若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

ささゆき細雪

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chapter,3 Hawaii

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   * * *


『あたし、キスしたことないの……』

 カナトとのシンガポールでの出逢いを忘れているのだから、十五年前に交わした結婚の約束と一緒に塩辛いキスをしたこともすっかり忘れているだろう。そう考えていたカナトだったが、まさか他の異性ともキスしたことがないとは思いもしなかった。恥ずかしそうに伝えてきた彼女に思わず「嬉しい」なんて口にしてしまったから、怪訝そうな顔をされてしまった。そのあげく、「女のひとを喜ばせる言葉は大切にしろ」だとか「コンシェルジュには不適切」だとか減らず口を叩いてくる。

 ――俺はマツリカだからキスしたいんだし、その先だって求めているんだよ。

「んっ……」
「鼻で息をするんだ……そう、上手だね」

 カナトは抵抗する彼女を封じ込めるようにソファの上に彼女の身体を沈ませて、やさしく啄むようなキスを唇に何度もしたかと思えば、次第に口唇をふれあわせる時間を伸ばしていき、ついには時間を止めるような口づけを成功させる。
 呼吸困難に陥りそうな彼女を宥めながら、自分のために着替えたワンピース越しに身体のラインをなぞっていけば、マツリカは驚いたように身体を震わせる。

「はっ、カナト……?」
「嫌だったら言うんだよ」

 キスを繰り返されていくうちに、あたまのなかがぼぉっとしてきたマツリカは、彼がこれから何をしようとしているのかわからないまま、ワンピースごしに胸のふくらみにふれられて思わず甘い声をあげてしまう。

「はぅ……ンッ」
「かわいい……」
「やだ、あたし……っ」
「恥ずかしがらないで。どうせここにいるのは俺とマツリカのふたりだけなんだから。ねえ、気持ちいい声、もっと聞かせて?」

 海色のワンピースの下に着ているのもまた、カナトが用意させたレースがふんだんにつかわれた淡い紫色の下着だった。ワンピースのおおきくひらかれた襟元から覗く清楚で淫らな下着が、彼を追い詰めていることにマツリカは気づいていない。

「ンッ」
「マツリカは俺の恋人だから、キスされて愛撫されて気持ちよく啼いてくれればいいんだよ」
「そんなっ」
「今日は初日だからこのくらいにするけど、すこしずつ練習で慣らしていこうね」

 キスだってはじめてだったんだから、とくすくす笑いながらカナトに額に唇を寄せられてマツリカは顔を真っ赤にする。

「こ、こんなの恋人役に求めないでよ……」

 緊張して心臓が爆発しそうなのに、カナトは平然とした表情でマツリカの身体を暴いていく。
 弱音を吐く彼女の姿を前に、彼はイタズラっぽく笑う。

「いいね、その顔。すごくそそる」
「っ!?」

 ふたたびキスされる。角度を変えながら、唇の柔らかさを堪能するようなカナトのテクニックに、初心者のマツリカは溺れていく。キスだけで、気持ちいい。舌先でちろりと舐められて、なぜかお腹のしたの方がゾクゾクしてくる。ワンピース越しにふれられた胸の尖端が凝っていることに気づかないまま、マツリカはカナトに顎をつかまれて、舌を絡ませるキスをする。こんなキス、知らない。お互いの唾液が蜘蛛の銀糸のようにつぅ、と唇の端を垂れていく。恥ずかしいのに、どうしてだろう、もっと欲しいとマツリカの心は騒いでいる。

「もっとほしいなら、このまま俺の恋人になっちゃえ」

 マツリカの表情を読んだかのように、カナトが意地悪する。
 彼のキスが上手すぎるからいけないんだと、マツリカは言い返そうとして、けっきょく彼に塞がれる。まるで磁石のS極とN極のように。いちどぴたりとくっつくとはなれることができなくなるみたいに――ふたりは練習という名のキスを深めていく。

 この日の朝のマツリカは、ただただ彼の口づけに酔い痴れることしかできなかったのだった。
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