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Tier54 タイムラグ
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「マノ君が言ってくれた通りだよ。広崎の証言が全て正しいとなると、この事件はマイグレーターによる犯罪行為である可能性があるんだ。それに、このままだと広崎は有罪、判決は極刑かよくても無期懲役は避けられないと思うんだよね。そうなると、無実の人の人生を冤罪によって奪ってしまうことになる。それだけは許してはいけない」
もし、本当にこの事件の犯人がマイグレーターなら事件の被害者だけじゃなくて広崎……広崎さんもそのマイグレーターによって殺されてしまうことになってしまう。
そんなことは絶対にさせたくない。
「仮にマイグレーターの仕業……いや、ほぼ確実にマイグレーターによる仕業だろうが、広崎の意識を消してないところを見ると割と成りたてかもな」
「けど、それはあくまで事件当時の話。今はもう、そこから一年近く経っちゃっているからマイグレーションの能力も十分向上していてもおかしくはないはずだよ」
「あ゛~、そうだったわ! クソっ、このタイムラグは重いな」
丈人先輩に諭されて、マノ君は小さく舌打ちをする。
「広崎さんの証言って、捕まった直後から変わってないんですよね?」
僕は根本的に気になっていた疑問を手塚課長に投げかけてみた。
「うん、そうだよ」
「それなら、どうしてすぐにマイグレーターが関与している可能性があると気づかなかったんでしょうか? 先程の手塚課長の話し方からすると、最近になって広崎さんの証言を手塚課長が知ったというように感じたんですけれど……」
「う~ん、そうなんだよね。私も最近になって、ようやく広崎の証言を聞いてね」
「それは、やっぱりおかしいですよ! すぐにでも、手塚課長の耳に広崎さんの証言が届いていれば一年も空かずにマイグレーターの捜査が出来たはずですよね!」
「伊瀬」
感情的になって口調が強まった僕をマノ君が手と声で制した。
「なぁ、伊瀬。何でもいい、もし伊瀬が苦労して手に入れたものを誰かに横取りされたらどう思う?」
「そ、それは嫌に決まってるよ」
僕はマノ君が何を言いたいのかイマイチ分からずに答えた。
「だろ。要は、それと同じことだ」
「同じこと?」
「せっかく、自分達が逮捕して手柄にした事件を俺達六課に取られたくなかったってことさ。マイグレーターが関与していると分かれば即座に捜査権が強制的に六課に移るから、それを面白く思わない人達はいっぱいいるってわけ」
マノ君が言ったことの意図を組めずにいた僕に丈人先輩が補足してくれた。
「上層部にもマイグレーターについてある程度事情を知っている人達もいるんだけどね。マイグレーターが関与している可能性がある材料は逐一うちに報告してくれるように指示は出されているんだけれど、事情を全く知らない人達の方が多いから適切に指示が働いているとは言えなくてね。それに、事情を知らない人達でも私達六課が何度か他の部署から横取りしているのも知っているから、横取りされないように捜査情報を隠す傾向にあってね。それで、ある程度事情を知っている上層部に情報が行き辛くなっていてるというのもあるかな」
手塚課長は六課が担当出来るのは突発性脳死現象に対してだけだから、ズバリそうでない限り捜査が出来ないと付け加えた。
「マイグレーションの存在を公に公表出来ないせいで、マイグレーターを捕まえる障害が増えてしまっていることですか?」
「皮肉なことに、そうなってしまっているね」
手塚課長は苦い顔をする。
「それだけじゃないでしょう。この渋谷の通り魔事件はネットやメディアでも大きく取り上げられましたから。犯人を捕まえたって言っといて、『実は間違えて犯人じゃない人を捕まえてしまいました。真犯人は現在も逃走中です』なんて言ったら警察の面子が立たないだろ。ある程度事情を知っている上層部の連中が意図して手塚課長に伝えなかったってこともあるわけだ。まぁ、マイグレーターが関与している可能性があるって言っても犯人の証言だけだからな。確度が低いっちゃ低い。その可能性は低いと楽観的に考えても不思議じゃない」
「そんな……これじゃあ、捕まえられるものも捕まえられないよ」
「組織が一枚岩になることなんか、まずあり得ない。それでも、俺達はやるしかない。何もしないよりは、天と地の差がある。そうだろ?」
「……うん、マノ君の言う通りだね」
マノ君の言葉に僕の沈んでいた心は少しだけど上向きになった。
「でも、どうして今になって手塚課長の耳に伝えられていなかった証言が入ったのかな?」
「それは、最近また増え始めた通り魔事件が関係しているんじゃないか? ここに来て、手塚課長に証言を伝えなかった上層部の連中がマイグレーターが関与していたと薄々気付き始めたってところだろう。ああいう連中は自分の責任から逃れるためには何でもするからな」
マノ君が美結さんにサラリと答える。
こういう時だったら、この二人は口喧嘩もせずに普通に話せるんだなと僕はどうでもいいことを考えてしまった。
「で、手塚課長。これからの捜査方針どうすんですか?」
マノ君は手塚課長を伺う。
「そうさねぇ~、どうしようかねぇ~」
手塚課長の親父ギャグを聞いて、六課の空気が凍り付くのが嫌でも感じられた。
もし、本当にこの事件の犯人がマイグレーターなら事件の被害者だけじゃなくて広崎……広崎さんもそのマイグレーターによって殺されてしまうことになってしまう。
そんなことは絶対にさせたくない。
「仮にマイグレーターの仕業……いや、ほぼ確実にマイグレーターによる仕業だろうが、広崎の意識を消してないところを見ると割と成りたてかもな」
「けど、それはあくまで事件当時の話。今はもう、そこから一年近く経っちゃっているからマイグレーションの能力も十分向上していてもおかしくはないはずだよ」
「あ゛~、そうだったわ! クソっ、このタイムラグは重いな」
丈人先輩に諭されて、マノ君は小さく舌打ちをする。
「広崎さんの証言って、捕まった直後から変わってないんですよね?」
僕は根本的に気になっていた疑問を手塚課長に投げかけてみた。
「うん、そうだよ」
「それなら、どうしてすぐにマイグレーターが関与している可能性があると気づかなかったんでしょうか? 先程の手塚課長の話し方からすると、最近になって広崎さんの証言を手塚課長が知ったというように感じたんですけれど……」
「う~ん、そうなんだよね。私も最近になって、ようやく広崎の証言を聞いてね」
「それは、やっぱりおかしいですよ! すぐにでも、手塚課長の耳に広崎さんの証言が届いていれば一年も空かずにマイグレーターの捜査が出来たはずですよね!」
「伊瀬」
感情的になって口調が強まった僕をマノ君が手と声で制した。
「なぁ、伊瀬。何でもいい、もし伊瀬が苦労して手に入れたものを誰かに横取りされたらどう思う?」
「そ、それは嫌に決まってるよ」
僕はマノ君が何を言いたいのかイマイチ分からずに答えた。
「だろ。要は、それと同じことだ」
「同じこと?」
「せっかく、自分達が逮捕して手柄にした事件を俺達六課に取られたくなかったってことさ。マイグレーターが関与していると分かれば即座に捜査権が強制的に六課に移るから、それを面白く思わない人達はいっぱいいるってわけ」
マノ君が言ったことの意図を組めずにいた僕に丈人先輩が補足してくれた。
「上層部にもマイグレーターについてある程度事情を知っている人達もいるんだけどね。マイグレーターが関与している可能性がある材料は逐一うちに報告してくれるように指示は出されているんだけれど、事情を全く知らない人達の方が多いから適切に指示が働いているとは言えなくてね。それに、事情を知らない人達でも私達六課が何度か他の部署から横取りしているのも知っているから、横取りされないように捜査情報を隠す傾向にあってね。それで、ある程度事情を知っている上層部に情報が行き辛くなっていてるというのもあるかな」
手塚課長は六課が担当出来るのは突発性脳死現象に対してだけだから、ズバリそうでない限り捜査が出来ないと付け加えた。
「マイグレーションの存在を公に公表出来ないせいで、マイグレーターを捕まえる障害が増えてしまっていることですか?」
「皮肉なことに、そうなってしまっているね」
手塚課長は苦い顔をする。
「それだけじゃないでしょう。この渋谷の通り魔事件はネットやメディアでも大きく取り上げられましたから。犯人を捕まえたって言っといて、『実は間違えて犯人じゃない人を捕まえてしまいました。真犯人は現在も逃走中です』なんて言ったら警察の面子が立たないだろ。ある程度事情を知っている上層部の連中が意図して手塚課長に伝えなかったってこともあるわけだ。まぁ、マイグレーターが関与している可能性があるって言っても犯人の証言だけだからな。確度が低いっちゃ低い。その可能性は低いと楽観的に考えても不思議じゃない」
「そんな……これじゃあ、捕まえられるものも捕まえられないよ」
「組織が一枚岩になることなんか、まずあり得ない。それでも、俺達はやるしかない。何もしないよりは、天と地の差がある。そうだろ?」
「……うん、マノ君の言う通りだね」
マノ君の言葉に僕の沈んでいた心は少しだけど上向きになった。
「でも、どうして今になって手塚課長の耳に伝えられていなかった証言が入ったのかな?」
「それは、最近また増え始めた通り魔事件が関係しているんじゃないか? ここに来て、手塚課長に証言を伝えなかった上層部の連中がマイグレーターが関与していたと薄々気付き始めたってところだろう。ああいう連中は自分の責任から逃れるためには何でもするからな」
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こういう時だったら、この二人は口喧嘩もせずに普通に話せるんだなと僕はどうでもいいことを考えてしまった。
「で、手塚課長。これからの捜査方針どうすんですか?」
マノ君は手塚課長を伺う。
「そうさねぇ~、どうしようかねぇ~」
手塚課長の親父ギャグを聞いて、六課の空気が凍り付くのが嫌でも感じられた。
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