、マツリカの近くまですいすいと泳いできた。人魚のようだと言っているカナトの方がフォームが綺麗だと感じたマツリカだが、彼はマツリカのことを「俺の人魚姫」なんて呼ぶ。
上半身はだかの彼の姿を見たのは、マツリカが彼専属のコンシェルジュとして傍で生活するようになった日以来だ。船のなかでも時間があればジムで汗を流していることもあり、彼の肉体はほどよく引き締まっている。海上で長期の任務に赴いていた経験もあるから、体力には自信があるのだろう。プールの水滴を弾く胸板を前に、マツリカは赤面する。
「カナト」
「青い目の人魚に俺は魅入られた……覗き込みたいと思った」
両肩を抱かれて、そのまま漆黒の双眸に見つめられたマツリカは、思わず瞳をとじてしまう。
カナトが瞳をとじたマツリカの顎に手をかけ、そのまま唇を重ねていく。
「ン――……?」
「気がついた? 船のなかでは水は貴重だから、プールの水は汲み上げた海水を循環させて利用しているんだよ」
「だからほんのりしょっぱいのね」
「塩辛いキスは嫌い?」
カナトの茶化すような問いかけに、マツリカは既視感を抱く。
十五年前。シンガポール。夏。海水浴。
自分が泳ぐ姿を人魚みたいと口にしてくれたお兄さん。
しょっぱい記憶。溺れた人魚は「彼」が助けてくれた。バパじゃなくて。
それからふたりで見に行った、「とっておきの場所」。
夕暮れとともにライトアップされたタンカービュー。
その、ロマンチックな情景は「誰」と一緒に見たんだっけ……?
そして「彼」はマツリカに何か大切な言葉をくれた気がする。
それが嬉しくて、マツリカは素直に頷いたのだ。大切な約束。
――しょっぱいキスとともに。
「!?」
「マツリカ?」
「……思い出した、かも」
スコールが降ったあとの夕暮れ時。実父に連れられてふだん行かない海水浴場に行って、無様に溺れたマツリカは、そのとき近くにいたハイスクールのお兄さんに助けてもらったと思っていた。はなしをきいたら自分とふたつみっつしか年齢が離れてなくて、しかも彼の正体は……
「Anak raja perkapalan――あのときの海運王の息子、よね?」
「世の中にそんなにたくさん海運王の息子がいたらたまったもんじゃないよ」
「アッ」
マツリカの肩を抱いていた彼の手がしゅるりと下へおりていく。水着越しに胸元のラインをくすぐられて、思わず甘い声をあげるマツリカを見つめながら、彼は容赦なく肩紐を落として、隠れていたふたつの果実を外へ出す。まろびでた乳房を両手で抱え込んで、プールのなかで揉みこめば、信じられないとマツリカが顔を真っ赤にしながら声をあげる。
「ンっ、カナト……ここ外ッ」
「俺とマツリカだけのプライベートプールだよ。誰も邪魔しない」
「で、でもぉ」
「ぜんぶ思い出してくれるまでこの手は止めないから」
「そんなっ……アンっ、ダメぇ」
「身体は嫌がってないよ」
容赦なく指先で乳首を捻り、尖端を膨らませたカナトは、そのまま顔を寄せてちろちろと舌で敏感な場所をくすぐっていく。プールにはいった状態で水着を半分脱がされたマツリカは、甘い刺激に翻弄されながら、幼い頃の記憶を掘り起こしていく。海運王の息子と交わした約束は、なんだっけ……?
いつしか彼の手は胸だけでなく下半身にも伸びていた。水着の生地越しに足の付け根に指がふれた瞬間、敏感な場所が擦れて痺れるような快感が沸き上がる。
視界が真っ白に染まり、脳髄まで電流が走るかのような絶頂。同時に、閉じられていた記憶の蓋が開きだす。脳裡に流れ込んでくる映像を再生しながら、ガクガク足を震わせて達した彼女はカナトに身体を委ね、荒い息を吐いていた。
「あのとき、俺が貴女に言ったこと、覚えてる?」
「け、結婚、しよ……って」
「正解」
ほんのり塩辛いプールのなかで、強制的に身体を暴かれ彼に抱き抱えられた状態で快楽を与えられたマツリカは、カナトに求められるがまま、しょっぱくなった唇を差し出した。
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