上 下
1 / 7

一話

しおりを挟む
 「いってらっしゃーい」

 そんな母親の声を聞きながら俺は今日も学校に向かった。  今年の春から高校生になり、もう9月になる。  今の生活に特に不満といった不満は無く、強いて言うなら夏休みがもっと長く続いていたら、と思う程度である。

 ただ、不満もなければ得にいいこともない。  趣味もなく、何となくで生きている毎日に飽き飽きしていた。

 そんな中歩いていると、急に足元が光、目の前が真っ暗になった。  そして、次の瞬間、体に急激な痛みが走った。

 そして俺は叫び声を上げる間もなく意識を飛ばした。





 「んぅ、どこだ…ここ?」

 目が覚めると俺はベッドに寝かされていた。  体を起こして周りを見ると、知らない部屋だった。

 床には高そうな絨毯が敷いてあり、壁は何かの石で造られている。  床もよく見てみると、絨毯の敷かれていない場所は石で造られているように見える。

 それらを見て分かるのは、ただ金がかかっていそうということだけだ。

 「確か学校に向かっている途中だったな。  急に目の前が真っ暗になって、それから…」

 俺はそれを思い出して身震いした。  その時の痛みを思い出したからだ。

 「病気?  でも、それにしては体がめちゃくちゃ元気な気がする。  まさか、ここの持ち主が治してくれたのか?  普通の病気では治らないような病気?  ・・・・・・もしかしたら大金請求されるかも」

 俺はそうも思ってため息を吐き、首をガックリと下げた。  すると、指に嵌っている二つの指輪が視界に入った。

 「何故指輪が?  それに、なんかめちゃくちゃ高価そうじゃん。  やべぇ。  絶対金毟るつもりだよ。  かーさん達は大丈夫かなぁ?  これで恨まれたら俺を治したやつを殺して俺も死のう」

 そんなことを考えていると、ドアが開き、メイド服を着た美人の女性が入ってきた。

 普段なら喜ぶところなんだろうがそれは出来ない。
 俺の事を笑顔で見ていることからきっと金が手に入るとでも考えているのだろう。  でなければ初対面の人に嘘偽りのない笑顔を向ける理由がない。

 終わった。

 どうせならこいつの雇い主が来てくれれば一緒に心中してやったものを、メイドを連れてくるなんて。  まさかここまで考えてメイドを寄越したのか?  くそっ!  なんて腹黒いんだ。  いや、まだ焦るな。  きっとこいつの雇い主に会う機会もあるだろう。  まずは情報収集が先だ。  それに、まだ金が必要だと決まったわけじゃない。

 「よかった。  お目覚めになられたんですね!」 

 けっ、そんなに金が大事か!

 「他の方々がお待ちです。  もう動けるのでしたらついてきて下さいますか?」

 「他の方々?  ・・・・・・まさか、母さん達を連れてきているのか?  くそっ!  わかった、ついて行くよ」

 「そ、それはよかったです」

 俺は少し肩が震えている女性の後ろをついて行く。  そうか。  きっとこの女性も怖いのだろう。俺もメイドさんにあたるのは間違い……か。  そもそもの原因は俺なんだしな。

 歩いている途中、なんか高そうな服を着た人が数人通りかかった。  そのたびメイドさんが頭を下げていたので俺も真似して下げておいた。  下卑た笑が聞こえたため、あまり良い奴ではないのだろう。

 だが俺はここに弱みを握られている。
 その身内か家族か知らないが下手に出て今の現状が悪化したら目も当てられない。

 少しすると着いたのか、メイドさんはドアをコンコンと叩き、ドアを開ける。  メイドさんはドアを開けただけで中には入らない。  どうやら俺が入るのを待っているのか、入るつもりはないようだ。

 俺は会釈をしてから中に入る。  すると、高校の制服を着た男子が二人、女子が二人居た。

 どういうことだ?

 俺の疑問を他所に、四人は俺に手を振ったりしている。

 「よかった、目が覚めたんだね」

 爽やかなイケメンがそう言った。

 「ああ、それでここはどこなんだ?」

 俺がそう聞くと、何故かイケメンが苦笑した。

 「異世界だそうだよ」

 「は?」

 「そうなるよね。  でも、異世界なんだよ」

 「ふーん、そうなんだ。  ここは異世界って名前のところなんだ。  で、地球のどこなんだ?」

 「だ、か、ら、異世界よ。  ここは地球じゃないのよ」

 少し目がきつい女性がそう言ってきた。  美人なんだが、今はそれに気にするほど心は穏やかじゃない。

 「嘘・・・だよな?」

 「嘘じゃないです」

 小柄な体格の女子が俺の言葉を否定した。

 「あはは・・・それでどうしてそう思ったんだ?」

 「魔法よ。  あんなの見せられたら信じるしかないわ」

 異世界?  魔法?  何を言っているんだ。  そんなのあるわけがない。  だが、ならどうしてここに居る?  俺の家の近くにこんな所あったか?  車や飛行機で何時間?  それまでに起きないとどうして言える?  ・・・・・・それにあんな痛み、ただのドッキリでやられてたまるか!

 「・・・・・・」

 「大丈夫かい?」

 「帰れるのか?」

 「・・・・・・多分無理だって。  でも、探せば帰れるかもしれないって。  迷宮なんかがあって、そこからは魔法の書や道具が見つかることがあるって」

 「迷宮?  どうせ危険な場所なんだろ?  それでどうして呼ばれたんだ?   まさか実験なんて言わないよな?」

 「魔王の討伐だってさ。  なんか人族の勇者は死んでしまったみたいで・・・・・・代わりに異世界の勇者を呼んだんだってさ。  それでその・・・・・・」

 「何が魔王だよ・・・・・・。  それで、まだ何かあるのか?」

 「・・・・・・実は、召喚されたのは僕が原因みたいなんだ。  それで、その」

 「あーあー、別にお前のせいではないだろう。  運が悪かった。  それ以外には言えない。  それに、予想してたよりもマシなことで良かったしな」

 俺はそう言って笑った。  心の底からの笑いではない。  ただ、自分の感情を隠すためだけの笑い。  それでも他の四人を騙せたのだろう。  みんなつられて笑っていた。  ただ、それを見ていると腹が立ってくる。  どうしてお前らはそんなに平気そうなんだ、と。

 もしかしたら辛いのかもしれない。  ショックなのかもしれない。  俺が呑気に寝ている間に泣いていたのかもしれない。  でも、それでも腹が立つ。

 ああ、確かに普通の日常に飽き飽きしていたさ、何かを期待していたさ!  異世界に行ければ楽しいかも、なんて思ったさ!  だが、誰が何か起きろと言った?  誰が不満があると言った?  ああ、本当に嫌だ。  何もかもに腹が立つ。  異世界があることにも、理不尽な現実にも、イケメンが申し訳なさそうにしている態度にも。

 ただ、感情を表に出してはダメだ。  感情で動けば失敗する。  だから、抑えるんだ。

 その日は一緒に召喚されたやつと自己紹介して、王様なんかとも会った。  会話の内容はほとんど覚えていない。  それから自分の部屋に入ってベッドの上に座ると、俺はしばらくぼーっとした後に寝た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...