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12話
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馬車で何日か進んだ。
スヴェンさん(忘れてるかもしれないが奴隷商人)が言うには、そろそろ着くそうだ。
この馬車での旅は意外と退屈に見えて楽しかった。
フラン以外にも話し相手がいるのは嬉しい。
たまにフランが嫉妬して俺に甘えて来たりもして、とても充実していた。
夜の暇な時間は魔法を考えたり練習した。
ご飯は俺たちは食べなくてもいいが食べた。
魔法鞄と嘘をついて、アイテムボックスから美味しい物を出して食べたのはご愛嬌だ。
それを羨ましそうに眺められて他の人達の分も出したのは当然だろう。
馬車の旅も、たまに魔物を倒したりして順調に進んでいた。
だが、ただいまトラブルに遭遇している。
別にそっちの方のToLOVE〇が起きた訳では無い。
「結構な数に囲まれてるね」
そう、俺の魔法で人に囲まれているのかわかった。
少し先に結構な数の待ち伏せがいる。
きっと正面にたくさんいると見せかけて一気に横から叩く気だろう。
「先に殲滅しちゃうかな......。 みんなは馬車を守っといてね。 僕はさっさと殺ってくるから」
俺は興奮気味にそう言った。
俺は何故か早く殺したい衝動に駆られていた。
生き物を殺すことは昔から好きだった。
でも、人間を殺したのはこの世界に来て初めてだ。
今だって、みんなで倒しに行った方が効率がいいだろう。
なのに一人を選んだ。
俺は人を殺すのが好きなんだろう......。
俺は敵の所に走って向かった。
盗賊と思われる奴らは中々いい装備を付けていた。
悪い装備のやつもいるが、やはり全体的にいい装備だ。
「なんだ、お前一人か。 結構な数の奴隷を運んでいるから何人も雇っていると思っていたが......これは好都合だぜ」
この中ではかなりいい装備を着た俺と同い年くらいの男の子がそう言った。
その人物は黒髪黒目で、髪はボサボサだった。
目は鋭く、かなり口角が釣り上がっている。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
俺がそう言うと、その青年は顔を不機嫌そうに歪めた。
「そんなのお前に関係ないだろ! お前らさっさと殺しにかかれ!」
青年がそう言うと、他の盗賊が襲いかかっきた。
俺はその人達に指を向けると、銃のような魔法を放った。
だが、それは前のとは違い、目にも止まらぬ速さで打ち出された魔法。
それに撃たれた盗賊の腹には丸く綺麗に風穴が空いていた。
音は風穴が空いてから少し後に聞こえ、他の盗賊達は何が起きたのか分からないようだ。
そして、盗賊達は倒れた仲間を見ると、怯えたような表情をして固まった。
だが、すぐにこちらに向かってきた。
「早く殺せぇぇ!! そいつが魔法を使う前に殺すんだ!」
だが、走り出した人達の腹にも綺麗な後があり、男の子以外のその場にいた全員が倒れた。
俺は青年の近づいていき話しかけた。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
男の子は顔面蒼白で歯はカチカチと音を鳴らしている。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
「そ、それは俺がそれを望んだからだ」
「どうして?」
「俺は勇者の召喚に巻き込まれたんだ。 ただ友達の家に遊びに行こうとしただけなんだ。 そうしてあいつらに出会ってしまったんだ。 ただ通りかかっただけ。 通りかかっただけなのにいつの間にか建物の中にいた。 それから魔王を倒せだの言われて訓練させられた。 でも、俺には普通の人よりも少しだけ身体能力と魔力が高いだけだった。 それから帝国は俺が勇者の足枷になるからと俺を追い出したんだ! それからもうこの国には足を踏み入れるな......と。 そして出会ったのが今お前が殺した人達だよ」
青年は脱力しながらそう言った。
「別に帝国に入ってもバレないんじゃないの?」
俺がそう言うと青年は首を振った。
「門番がいて、俺が通ろうとすると蹴り飛ばしてくるんだ。 本当にクソだ! あんな奴ら死んでしまえばいい!」
青年はそう言って地面を叩いた。
「そうなんだ...仕返しするとしたらどんなことがしたい?」
「俺は......俺は帝国の貴族と兵を皆殺しにしたい」
「そう......君は自分で殺したいのかい? それとも僕がやろうか?」
「俺は......自分で殺したい。 でも、でも......力がない。 俺にはどうすればいいのか分からいんだ」
「そう......本当に出来ないかな? 少しずつなら君でも出来るかもしれないじゃないか。 この世界には闇ギルドがある。 ならそこから少しずつ掌握していく。 盗賊も出来たんだろう? ならできるさ。 貴族だって皆殺しにしなくても別に構わないだろう? 君の件に関わっているやつだけでも......兵なら魔王に殺させればいい。 例えば魔王軍にこっちの情報を与える......とかね。 他にもたくさん方法はあるだろう。 君はそれでも止まるのかい? 門番をやり過ごす方法は本当にないのかい? 僕にはあると思う。 君はそれでも諦めるかい?」
青年は俺の目を見て話を聞いていた。
それから涙を流し、嬉しそうな、そして昏い表情を浮かべた。
「ありがとう......なんて仲間を殺されたやつの言葉じゃないんだろうがそう言うよ。 元々お前を俺は殺そうとしたんだ。 それに、俺は諦めていただけだ。 いくらでも方法なんてあったのに......。 俺、頑張るよ。 いつかみんな殺して復讐する」
「そう......役に立てたなら良かったよ。 町の中に入れないなら僕が入れてあげるよ」
青年はその言葉に戸惑った様子だったが、素直に頷いた。
「よし、なら君はしばらくそこで待機しててね。 僕今馬車で移動してるんだけど、それが町に着くまでは出来なくてね。 実はまだ王都に言ったことがないんだ。 だから少し待っていてね」
「わかった。 できるだけ早くしてくれよ?」
俺は頷いて次の敵を殺しに向かった。
「貴方、何していたの? 敵かなり残っていたわよ? 私達が殺したけど」
フランが心配そうな表情を浮かべながらそう聞いてきた。
「いや、別に......ちょっと面白いやつに会ったから話していたんだよ」
「そう、そいつは殺したの?」
俺はそれに対して首を振った。
「いや、生きてるよ。 でも、憎む事ができるなんて......いや。なんでもないや......。 それにしても、敵ごめんね。 フランありがとう。 何かして欲しいこととかある?」
俺がそう聞くと、フランは艶やかな表情を浮かべて俺を見つめた。
「なら、キスでもしてもらおうかしら?」
フランのその言葉に俺は反射的に唇を近づけ、そのまま口付けをした。
しばらく満足に出来なかったため、かなり長い時間した。
それは、マリーが呼びに来るまで続いた。
俺達を見たマリーが怒声を飛ばしたのは仕方のない事だろう。
それから他の人達は呆れた様子でそれを見ていたことも分かりきった事だろう。
俺はそんな様子を見て日本にいる人達は今何をしているだろう、そんな事を考えていた。
馬車に乗ること数時間。
外壁に囲まれた町が見えてきた。
俺はその様子にやっとかと心の中で溜息をついた。
「それにしても、遠回りじゃなかったかな?」
「いえ、確かに遠回りですけど、それには訳があるんですよ…。 遠回りをしたのはフェンリルのいる山があったからですよ。 フェンリルに会うとみんな殺されてしまうと聞いてます。 」
「フェンリル......? それってどんなのかな?」
「フェンリルは白い大きな狼で、とても速いみたいです。 話すことも出来るそうですが、大抵は話す前に殺してくるみたいです。」
「そんな厄介なのなんで生かしているの?」
すると、フランは困ったような表情をして。
「フェンリルはとても強いみたいです。 昔の勇者が討伐に向かったのですが、攻撃を当てることすら出来なかったみたいで、危うく殺されかけてもうフェンリルは放っておくことにしたみたいです」
それは少し気になるな。
時間があったら行ってみよう。
「ありがとう。 話が聞けて良かったよ」
「私もお役に立てて良かったです」
マリーはそう言って微笑んだ。
やはり女性の微笑みは中々心を揺さぶられる。
それから馬車は町に入った。
「スヴェンさん、ありがとうございました。 マリーもまた今度ね。 それといろいろありがとう。 次は武闘大会で会えるといいね」
「もうお別れですか......。 でも絶対またお会いしましょうね! それと大会では負けませんから!」
フランは悲しげな顔から一変して笑顔でそう言った。
「他のみんなもまたね」
「おう、お前も武闘大会忘れるなよ!」
カーシーは笑顔でそう言った。
ロニーは少し俺のことを睨んでいるが、気にしない。
俺は頷いてフランと一緒に町を巡ることにした。
デートだろう。
だが、普段ずっと一緒にいると、デートかどうかが分からなくなる。
まぁ、フランが楽しげな様子だったから大丈夫なんだろう。
そんないい雰囲気は、たまたま出会った変態によって壊された。
路地裏を見ると、一人の青年がパンツ一丁で倒れていた。
俺とフランは見なかったことにしてスルーしようとしたが、いつの間にか足を掴まれていた。
俺は離れさせようと足を振るが、中々離れない。
フランは気味が悪そうなものを見る目だ。
「ちょっと離してくれないか?」
俺は仕方なく話しかけた。
「待ってくれ! わいがはこんな格好をしているのは取られたからなんや! 後で返すから着替えを持ってきてくれや!」
「嫌ですよ。 他に当たってください」
「兄ちゃん、頼むよぉ」
「仕方ないですね。 はい、もうこれでいいですね?」
俺はアイテムボックスから服を取り出してその青年の上に落とした。
「お! ホンマに助かったで兄ちゃん。 少し着替えるから待っといてくれ」
俺は青年が着替えている間に足早に別の所に向かおうとしたが、すぐに肩を掴まれた。
「兄ちゃん、置いていくんはないと思うで? それでも人なんか? えぇ?」
本当に面倒くさそうかやつだ。
「服は既に渡したでしょう?」
「一度は無視しようしたやないか。 まあ、そこらで飯でも食べようや。 わいはもう腹が減ったで」
「たかる気ですか!? 僕よりも遥かにあなたの方が図太いじゃないですか!? 日本ではそんなやついませんよ?」
「まあ、いいやないか。 兄ちゃんどうせ金持ちやろう? ならわいに奢るくらい全然問題あらへんやろ?」
「はぁ、仕方ないですね......。 わかりました。 店は好きなところでいいです」
「お、ほんまかいな! なら前から行きとうとこがあったんや。 そこに行くで。 さあ、こっちや、着いてきい!」
青年はそう言って嬉々として歩いていった。
俺はフランと顔を見合わせると、溜息をついて付いていった。
「着いたでー!」
青年がそう言って叫んだ。
俺は青年が行きたいと言った店を見ると、呆れてしまった。
それはかなり綺麗なお店で、言わゆる高級店と言われる場所だ。
俺はそこに入る直前で大事な事を思い出した。
さっきの盗賊の青年忘れてた!と。
「少し待っていてくれ。 もう一人連れが居るんだ。 フランも少し待っといてくれ」
「わかったけど、早うもどってこいよ?」
その言葉にうっかり手を滑らせて殺ってしまいそうになるが、俺は無視することにした。
「分かってるよ。 フランもそいつになんかされたら殺さない程度に......ね?」
「はぁ、分かってるわよ。 さすがにこんな人気の多い場所で殺ったりしないわ」
「やる!? まさか、そちらの別嬪さんは痴女なんか!? 別にわいは外でも......ゴホッ!」
青年はフランに腹を殴られ、その場に白目を剥いて倒れた。
フランは今のでかなり怒った様子だ。
俺はそそくさとその場を立ち去った。
俺は人通りの少ない場所まで来ると、転移してさっきの青年がいた場所に来た。
すると、青年は呆けた様子でこっちを見た。
「やっとかよ......。 もう来ないんじゃないかって思ってたぞ」
「いやぁ、ごめんごめん。 デートしてて忘れてた」
「はぁ!? こっちはここから動かずにずっと待ってたんだぞ!?」
「ハイハイ、だからごめんって言ってるじゃん。 今からお詫びにご飯奢るから......さ?」
「ふん、まあ、許してやるよ」
「よし、なら先に自己紹介と行こうか。 僕はルーアン。 君は?」
「俺は藁科 慎也(わらしな しんや)だ」
「うん、わかった。 じゃあ行こうか」
俺はそう言ってさっきの場所に転移した。
「やっぱりお前、それ無詠唱だよな? どうやってるんだ?」
「これ? 知らないよ。 初めから無詠唱で出来たから。 逆に詠唱しているのがなんで?って感じだけど」
「マジかよ」
「今から二人いるけど、片方は怒らせないでね? 本当に怖いから」
「わかったよ......それにしてもお前みたいなのが他にも居るのかよ」
慎也は戦慄した様子で呟いた。
「いや、そうゆうことではないけどね」
俺は曖昧な笑みを浮かべながら店に向かった。
店に着くと、変態はボロボロな様子で倒れていた。
少しも動いていないため、死んでるようにも見える。
「あれか? お前の連れ......。 一人死んでないか?」
「さあ? まあ、魔法かけてみるよ」
俺はそう言って変態に近づき魔法をかけた。
それから少し待つと、立ち上がって俺を睨んだ。
「ちょっと兄ちゃんの連れ痴女なんかじゃないやないか! どうしてくれるん? あと少しで死にかけたんやけど......。 そんで腕とか折れてるように感じたが、気のせいやろか?」
「気のせいじゃない? それにフランの事を一言も痴女なんて言った覚えはないけど?」
「くぅー、騙されてもうた!」
「いや、騙してないんだけど......」
「それで、貴方は私にこの変態と一緒に居させて、連れてきた人がそんなやつなのかしら?」
フランは慎也を一瞥してからそう言った。
フランに見られた慎也は少し固まっている。
「まぁ、話は店に入ってからでいいよね?」
俺はそう言って店の中に向かった。
スヴェンさん(忘れてるかもしれないが奴隷商人)が言うには、そろそろ着くそうだ。
この馬車での旅は意外と退屈に見えて楽しかった。
フラン以外にも話し相手がいるのは嬉しい。
たまにフランが嫉妬して俺に甘えて来たりもして、とても充実していた。
夜の暇な時間は魔法を考えたり練習した。
ご飯は俺たちは食べなくてもいいが食べた。
魔法鞄と嘘をついて、アイテムボックスから美味しい物を出して食べたのはご愛嬌だ。
それを羨ましそうに眺められて他の人達の分も出したのは当然だろう。
馬車の旅も、たまに魔物を倒したりして順調に進んでいた。
だが、ただいまトラブルに遭遇している。
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少し先に結構な数の待ち伏せがいる。
きっと正面にたくさんいると見せかけて一気に横から叩く気だろう。
「先に殲滅しちゃうかな......。 みんなは馬車を守っといてね。 僕はさっさと殺ってくるから」
俺は興奮気味にそう言った。
俺は何故か早く殺したい衝動に駆られていた。
生き物を殺すことは昔から好きだった。
でも、人間を殺したのはこの世界に来て初めてだ。
今だって、みんなで倒しに行った方が効率がいいだろう。
なのに一人を選んだ。
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俺は敵の所に走って向かった。
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悪い装備のやつもいるが、やはり全体的にいい装備だ。
「なんだ、お前一人か。 結構な数の奴隷を運んでいるから何人も雇っていると思っていたが......これは好都合だぜ」
この中ではかなりいい装備を着た俺と同い年くらいの男の子がそう言った。
その人物は黒髪黒目で、髪はボサボサだった。
目は鋭く、かなり口角が釣り上がっている。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
俺がそう言うと、その青年は顔を不機嫌そうに歪めた。
「そんなのお前に関係ないだろ! お前らさっさと殺しにかかれ!」
青年がそう言うと、他の盗賊が襲いかかっきた。
俺はその人達に指を向けると、銃のような魔法を放った。
だが、それは前のとは違い、目にも止まらぬ速さで打ち出された魔法。
それに撃たれた盗賊の腹には丸く綺麗に風穴が空いていた。
音は風穴が空いてから少し後に聞こえ、他の盗賊達は何が起きたのか分からないようだ。
そして、盗賊達は倒れた仲間を見ると、怯えたような表情をして固まった。
だが、すぐにこちらに向かってきた。
「早く殺せぇぇ!! そいつが魔法を使う前に殺すんだ!」
だが、走り出した人達の腹にも綺麗な後があり、男の子以外のその場にいた全員が倒れた。
俺は青年の近づいていき話しかけた。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
男の子は顔面蒼白で歯はカチカチと音を鳴らしている。
「君はどうして盗賊なんかしてるの?」
「そ、それは俺がそれを望んだからだ」
「どうして?」
「俺は勇者の召喚に巻き込まれたんだ。 ただ友達の家に遊びに行こうとしただけなんだ。 そうしてあいつらに出会ってしまったんだ。 ただ通りかかっただけ。 通りかかっただけなのにいつの間にか建物の中にいた。 それから魔王を倒せだの言われて訓練させられた。 でも、俺には普通の人よりも少しだけ身体能力と魔力が高いだけだった。 それから帝国は俺が勇者の足枷になるからと俺を追い出したんだ! それからもうこの国には足を踏み入れるな......と。 そして出会ったのが今お前が殺した人達だよ」
青年は脱力しながらそう言った。
「別に帝国に入ってもバレないんじゃないの?」
俺がそう言うと青年は首を振った。
「門番がいて、俺が通ろうとすると蹴り飛ばしてくるんだ。 本当にクソだ! あんな奴ら死んでしまえばいい!」
青年はそう言って地面を叩いた。
「そうなんだ...仕返しするとしたらどんなことがしたい?」
「俺は......俺は帝国の貴族と兵を皆殺しにしたい」
「そう......君は自分で殺したいのかい? それとも僕がやろうか?」
「俺は......自分で殺したい。 でも、でも......力がない。 俺にはどうすればいいのか分からいんだ」
「そう......本当に出来ないかな? 少しずつなら君でも出来るかもしれないじゃないか。 この世界には闇ギルドがある。 ならそこから少しずつ掌握していく。 盗賊も出来たんだろう? ならできるさ。 貴族だって皆殺しにしなくても別に構わないだろう? 君の件に関わっているやつだけでも......兵なら魔王に殺させればいい。 例えば魔王軍にこっちの情報を与える......とかね。 他にもたくさん方法はあるだろう。 君はそれでも止まるのかい? 門番をやり過ごす方法は本当にないのかい? 僕にはあると思う。 君はそれでも諦めるかい?」
青年は俺の目を見て話を聞いていた。
それから涙を流し、嬉しそうな、そして昏い表情を浮かべた。
「ありがとう......なんて仲間を殺されたやつの言葉じゃないんだろうがそう言うよ。 元々お前を俺は殺そうとしたんだ。 それに、俺は諦めていただけだ。 いくらでも方法なんてあったのに......。 俺、頑張るよ。 いつかみんな殺して復讐する」
「そう......役に立てたなら良かったよ。 町の中に入れないなら僕が入れてあげるよ」
青年はその言葉に戸惑った様子だったが、素直に頷いた。
「よし、なら君はしばらくそこで待機しててね。 僕今馬車で移動してるんだけど、それが町に着くまでは出来なくてね。 実はまだ王都に言ったことがないんだ。 だから少し待っていてね」
「わかった。 できるだけ早くしてくれよ?」
俺は頷いて次の敵を殺しに向かった。
「貴方、何していたの? 敵かなり残っていたわよ? 私達が殺したけど」
フランが心配そうな表情を浮かべながらそう聞いてきた。
「いや、別に......ちょっと面白いやつに会ったから話していたんだよ」
「そう、そいつは殺したの?」
俺はそれに対して首を振った。
「いや、生きてるよ。 でも、憎む事ができるなんて......いや。なんでもないや......。 それにしても、敵ごめんね。 フランありがとう。 何かして欲しいこととかある?」
俺がそう聞くと、フランは艶やかな表情を浮かべて俺を見つめた。
「なら、キスでもしてもらおうかしら?」
フランのその言葉に俺は反射的に唇を近づけ、そのまま口付けをした。
しばらく満足に出来なかったため、かなり長い時間した。
それは、マリーが呼びに来るまで続いた。
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それから他の人達は呆れた様子でそれを見ていたことも分かりきった事だろう。
俺はそんな様子を見て日本にいる人達は今何をしているだろう、そんな事を考えていた。
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「それにしても、遠回りじゃなかったかな?」
「いえ、確かに遠回りですけど、それには訳があるんですよ…。 遠回りをしたのはフェンリルのいる山があったからですよ。 フェンリルに会うとみんな殺されてしまうと聞いてます。 」
「フェンリル......? それってどんなのかな?」
「フェンリルは白い大きな狼で、とても速いみたいです。 話すことも出来るそうですが、大抵は話す前に殺してくるみたいです。」
「そんな厄介なのなんで生かしているの?」
すると、フランは困ったような表情をして。
「フェンリルはとても強いみたいです。 昔の勇者が討伐に向かったのですが、攻撃を当てることすら出来なかったみたいで、危うく殺されかけてもうフェンリルは放っておくことにしたみたいです」
それは少し気になるな。
時間があったら行ってみよう。
「ありがとう。 話が聞けて良かったよ」
「私もお役に立てて良かったです」
マリーはそう言って微笑んだ。
やはり女性の微笑みは中々心を揺さぶられる。
それから馬車は町に入った。
「スヴェンさん、ありがとうございました。 マリーもまた今度ね。 それといろいろありがとう。 次は武闘大会で会えるといいね」
「もうお別れですか......。 でも絶対またお会いしましょうね! それと大会では負けませんから!」
フランは悲しげな顔から一変して笑顔でそう言った。
「他のみんなもまたね」
「おう、お前も武闘大会忘れるなよ!」
カーシーは笑顔でそう言った。
ロニーは少し俺のことを睨んでいるが、気にしない。
俺は頷いてフランと一緒に町を巡ることにした。
デートだろう。
だが、普段ずっと一緒にいると、デートかどうかが分からなくなる。
まぁ、フランが楽しげな様子だったから大丈夫なんだろう。
そんないい雰囲気は、たまたま出会った変態によって壊された。
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俺は離れさせようと足を振るが、中々離れない。
フランは気味が悪そうなものを見る目だ。
「ちょっと離してくれないか?」
俺は仕方なく話しかけた。
「待ってくれ! わいがはこんな格好をしているのは取られたからなんや! 後で返すから着替えを持ってきてくれや!」
「嫌ですよ。 他に当たってください」
「兄ちゃん、頼むよぉ」
「仕方ないですね。 はい、もうこれでいいですね?」
俺はアイテムボックスから服を取り出してその青年の上に落とした。
「お! ホンマに助かったで兄ちゃん。 少し着替えるから待っといてくれ」
俺は青年が着替えている間に足早に別の所に向かおうとしたが、すぐに肩を掴まれた。
「兄ちゃん、置いていくんはないと思うで? それでも人なんか? えぇ?」
本当に面倒くさそうかやつだ。
「服は既に渡したでしょう?」
「一度は無視しようしたやないか。 まあ、そこらで飯でも食べようや。 わいはもう腹が減ったで」
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「まあ、いいやないか。 兄ちゃんどうせ金持ちやろう? ならわいに奢るくらい全然問題あらへんやろ?」
「はぁ、仕方ないですね......。 わかりました。 店は好きなところでいいです」
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俺はフランと顔を見合わせると、溜息をついて付いていった。
「着いたでー!」
青年がそう言って叫んだ。
俺は青年が行きたいと言った店を見ると、呆れてしまった。
それはかなり綺麗なお店で、言わゆる高級店と言われる場所だ。
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フランは今のでかなり怒った様子だ。
俺はそそくさとその場を立ち去った。
俺は人通りの少ない場所まで来ると、転移してさっきの青年がいた場所に来た。
すると、青年は呆けた様子でこっちを見た。
「やっとかよ......。 もう来ないんじゃないかって思ってたぞ」
「いやぁ、ごめんごめん。 デートしてて忘れてた」
「はぁ!? こっちはここから動かずにずっと待ってたんだぞ!?」
「ハイハイ、だからごめんって言ってるじゃん。 今からお詫びにご飯奢るから......さ?」
「ふん、まあ、許してやるよ」
「よし、なら先に自己紹介と行こうか。 僕はルーアン。 君は?」
「俺は藁科 慎也(わらしな しんや)だ」
「うん、わかった。 じゃあ行こうか」
俺はそう言ってさっきの場所に転移した。
「やっぱりお前、それ無詠唱だよな? どうやってるんだ?」
「これ? 知らないよ。 初めから無詠唱で出来たから。 逆に詠唱しているのがなんで?って感じだけど」
「マジかよ」
「今から二人いるけど、片方は怒らせないでね? 本当に怖いから」
「わかったよ......それにしてもお前みたいなのが他にも居るのかよ」
慎也は戦慄した様子で呟いた。
「いや、そうゆうことではないけどね」
俺は曖昧な笑みを浮かべながら店に向かった。
店に着くと、変態はボロボロな様子で倒れていた。
少しも動いていないため、死んでるようにも見える。
「あれか? お前の連れ......。 一人死んでないか?」
「さあ? まあ、魔法かけてみるよ」
俺はそう言って変態に近づき魔法をかけた。
それから少し待つと、立ち上がって俺を睨んだ。
「ちょっと兄ちゃんの連れ痴女なんかじゃないやないか! どうしてくれるん? あと少しで死にかけたんやけど......。 そんで腕とか折れてるように感じたが、気のせいやろか?」
「気のせいじゃない? それにフランの事を一言も痴女なんて言った覚えはないけど?」
「くぅー、騙されてもうた!」
「いや、騙してないんだけど......」
「それで、貴方は私にこの変態と一緒に居させて、連れてきた人がそんなやつなのかしら?」
フランは慎也を一瞥してからそう言った。
フランに見られた慎也は少し固まっている。
「まぁ、話は店に入ってからでいいよね?」
俺はそう言って店の中に向かった。
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異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
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信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
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