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第一章

15話『蹉跌の序章』

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「ふーーーっ……」

自宅の温泉で、めいっぱい手足を伸ばす。
夜中から朝にかけて大がかりな作業をしたため、肩や手足が突っ張って仕方なかった。

……昨日ポーションを作り終えた夜半過ぎ、私は風の杖と大地の杖、種芋などを手にリューヒルド村に飛んだ。

あの村の日照時間を大幅に短め、作物の発育を邪魔しているだろう山の斜面を削るため&根付きやすく栄養満点のさつま芋を植えるために。

我ながら無茶苦茶な思い付きだったが、杖たちの威力と機能は凄まじかった。
無理かなあ、などと思いつつ山に向かって杖を振り上げた私だが、ものの数時間で山ひとつの斜面をイメージ通りの段々畑に作り変えることができたのである。

山や地面を耕してくれた大地の杖も大変有り難かったが、風の杖の凡用性の高さには驚かされた。
防音用の風の壁(作業時の音を防ぐため)やら、山の木々を材木にカットする風の刃やら、イメージ次第でどんな使い方もできた。

「発育促進ポーションの効果もチートだったなあ……」

霊薬メモの本通りに作ったそれを畑に振りかけただけで種芋からぐんぐんつるがのび、大量の芋を実らせてくれたのである。

ちょっとやり過ぎた感は否めないが、この世でお腹が空くことほど悲しいことはない。料理人の端くれとして飢餓対策にはこれからも前向きに取り組まなくては、と柄にもなく決心した。

(またこっそり様子を見に行き、ゆくゆくは鶏や山羊を放して卵・ミルクなどのたんぱく源をとれるような環境作りを手伝おう)


******


さてさて、早朝に家に帰りついたため朝食がまだであった。
私は濡れた髪を乾かしながらキッチンに立ち、召喚スクロールを広げた。

今日の朝食はシンプルに行こうかな。
小麦粉とヨーグルト、果物を何種類か呼び出して貯蔵庫から卵と牛乳を取り出す。

ボウルに卵黄と牛乳、小麦粉を合わせて勢いよくすり混ぜ、その中に別立てで泡立てたメレンゲを分けて入れながらふんわり馴染ませていった。

弱火に設定した火の杖を天板の下に仕込み、じわじわと焼き上げたら皿に盛り付けバターをのせる。フェニシアで買った蜂蜜をたっぷりかけ、ヨーグルトの上にはカットした果物を乗せてと。

スフレパンケーキとフルーツヨーグルトの完成!である。糖質よりの朝食だがたまにはいいだろう。

寒くなければまた庭でいただきたいところだが、この寒空の下では風邪を引いてしまうだろう。私は大人しくリビングテーブルに着き、出来立てのパンケーキにフォークとナイフを差し込んだ。

「美味しい……!」

生地も勿論だが、その上にかかったフェニシア蜂蜜がたまらない。すっきりとした甘さでしつこくなく、花畑の香りがふんわり鼻を抜けていった。

紅茶との相性が抜群に違いない。私は暖炉のケトルを取り、セリーヌさん達にお出しした時と同じ茶葉でお茶を淹れた。あの時はミルクティーだったが、今回はあっさりストレートティーでいこう。

「はあ……ほっとする」

窓から差し込む陽光に、目を細めた。

今日はゆっくり家で休むとして、今度は日保ちのするスコーンや焼き菓子を作って再び村や町を巡ってみたい。
今度こそ値がついてくれると有り難いが……

「次は人が多い都市に行ってみようかな」

そんなことを考えながら、フルーツヨーグルトを頬張る。

……私はチートアイテムに囲まれ、いくつかの問題を乗り越えたことで完全に調子に乗っていた。

次に訪れる【エレクタムの都】でその鼻をへし折られることになるとは露ほども予想していなかった。
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