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Tier49 渋谷スクランブル交差点ジャック
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夕暮れは数時間前に終わって夜も更けてきたって言うのに、相変わらずこの場所は人がうじゃうじゃと蛆虫のように呑気な顔して這いずり回っている。
もう夜になっているにも関わらず、車のヘッドライトやらアホみたく高いビルからの光のせいで全く暗くない。
むしろチカチカとするせいで目が痛くなってきやがる。
これを見て綺麗だとかほざいている連中は本当に頭がどうかしてやがる。
おそらく、こういう連中は自分の頭上に焼夷弾が落ちてきても「花火みたいで綺麗」とか言って焼かれてくたばっていくんだろうな。
それはそれで見てみたい気もするが、またの機会にしておくか。
「さぁ~て、今日はどいつで楽しもうかなぁ~」
うじゃうじゃと蠢く蛆虫共の中を横断歩道そっちのけで歩いていく。
ここは俗に言う、渋谷スクランブル交差点だ。
ただの横断歩道だというのに両手を上げて耳障りな奇声を上げていたり、スマホのカメラをかざして写真やら動画やらを撮って歩いている連中がアホほどいる。
そんなことの何が楽しいのかオレには微塵も分からない。
本当に可哀想な奴等だ。
だが、オレは違う。
この世で最も楽しく刺激的で、血が漲るような娯楽を知っている。
いやぁ……娯楽なんてもんじゃないなぁ……これはオレの生きがいだ。
「あぁ~早くやりてぇ~なぁ~」
オレは誰も気にも留めないくらいの大きさで呟きながら、ポケットに忍ばせてある得物に触れて心をワクワクとさせる。
オレがこの生きがいを存分に堪能出来るようになったのは割りと最近の話だ。
それまでは想像することでしか、堪能することは出来なかった。
いや、ちょっと違うかぁ……遅かれ早かれ実際に行動して堪能はしていたな。
だが、それでは障害が多いから思う存分には堪能出来なかっただろうなぁ。
でも幸運なことに今は、完璧な形でオレの生きがいを堪能出来る状況が整っているってわけだぁ。
オレは本当に運が良いって、この点に関しては心から思うよ。
スクランブル交差点を渡り切っても、蛆虫共の中にいることに変わりはねぇ。
渡った先にも新しい蛆虫共が待ち伏せているかのようにいるからなぁ。
今日の遊び道具を見つけようとざっと辺りを見渡していると、後ろから歩いて来た髪色が頭の悪さを表しているかのように明るい若い男がぶつかって来た。
ぶつかって来た奴は謝りもせず、はたまた暴言を吐くわけでもなく、ただ単にオレを見向きもせずにそのまま通り過ぎて行った。
よぉし、今日はコイツで遊ぶかぁ。
コイツに決めた理由は別にぶつかって来られてイラっと来たからとか、そういうわけではない。
奴に悪気がなかったのは分かっているし、かと言って人にぶつかって謝るような常識を持っていないのも分かっている。
正直、誰でも良い。
誰で遊ぶかなんてものは、ぶつかって来たというしょうもない些細な出来事が決定打になってしまうほど、どうでも良いことだ。
「あの~すません~! これ落としましたよ~!」
オレはぶつかって来た奴に後ろから追いかけるようにして声を掛ける。
この雑踏の中、奴に聞こえるようにそれなりに声を張り上げたせいで奴以外の数人も振り返っちまいやがった。
ヤベぇーな、顔を覚えられちまったか?
まぁ、今となっちゃたいしたことじゃねぇか。
張り上げた声に気付いた奴が振り向いてオレの方へと踵を返して来た。
ポケットに入れていた得物である折りたたまれたサバイバルナイフを奴に手渡す。
「え? これ俺のじゃねぇけど?」
手渡されたサバイバルナイフに注意が向いた隙にオレは奴のこめかみを素早く手で押さえる。
……
視界がグルっと180度反転する。
うっし、入れ替わり成功。
けど、このやり方でもまだちょっと疲れたように感じちまうな。
「さて、オレがさっきまで入ってた体の方はと……お、ちゃんとおねんねしてくれてるみたいだ……なっと!」
そのまま崩れるようにもたれかかって来たさっきまでの体を抱きかかえて通路の脇の方へと運んで行く。
「クソッ、重いな」
意識の無い人間は本当に重い。
ちなみに、コイツはオレが体を入れ替えた時点でもう死んでいる。
見た目はただ眠っているようにしか見えない。
だから、脇に置いておいても誰も死んでいるなんて思わない。
せいぜい、酔っ払いとかが酔い潰れているようにしか見えない。
こういう死体は突発性脳死現象として処理されるらしい。
オレも名前くらいは聞いたことがあったが、まさかこの能力を使った後に出るゴミのことだったとは知らなかった。
「お~い、どうした?」
ぶつかって来た奴の連れらしいのがオレに近づいて来る。
踵を返してから、いつまでたっても帰って来ないのを不思議に思ったんだろう。
ちょうど、渡って来たスクランブル交差点の信号がまた青になった。
オレは元来た道を戻る。
折りたたまれたサバイバルナイフの刃を手の下でゆっくりと開いて。
「おい、どこ行くんだよ!」
連れらしいのが品の無いデカい声で呼び止めているがオレは無視して歩いて行く。
そして、スクランブル交差点の三分の一くらいのところで、オレは前を歩いている人間の背中を頭上高く上げたサバイバルナイフで切り付ける。
スパッ
そんな音が聞こえるわけではないが、服が裂ける感触と皮膚や肉が裂ける感触が刃先から繊細に伝わってくる。
裂けた場所からこの世で最も美しい鮮やかでいて、どす黒い赤色の血液が滲み出てくる。
楽しい時間の合図を感じた体中の血液が漲るのを感じる。
それによって命を全身で感じることが出来て、自分が生きている猛烈に感じる事が出来る。
切り付けた奴は何が起きたのかも理解できずに痛みに悶えながら崩れ落ちる。
だが、周りはまだ自分がこれからどうなるのかも分からず間抜け面をさらしてやがる。
だいたいいつも、二人目か三人目辺りで周りの奴等はようやく自分の置かれている状況に気付いてパニックに陥る。
オレは次の標的目掛けて得物を振り上げる。
今度は背中なんかじゃなく、首筋を狙って。
思い切り得物を振り下ろした直後、勢いの良い血しぶきが上がる。
オレの顔半分以上の面積が血しぶきにさらされ、視界を戻すため両目を手で拭った。
手の甲にはベッタリと鮮やかな赤色の血が付いていた。
「キャーーー!」
「うわぁ゛ーーー!」
どいつもこいつもアホみたいな声出しやがって……そんなことしている暇があったら少しは生き残る努力でもしたらどうなんだよ。
映像が衝撃的なのもあってか、今回は二人目で周りがパニックに陥った。
首筋は三人目辺りにしておけば良かったかもしれねぇなぁ。
だが、中には足がすくんでいたり、腰が抜けて動けなくなっているような救いようのない馬鹿もいた。
オレはそんな連中から三人目を選び、肩にある太い血管目掛けて得物を振るう。
首筋の時程の勢いは無かったが、良い感じで血が溢れ出て来た。
「クッ、アハハハハハハハ! やっぱ、いつやっても最高だなぁ~! な~んで、皆この楽しさが分かんねえーかなぁ~? そんなんで生きてて楽しいのかぁ~!?」
興奮のあまり思わず叫び出しながらオレは四人目に取り掛かる。
ここまでの時間は数十秒程度だ。
「これは中々良いタイムなんじゃねぇーか!」
五人目を切り付けたところで六人目の標的を定めようとした時に、思いがけず女の脇腹辺りを刺しちまった。
逃げ惑う他の連中にドつかれた勢いで、オレの得物に刺さしちまったんだろう。
随分と運の悪い奴だ。
「クッソー! せっかく良い調子だったのに刺しちまったよぉ~!」
ナイフって言うのは刺すもんじゃなくて、切るためにあんだよ!
一回刺しちまうと抜くのも大変だし、その後の切れ味も悪くなるんだよなぁ~!
刃先から内臓を裂く感触が伝わってくるのは良いんだが、案の定あばら骨か何かの骨に当たって中々刃が抜けない。
そうこうしているうちに、周りの人間は追い付けないほどの距離まで蜘蛛の子を散らすように逃げていた。
「もう七人目はキツイよなぁ~。じゃあ、今日はここまでかぁ~」
それなりに楽しめたが、刺しちまったのが痛かったなぁ。
ゴッ、ゴッという骨の嫌な感触を感じながらオレはようやく得物を抜くことが出来た。
最初に背中を切った奴の息がまだあったから、抜いた得物で首筋を切ろうとしたが上手く切れない。
ノコギリのように刃を上下に素早く動かし、強く押し付けることでなんとか切ることが出来た。
切っている時に、オレに切られている奴が口をこれでもかと言うほど大きく開けていたから、相当の叫び声を上げていたんだろうけど、切ることに集中していたオレにとっては心地良いBGMのようにしか感じられなかった。
「よし、これで全部終わりかな」
ぐっと背伸びをして立ち上がると、周りの状況が良く見える。
オレはいつの間にかスクランブル交差点のちょうど真ん中の辺りまで来ていたらしい。
逃げ惑った奴等が逃げる場所なんてお構いなしに逃げたもんだから、車は進むことも戻ることも出来ずにヘッドライトを爛々と照らしたままクラクションを鳴らし続けている。
クラクションの音に混ざって人間の阿鼻叫喚が聞こえ、非常に心地の良い調和のとれた交響曲となっている。
「こんなに素晴らしい音楽は聴いたことがねぇよ! おら、皆も聴いてみろよこの音楽を! 最高だよ!」
誰に伝えるわけでもなく叫んでみる。
オレは真紅に染まったサバイバルナイフを突き出しながら、時計周りに360度あたりを見渡す。
ビルからの明かりと車のヘッドライトに照らされて見える恐怖や狂気に満ちた逃げ惑う奴等という光景とクラクションと阿鼻叫喚が奏でる交響曲。
全くもって最高の景色だった。
オレの半径数十メートルには誰もいない。
誰も彼もが死の恐怖にひれ伏し、まるでオレを中心に世界が回っているかのような錯覚を起こしそうなくらいの優越感が嫌なくらい感じる。
この場にいる全ての人間がオレの一挙手一投足に注目している。
人気の漫画やアニメがビルに取り付けられている大型ディスプレイをジャックした時とは比べ物にならない程の注目がオレに集まっている。
「クッ、アハハハハハハハ! これが本当の渋谷スクランブル交差点ジャックってか?」
遠くからサイレンの音が聞こえる。
止まっていた車も少しずつだが動き出し、パトカーが通る道を開けている。
そろそろ逃げる準備でもするかぁ。
でも、周りに人がいないから入れ替わる新しい体がねぇんだよなぁ。
こんなことなら、体に触れなくても入れ替われる練習をもっとしときゃぁ良かったな。
今のオレは体のどこに触れても入れ替われるから、触れずに出来るようになるのもあと少しでいけるとは思うんだよねぇ。
あれこれ考えているうちに、国家の犬のお巡りさん達がオレを取り囲んでいた。
適当に取り押さえて来たお巡りの体に入れ替わるかぁ。
そう考えて、得物を放り投げ両手を挙げる。
それを見たお巡り共は一斉にクソに群がるハエのように飛びついて来た。
オレは最初に取り押さえて来たお巡りの体に入れ替わり、今度は取り押さえる側になる。
「うっ、う~ん~? え!? 何これ!? どうなってんの!?」
遊び道具だった体が意識を取り戻し、取り押さえられている状況に困惑する。
あ、ヤベ。
コイツの意識刈り取るの忘れてたわ。
ま、いっか。
オレは取り押さえる力を強めて、そう思った。
もう夜になっているにも関わらず、車のヘッドライトやらアホみたく高いビルからの光のせいで全く暗くない。
むしろチカチカとするせいで目が痛くなってきやがる。
これを見て綺麗だとかほざいている連中は本当に頭がどうかしてやがる。
おそらく、こういう連中は自分の頭上に焼夷弾が落ちてきても「花火みたいで綺麗」とか言って焼かれてくたばっていくんだろうな。
それはそれで見てみたい気もするが、またの機会にしておくか。
「さぁ~て、今日はどいつで楽しもうかなぁ~」
うじゃうじゃと蠢く蛆虫共の中を横断歩道そっちのけで歩いていく。
ここは俗に言う、渋谷スクランブル交差点だ。
ただの横断歩道だというのに両手を上げて耳障りな奇声を上げていたり、スマホのカメラをかざして写真やら動画やらを撮って歩いている連中がアホほどいる。
そんなことの何が楽しいのかオレには微塵も分からない。
本当に可哀想な奴等だ。
だが、オレは違う。
この世で最も楽しく刺激的で、血が漲るような娯楽を知っている。
いやぁ……娯楽なんてもんじゃないなぁ……これはオレの生きがいだ。
「あぁ~早くやりてぇ~なぁ~」
オレは誰も気にも留めないくらいの大きさで呟きながら、ポケットに忍ばせてある得物に触れて心をワクワクとさせる。
オレがこの生きがいを存分に堪能出来るようになったのは割りと最近の話だ。
それまでは想像することでしか、堪能することは出来なかった。
いや、ちょっと違うかぁ……遅かれ早かれ実際に行動して堪能はしていたな。
だが、それでは障害が多いから思う存分には堪能出来なかっただろうなぁ。
でも幸運なことに今は、完璧な形でオレの生きがいを堪能出来る状況が整っているってわけだぁ。
オレは本当に運が良いって、この点に関しては心から思うよ。
スクランブル交差点を渡り切っても、蛆虫共の中にいることに変わりはねぇ。
渡った先にも新しい蛆虫共が待ち伏せているかのようにいるからなぁ。
今日の遊び道具を見つけようとざっと辺りを見渡していると、後ろから歩いて来た髪色が頭の悪さを表しているかのように明るい若い男がぶつかって来た。
ぶつかって来た奴は謝りもせず、はたまた暴言を吐くわけでもなく、ただ単にオレを見向きもせずにそのまま通り過ぎて行った。
よぉし、今日はコイツで遊ぶかぁ。
コイツに決めた理由は別にぶつかって来られてイラっと来たからとか、そういうわけではない。
奴に悪気がなかったのは分かっているし、かと言って人にぶつかって謝るような常識を持っていないのも分かっている。
正直、誰でも良い。
誰で遊ぶかなんてものは、ぶつかって来たというしょうもない些細な出来事が決定打になってしまうほど、どうでも良いことだ。
「あの~すません~! これ落としましたよ~!」
オレはぶつかって来た奴に後ろから追いかけるようにして声を掛ける。
この雑踏の中、奴に聞こえるようにそれなりに声を張り上げたせいで奴以外の数人も振り返っちまいやがった。
ヤベぇーな、顔を覚えられちまったか?
まぁ、今となっちゃたいしたことじゃねぇか。
張り上げた声に気付いた奴が振り向いてオレの方へと踵を返して来た。
ポケットに入れていた得物である折りたたまれたサバイバルナイフを奴に手渡す。
「え? これ俺のじゃねぇけど?」
手渡されたサバイバルナイフに注意が向いた隙にオレは奴のこめかみを素早く手で押さえる。
……
視界がグルっと180度反転する。
うっし、入れ替わり成功。
けど、このやり方でもまだちょっと疲れたように感じちまうな。
「さて、オレがさっきまで入ってた体の方はと……お、ちゃんとおねんねしてくれてるみたいだ……なっと!」
そのまま崩れるようにもたれかかって来たさっきまでの体を抱きかかえて通路の脇の方へと運んで行く。
「クソッ、重いな」
意識の無い人間は本当に重い。
ちなみに、コイツはオレが体を入れ替えた時点でもう死んでいる。
見た目はただ眠っているようにしか見えない。
だから、脇に置いておいても誰も死んでいるなんて思わない。
せいぜい、酔っ払いとかが酔い潰れているようにしか見えない。
こういう死体は突発性脳死現象として処理されるらしい。
オレも名前くらいは聞いたことがあったが、まさかこの能力を使った後に出るゴミのことだったとは知らなかった。
「お~い、どうした?」
ぶつかって来た奴の連れらしいのがオレに近づいて来る。
踵を返してから、いつまでたっても帰って来ないのを不思議に思ったんだろう。
ちょうど、渡って来たスクランブル交差点の信号がまた青になった。
オレは元来た道を戻る。
折りたたまれたサバイバルナイフの刃を手の下でゆっくりと開いて。
「おい、どこ行くんだよ!」
連れらしいのが品の無いデカい声で呼び止めているがオレは無視して歩いて行く。
そして、スクランブル交差点の三分の一くらいのところで、オレは前を歩いている人間の背中を頭上高く上げたサバイバルナイフで切り付ける。
スパッ
そんな音が聞こえるわけではないが、服が裂ける感触と皮膚や肉が裂ける感触が刃先から繊細に伝わってくる。
裂けた場所からこの世で最も美しい鮮やかでいて、どす黒い赤色の血液が滲み出てくる。
楽しい時間の合図を感じた体中の血液が漲るのを感じる。
それによって命を全身で感じることが出来て、自分が生きている猛烈に感じる事が出来る。
切り付けた奴は何が起きたのかも理解できずに痛みに悶えながら崩れ落ちる。
だが、周りはまだ自分がこれからどうなるのかも分からず間抜け面をさらしてやがる。
だいたいいつも、二人目か三人目辺りで周りの奴等はようやく自分の置かれている状況に気付いてパニックに陥る。
オレは次の標的目掛けて得物を振り上げる。
今度は背中なんかじゃなく、首筋を狙って。
思い切り得物を振り下ろした直後、勢いの良い血しぶきが上がる。
オレの顔半分以上の面積が血しぶきにさらされ、視界を戻すため両目を手で拭った。
手の甲にはベッタリと鮮やかな赤色の血が付いていた。
「キャーーー!」
「うわぁ゛ーーー!」
どいつもこいつもアホみたいな声出しやがって……そんなことしている暇があったら少しは生き残る努力でもしたらどうなんだよ。
映像が衝撃的なのもあってか、今回は二人目で周りがパニックに陥った。
首筋は三人目辺りにしておけば良かったかもしれねぇなぁ。
だが、中には足がすくんでいたり、腰が抜けて動けなくなっているような救いようのない馬鹿もいた。
オレはそんな連中から三人目を選び、肩にある太い血管目掛けて得物を振るう。
首筋の時程の勢いは無かったが、良い感じで血が溢れ出て来た。
「クッ、アハハハハハハハ! やっぱ、いつやっても最高だなぁ~! な~んで、皆この楽しさが分かんねえーかなぁ~? そんなんで生きてて楽しいのかぁ~!?」
興奮のあまり思わず叫び出しながらオレは四人目に取り掛かる。
ここまでの時間は数十秒程度だ。
「これは中々良いタイムなんじゃねぇーか!」
五人目を切り付けたところで六人目の標的を定めようとした時に、思いがけず女の脇腹辺りを刺しちまった。
逃げ惑う他の連中にドつかれた勢いで、オレの得物に刺さしちまったんだろう。
随分と運の悪い奴だ。
「クッソー! せっかく良い調子だったのに刺しちまったよぉ~!」
ナイフって言うのは刺すもんじゃなくて、切るためにあんだよ!
一回刺しちまうと抜くのも大変だし、その後の切れ味も悪くなるんだよなぁ~!
刃先から内臓を裂く感触が伝わってくるのは良いんだが、案の定あばら骨か何かの骨に当たって中々刃が抜けない。
そうこうしているうちに、周りの人間は追い付けないほどの距離まで蜘蛛の子を散らすように逃げていた。
「もう七人目はキツイよなぁ~。じゃあ、今日はここまでかぁ~」
それなりに楽しめたが、刺しちまったのが痛かったなぁ。
ゴッ、ゴッという骨の嫌な感触を感じながらオレはようやく得物を抜くことが出来た。
最初に背中を切った奴の息がまだあったから、抜いた得物で首筋を切ろうとしたが上手く切れない。
ノコギリのように刃を上下に素早く動かし、強く押し付けることでなんとか切ることが出来た。
切っている時に、オレに切られている奴が口をこれでもかと言うほど大きく開けていたから、相当の叫び声を上げていたんだろうけど、切ることに集中していたオレにとっては心地良いBGMのようにしか感じられなかった。
「よし、これで全部終わりかな」
ぐっと背伸びをして立ち上がると、周りの状況が良く見える。
オレはいつの間にかスクランブル交差点のちょうど真ん中の辺りまで来ていたらしい。
逃げ惑った奴等が逃げる場所なんてお構いなしに逃げたもんだから、車は進むことも戻ることも出来ずにヘッドライトを爛々と照らしたままクラクションを鳴らし続けている。
クラクションの音に混ざって人間の阿鼻叫喚が聞こえ、非常に心地の良い調和のとれた交響曲となっている。
「こんなに素晴らしい音楽は聴いたことがねぇよ! おら、皆も聴いてみろよこの音楽を! 最高だよ!」
誰に伝えるわけでもなく叫んでみる。
オレは真紅に染まったサバイバルナイフを突き出しながら、時計周りに360度あたりを見渡す。
ビルからの明かりと車のヘッドライトに照らされて見える恐怖や狂気に満ちた逃げ惑う奴等という光景とクラクションと阿鼻叫喚が奏でる交響曲。
全くもって最高の景色だった。
オレの半径数十メートルには誰もいない。
誰も彼もが死の恐怖にひれ伏し、まるでオレを中心に世界が回っているかのような錯覚を起こしそうなくらいの優越感が嫌なくらい感じる。
この場にいる全ての人間がオレの一挙手一投足に注目している。
人気の漫画やアニメがビルに取り付けられている大型ディスプレイをジャックした時とは比べ物にならない程の注目がオレに集まっている。
「クッ、アハハハハハハハ! これが本当の渋谷スクランブル交差点ジャックってか?」
遠くからサイレンの音が聞こえる。
止まっていた車も少しずつだが動き出し、パトカーが通る道を開けている。
そろそろ逃げる準備でもするかぁ。
でも、周りに人がいないから入れ替わる新しい体がねぇんだよなぁ。
こんなことなら、体に触れなくても入れ替われる練習をもっとしときゃぁ良かったな。
今のオレは体のどこに触れても入れ替われるから、触れずに出来るようになるのもあと少しでいけるとは思うんだよねぇ。
あれこれ考えているうちに、国家の犬のお巡りさん達がオレを取り囲んでいた。
適当に取り押さえて来たお巡りの体に入れ替わるかぁ。
そう考えて、得物を放り投げ両手を挙げる。
それを見たお巡り共は一斉にクソに群がるハエのように飛びついて来た。
オレは最初に取り押さえて来たお巡りの体に入れ替わり、今度は取り押さえる側になる。
「うっ、う~ん~? え!? 何これ!? どうなってんの!?」
遊び道具だった体が意識を取り戻し、取り押さえられている状況に困惑する。
あ、ヤベ。
コイツの意識刈り取るの忘れてたわ。
ま、いっか。
オレは取り押さえる力を強めて、そう思った。
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