110 / 111
Tier56 二手
しおりを挟む
長い廊下をトタパタと勢いよく走って来る足音が聞こえる。
そして、足音は突如止まる。
「ごめん、皆お待たせー!」
誰もいない六課に勢いよく入って来た那須の声が響き渡る。
「あれ? 皆、いないの?」
那須はキョロキョロと辺りを見渡す。
しかし、物音一つせず六課は静寂に包まれていた。
「おかしいな~? 皆もう先に来ていると思ったのに……まだ、来てないのかな~?」
那須は呟きながらデスクの下や引き出しの中、仕舞いにはゴミ箱の底からパソコンの裏まで皆がいないか探し始める。
「ここまで探していないとなると……もしかして、今日の招集って午前からじゃなくて午後から? だとしたら私、皆より先に来ちゃったってこと?」
ここには誰もいないので那須の独り言の疑問に答えてくれる者などいるわけもないのだが、誰が答えてくれなくとも那須は自分で結論を導き出した。
「なんだ、私うっかり先に来ちゃったのか。なら、皆が来るまで待ってよ」
導き出した結論が正しいかどうかはともかく、那須は自分の席に座り皆を待つことにした。
自分が致命的な勘違いをしていると、いつ気付くのかは那須次第である。
--------------------------
手塚課長が話終わる前にマノ君に引っ張られて、半ば強引に六課から出た僕達は既に警視庁本部の建物からも出ていた。
「俺と伊瀬は広崎の面会にこのまま行くけど、他はどうすんの?」
「あ、どうすればいいのかな?」
美結さんが、しまったという顔をする。
「手塚課長、私達に対しても指示出そうとしてたけど、それを聞かずに出て来ちゃったからね」
少し申し訳なさそうに市川さんが言う。
「多分だけど、渋谷の通り魔事件の資料を整理しといて欲しいとかだと思うよ。それなら、ただの資料整理だから捜査にならないしね」
丈人先輩の推測に僕はなるほどなと感心した。
「逆に言えば、現状は面会以外に出来るのはそれぐらいってことだな。正直、やってもやらなくても良い内容だ。資料の整理なんて、この事件の捜査を担当した所が既にやっている。改めて資料整理が必要になるには、新たな手掛かりが出た時ぐらいだ。何も掴めていない、現状にやることなんて無ぇよ」
「そんなの分かんないじゃん。もしかしたら、資料整理以外にも何か手塚課長がやって欲しいことがあるかも」
「何かってなんだよ?」
「それは……ちょっと分かんないけど……」
「分かんないなら最後まで聞けば良かっただろう。手塚課長のクソ寒いギャグを含めてな。なんで、一緒に出て来たんだよ?」
「えっと……体が反射的に……」
気まずそうに美結さんがマノ君に答える。
体が反射的にって……手塚課長のギャグはそこまで凄まじく寒いのだろうか……
「まぁ、本当に必要な指示があるとしたら、手塚課長だったら携帯に連絡してくれると思うよ。連絡が無かったら、俺達の推測が当たってたってことだから問題は無いしね。俺は手塚課長からの連絡が無いようなら一応、事件の資料整理やるつもりだけど、日菜ちゃんと美結ちゃんはどうする?」
「私もやろうと思ってました」
「アタシも!」
「じゃあ、決まりだね。俺達は事件の捜査資料を取りに行って整理しているから、二人は進展があったらいつでも連絡して」
「分かりました。んじゃ、俺達はさっさと広崎の面会と行くか」
僕とマノ君は広崎さんの面会へ、丈人先輩と美結さんと市川さんは事件の資料整理ということで僕達は二手に分かれることになった。
そして、足音は突如止まる。
「ごめん、皆お待たせー!」
誰もいない六課に勢いよく入って来た那須の声が響き渡る。
「あれ? 皆、いないの?」
那須はキョロキョロと辺りを見渡す。
しかし、物音一つせず六課は静寂に包まれていた。
「おかしいな~? 皆もう先に来ていると思ったのに……まだ、来てないのかな~?」
那須は呟きながらデスクの下や引き出しの中、仕舞いにはゴミ箱の底からパソコンの裏まで皆がいないか探し始める。
「ここまで探していないとなると……もしかして、今日の招集って午前からじゃなくて午後から? だとしたら私、皆より先に来ちゃったってこと?」
ここには誰もいないので那須の独り言の疑問に答えてくれる者などいるわけもないのだが、誰が答えてくれなくとも那須は自分で結論を導き出した。
「なんだ、私うっかり先に来ちゃったのか。なら、皆が来るまで待ってよ」
導き出した結論が正しいかどうかはともかく、那須は自分の席に座り皆を待つことにした。
自分が致命的な勘違いをしていると、いつ気付くのかは那須次第である。
--------------------------
手塚課長が話終わる前にマノ君に引っ張られて、半ば強引に六課から出た僕達は既に警視庁本部の建物からも出ていた。
「俺と伊瀬は広崎の面会にこのまま行くけど、他はどうすんの?」
「あ、どうすればいいのかな?」
美結さんが、しまったという顔をする。
「手塚課長、私達に対しても指示出そうとしてたけど、それを聞かずに出て来ちゃったからね」
少し申し訳なさそうに市川さんが言う。
「多分だけど、渋谷の通り魔事件の資料を整理しといて欲しいとかだと思うよ。それなら、ただの資料整理だから捜査にならないしね」
丈人先輩の推測に僕はなるほどなと感心した。
「逆に言えば、現状は面会以外に出来るのはそれぐらいってことだな。正直、やってもやらなくても良い内容だ。資料の整理なんて、この事件の捜査を担当した所が既にやっている。改めて資料整理が必要になるには、新たな手掛かりが出た時ぐらいだ。何も掴めていない、現状にやることなんて無ぇよ」
「そんなの分かんないじゃん。もしかしたら、資料整理以外にも何か手塚課長がやって欲しいことがあるかも」
「何かってなんだよ?」
「それは……ちょっと分かんないけど……」
「分かんないなら最後まで聞けば良かっただろう。手塚課長のクソ寒いギャグを含めてな。なんで、一緒に出て来たんだよ?」
「えっと……体が反射的に……」
気まずそうに美結さんがマノ君に答える。
体が反射的にって……手塚課長のギャグはそこまで凄まじく寒いのだろうか……
「まぁ、本当に必要な指示があるとしたら、手塚課長だったら携帯に連絡してくれると思うよ。連絡が無かったら、俺達の推測が当たってたってことだから問題は無いしね。俺は手塚課長からの連絡が無いようなら一応、事件の資料整理やるつもりだけど、日菜ちゃんと美結ちゃんはどうする?」
「私もやろうと思ってました」
「アタシも!」
「じゃあ、決まりだね。俺達は事件の捜査資料を取りに行って整理しているから、二人は進展があったらいつでも連絡して」
「分かりました。んじゃ、俺達はさっさと広崎の面会と行くか」
僕とマノ君は広崎さんの面会へ、丈人先輩と美結さんと市川さんは事件の資料整理ということで僕達は二手に分かれることになった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる