上 下
25 / 27
第一章

22話『後日談』

しおりを挟む


「ったく、事情聴取に何日かかってんだっつー話よね」


ユーリさんが亡くなってから、六日後。

竜族やエルフなど各国のギルド幹部が揃って行われたエレクタム国の検分がようやく終わり、セリーヌさんは両手を上げて伸びをした。

ポーションの使い込みやそれに拘わる寄付金の運用状況もだいぶ叩かれた神殿だが、集まる一同を戦慄させたのは『アポクリファの門』の存在だった。

竜族の検分によるとこの門、神殿が設立された600年前から隠されていたのであろうとのことだった。

魔方陣を壊そうにも既に強固になりすぎているため、竜族やエルフが交代で凍結と魔力相殺を繰り返して徐々に崩していくという結論に至った。(最初から最後まで、私にはさっぱり分からない内容だった)

「よく一人で凍結できましたね」とは、エルフのギルド長の言葉である。セリーヌさんはそれに「まあ天才だし?」とふんぞり返って答えていたが……

「実際はヤバかったのよ。門はユーリの心理とえらくシンクロしてて……あの時あんたがユーリの精神を揺さぶってくれたから何とか上手くいったけど」

あんな骨の折れることは二度とごめんだとため息をついた。

六日間の私の扱いだが、セリーヌさんが「この子は関係ない」と言った途端にギルド幹部一同「あっ……(察し)」となり、あとは皆さんのお食事係に徹することになったのである。

ちなみに食事係は自分から志願した……なんだか無性に、誰かの役に立ちたかったのだ。

今朝早くに最後の検分が終わり、解散する際ギルド幹部の皆さんからやたら感謝された。曰く、あんな美味しい食事を食べたのは初めてだと。各ギルド長の個人的な連絡先まで渡されて、何かあればいつでも頼ってくれと言われた。

「S級の冒険者だってこんな破格の待遇はないでしょうね」

セリーヌさんはそう言って笑っていた。
彼女の蜂蜜色の金髪を、冷たい風が撫でていく。


……いま私たちは神殿が見える丘の上、そこに建てられた二つの白いお墓の前で花を捧げていた。

罪人として死体を晒されるはずだったユーリさんだが、私の懇願と、意外にもセリーヌさんの口添えがありそれを免れた。

そして郊外にならばということで、急ごしらえではあるが神殿を見下ろせるここにお墓を建てる許可を得たのである。

「意外でした。あの時セリーヌさんが口添えしてくれるとは思わなかったから」
「……ま、ユーリもある意味被害者といえば被害者だろうからね」

そう言って、ため息をつくセリーヌさん。

「調査で明らかになったことだけど……アポクリファの門を最初に起動させたのは前任の神官長みたいでね。そいつはその力を使ってなかなかエグいことをやってたらしいわよ」

詳しくは教えて貰えなかったが、そこでユーリさんも酷いことをされてきたのだという。

お墓を見つめながら再び気持ちが塞がりかけたが、セリーヌさんがぱしんと軽く私の背中を叩いた。

「……さ!そろそろ行くわよ」
「え?い、行くって……」

ぱちくりと瞬きをする私。
セリーヌさんはそんな私を見て快活に笑い、

「今日はフェリオで今年最後の日なのよ。あんたの世界ではどうするのか知らないけど、こっちの世界での新年の迎えかたってのを体験させたげようと思って」

エルフ式だけど、と付け加える。

「え……じゃあ、行くってつまり……」
「そ。あたしの暮らすトリスエンド――エルフの国よ」

言いながらセリーヌさんは既に私の手を引いて歩いていた。半ば引きずられるような力強さは相変わらずである。

「こ、この世界って不可侵条約みたいなのがありませんでした……?」
「あんたはその限りではないって文言が既に付け加えられてんの。だから問題ないわよ」

えええ……そんなアバウトでいいのか?

「……あんたには楽しいことも味わって欲しいのよ」

セリーヌさんがぽつりと呟くように言った言葉が上手く聞き取れず、「え?」と問い返す。

何でもないとセリーヌさんは返し、一層強い力でずりずりと私を引っ張っていくのだった。

「………」

去り際に、後方に見えたお墓にぺこりと頭を下げる私。
……ごめんなさいと心のなかで呟いた。

私は何も出来ず、誰一人救うことも出来なかった。

便利な道具に囲まれて、調子に乗っていたのだ。或いは勇者と呼ばれることを否定しながらも、心のどこかで得意になっていたのかもしれない。

(……ちゃんと、自覚しなきゃ)



――ごめんなさい、アルスさん。
私はやっぱり勇者じゃないんです。




こちらの世界で初めて迎えた大晦日、私は己の非力さを噛み締めていたのだった。




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

召喚体質、返上希望

篠原 皐月
ファンタジー
 資産運用会社、桐生アセットマネジメント勤務の高梨天輝(あき)は、幼少期に両親を事故で失い、二卵性双生児の妹、海晴(みはる)の他は近親者がいない、天涯孤独一歩手前状態。しかし妹に加え、姉妹を引き取った遠縁の桐生家の面々に囲まれ、色々物思う事はあったものの無事に成長。  長じるに従い、才能豊かな妹や義理の兄弟と己を比較して劣等感を感じることはあったものの、25歳の今現在はアナリストとしての仕事にも慣れ、比較的平穏な日々を送っていた。と思いきや、異世界召喚という、自分の正気を疑う事態が勃発。   しかもそれは既に家族が把握済みの上、自分以外にも同様のトラブルに巻き込まれた人物がいたらしいと判明し、天輝の困惑は深まる一方。果たして、天輝はこれまで同様の平穏な生活を取り戻せるのか?  以前、単発読み切りで出した『備えあれば憂いなし』の連載版で、「カクヨム」「小説家になろう」からの転載作品になります。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界物怪録

止まり木
ファンタジー
現代日本のどこかに、数多の妖怪達が住む隠れ里があった。 幾重にも結界が張られ、人間が入り込むことの出来ない、正に妖怪達の桃源郷。 妖怪達はそこでのんびり暮らしていた。だが、ある日突然その里を地震が襲った。 慌てふためく妖怪達。 地震が止んだ時、空に見た事の無い星星が浮かんでいた。 妖怪達は自らの住んでいた里事、異世界へと飛ばされてしまったのだった。 これは、里事異世界のエルフの森に飛ばされた妖怪達が、生きる為に力を合わせて生活していく物語。 "小説家になろう"様でも重複掲載しております。 不定期更新

霊飼い術師の鎮魂歌

夕々夜宵
ファンタジー
____アラン国 それは現世を生きる人々の世界とは違う世界であった。 表の世界、樹林のように立ち並ぶビル群、発展したIT技術、医療技術。我々が住む平和な現代社会の発展には、もう一つの世界の礎があったのだ。 そこは裏の世界。アラン国を中心とした世界には人間の他に、妖怪が存在していた。それら妖怪は人々の発展を妨げる者も多く、人間、発展を望む妖怪とは永きに渡り争いが起きていた。そんな妖怪と渡り合うべく生み出された四つの力。それらの力により、裏の世界は表の世界をいつだって支えてきたのだった。 ___これはそんな、誰も知らない裏の世界の話である。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...