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第一章
22話『後日談』
しおりを挟む「ったく、事情聴取に何日かかってんだっつー話よね」
ユーリさんが亡くなってから、六日後。
竜族やエルフなど各国のギルド幹部が揃って行われたエレクタム国の検分がようやく終わり、セリーヌさんは両手を上げて伸びをした。
ポーションの使い込みやそれに拘わる寄付金の運用状況もだいぶ叩かれた神殿だが、集まる一同を戦慄させたのは『アポクリファの門』の存在だった。
竜族の検分によるとこの門、神殿が設立された600年前から隠されていたのであろうとのことだった。
魔方陣を壊そうにも既に強固になりすぎているため、竜族やエルフが交代で凍結と魔力相殺を繰り返して徐々に崩していくという結論に至った。(最初から最後まで、私にはさっぱり分からない内容だった)
「よく一人で凍結できましたね」とは、エルフのギルド長の言葉である。セリーヌさんはそれに「まあ天才だし?」とふんぞり返って答えていたが……
「実際はヤバかったのよ。門はユーリの心理とえらくシンクロしてて……あの時あんたがユーリの精神を揺さぶってくれたから何とか上手くいったけど」
あんな骨の折れることは二度とごめんだとため息をついた。
六日間の私の扱いだが、セリーヌさんが「この子は関係ない」と言った途端にギルド幹部一同「あっ……(察し)」となり、あとは皆さんのお食事係に徹することになったのである。
ちなみに食事係は自分から志願した……なんだか無性に、誰かの役に立ちたかったのだ。
今朝早くに最後の検分が終わり、解散する際ギルド幹部の皆さんからやたら感謝された。曰く、あんな美味しい食事を食べたのは初めてだと。各ギルド長の個人的な連絡先まで渡されて、何かあればいつでも頼ってくれと言われた。
「S級の冒険者だってこんな破格の待遇はないでしょうね」
セリーヌさんはそう言って笑っていた。
彼女の蜂蜜色の金髪を、冷たい風が撫でていく。
……いま私たちは神殿が見える丘の上、そこに建てられた二つの白いお墓の前で花を捧げていた。
罪人として死体を晒されるはずだったユーリさんだが、私の懇願と、意外にもセリーヌさんの口添えがありそれを免れた。
そして郊外にならばということで、急ごしらえではあるが神殿を見下ろせるここにお墓を建てる許可を得たのである。
「意外でした。あの時セリーヌさんが口添えしてくれるとは思わなかったから」
「……ま、ユーリもある意味被害者といえば被害者だろうからね」
そう言って、ため息をつくセリーヌさん。
「調査で明らかになったことだけど……アポクリファの門を最初に起動させたのは前任の神官長みたいでね。そいつはその力を使ってなかなかエグいことをやってたらしいわよ」
詳しくは教えて貰えなかったが、そこでユーリさんも酷いことをされてきたのだという。
お墓を見つめながら再び気持ちが塞がりかけたが、セリーヌさんがぱしんと軽く私の背中を叩いた。
「……さ!そろそろ行くわよ」
「え?い、行くって……」
ぱちくりと瞬きをする私。
セリーヌさんはそんな私を見て快活に笑い、
「今日はフェリオで今年最後の日なのよ。あんたの世界ではどうするのか知らないけど、こっちの世界での新年の迎えかたってのを体験させたげようと思って」
エルフ式だけど、と付け加える。
「え……じゃあ、行くってつまり……」
「そ。あたしの暮らすトリスエンド――エルフの国よ」
言いながらセリーヌさんは既に私の手を引いて歩いていた。半ば引きずられるような力強さは相変わらずである。
「こ、この世界って不可侵条約みたいなのがありませんでした……?」
「あんたはその限りではないって文言が既に付け加えられてんの。だから問題ないわよ」
えええ……そんなアバウトでいいのか?
「……あんたには楽しいことも味わって欲しいのよ」
セリーヌさんがぽつりと呟くように言った言葉が上手く聞き取れず、「え?」と問い返す。
何でもないとセリーヌさんは返し、一層強い力でずりずりと私を引っ張っていくのだった。
「………」
去り際に、後方に見えたお墓にぺこりと頭を下げる私。
……ごめんなさいと心のなかで呟いた。
私は何も出来ず、誰一人救うことも出来なかった。
便利な道具に囲まれて、調子に乗っていたのだ。或いは勇者と呼ばれることを否定しながらも、心のどこかで得意になっていたのかもしれない。
(……ちゃんと、自覚しなきゃ)
――ごめんなさい、アルスさん。
私はやっぱり勇者じゃないんです。
こちらの世界で初めて迎えた大晦日、私は己の非力さを噛み締めていたのだった。
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