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Tier48 形見
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「これで全て片付いたな」
マノ君は一仕事を終えたように手をはらった。
「あ゛~~~! 私の愛しのコレクションが完全に削除されているぅ~~~!」
那須先輩はこの世の終わりかのように泣き崩れている。
「マノ君、これはちょっとやり過ぎなんじゃないかな」
さすがに、那須先輩が気の毒に思えた。
「何を言っている? これぐらいお灸をすえとかないとコイツはおそらくまたやるぞ」
「そうかな~?」
那須先輩のダメージはお灸をすえる度をはるかに超えていた。
「これでも丈人先輩に知らせてない分、温情を掛けてやってるんだぞ。丈人先輩に知らせたるどうなるか……」
「ど、どうなるの?」
マノ君の顔が暗くなる。
「……知らない方が良い」
え……本当にどうなるの!?
「ま、これに懲りたらもうしないことだな」
「うぅ~~~分かったよ~」
那須先輩は涙目ながらに反省した。
「それにしても、どうしてこんなことしたんです?」
「それは……ここ最近、出費が痛くて……」
「出費って……一体何にそんなにたくさんお金を使っているんですか?」
「う、薄い本とか?」
那須先輩は言いにくそうに言った。
「薄い本? 薄い本って何ですか? 薄いのに値段は高いんですか?」
「伊瀬、やめとけ。俺もよくは知らんが、どうせロクなもんじゃないぞ。聞くだけ無駄だ」
手をひらひらとさせて、マノ君は那須先輩の机の辺りを物色している。
「ちょっと、マノ君! 無駄って何よ! この価値を分かんない子に、そんなこと言われる筋合いはないんだからね!」
さっきまでこの世の終わりかのように泣き崩れていた人だとは思えないくらいの勢いで、マノ君に言い返していた。
「伊瀬君、君もいずれこの価値がいかに素晴らしいかが分かるようになるよ」
「は、はぁ……」
肩にポンと手を置かれて那須先輩に言われたけれど、僕はよく分からなかったので気のない返事しかすることが出来なかった。
「お、中々良さ気なのがあるじゃねぇか」
那須先輩の机の辺りを物色していたマノ君が何かを見つけたらしい。
「なぁ、那須先輩。金欠で困っているなら、これを売れば良いんじゃないか?」
そう言ってマノ君が取り出したのは一眼レフのカメラだった。
型落ちのようではあるけれど、物はかなり良さそうで売ればそれなりの値段が付きそうだ。
「それは駄目!」
カメラを見た瞬間、那須先輩から鋭い声が聞こえてきた。
いつもの那須先輩から発せられた声とは思えないほど鋭いものだった。
マノ君も驚いたようで、若干フリーズしている。
「……あ、ごめん急に大きな声を出しちゃって。でもマノ君、それは駄目なの。それはお父さんの形見なの」
那須先輩の唐突な衝撃的な発言に僕もまたフリーズしてしまった。
「そ、そうだった……んですか。軽率な行動でした。すみません」
事も事なので、マノ君はしおらしく謝罪をする。
「いや、そんな風に謝ったりしなくても大丈夫だよ。マノ君に悪気がなかったことぐらい分かってるから!」
優しく笑いながらマノ君をフォローする。
「あの~那須先輩のお父さんって、もしかして……」
「そう、もう死んじゃったの。私が小学生くらいの頃だったかな。何の前触れもなく急に……ね」
那須先輩の表情に影が落ちる。
「そうだったんですか。すみません、嫌なことを聞いちゃって」
「うんうん、大丈夫。あれから随分時間も経っているから、私の中で心の整理はついているから」
落ちた影はすぐになくなって、いつもの明るい那須先輩に戻っていた。
「那須先輩のお父さんはカメラが趣味だったんですか?」
形見であるカメラ指しながら聞いた。
「う~ん、どうなんだろう。実は、このカメラを見つけたのはお父さんの遺品を整理している時に初めて見つけたんだよね。それまでは一度も見たことがなかったし、私もお母さんもお父さんにカメラの趣味があるなんて知らなかったの。だから趣味だったのか、たまたま持っていただけなのかは分からないんだよ。家族でも知らないことってあるんだね」
「そうなんですか。家族なのに――」
ズキッ
頭の中から鈍くて重い痛みが走った。
耐え切れず、僕は体のバランスを崩してしまった。
「おい、伊瀬!」
マノ君の声で僕はとっさに近くの机に手を掛けて事なきをえた。
「伊瀬君、大丈夫!?」
「大丈夫か、伊瀬!?」
二人が心配そうな顔で駆け寄って来てくれた。
「だ、大丈夫です。軽い立ちくらみをしちゃったみたいです」
僕は二人にこれ以上心配を掛けないように、すぐに立ち上がる。
「ほら、もう大丈夫ですから」
僕の立ち上がった姿を見て二人から心配の色が消えていくのが分かる。
「良かったぁ~びっくりさせないでよ~」
那須先輩が胸をなでおろす。
「すみません、話の途中だったのに。お父さんのカメラの話でしたよね?」
なぜか僕は焦るように話題を変えようと促した。
「う、うん。このカメラを見つけた時に、お父さんの持っていたカメラがどんなものだったのか知りたくなったの。それで、このカメラを使って写真を撮るようになったら、いつの間にか写真を撮ることが好きになっていたの」
「え? でも、那須先輩の趣味って、えっと~薄い本? とかじゃないんですか?」
「それはそれ! 私これでも結構、写真撮るの上手いんだよ。なんなら写真撮る上手さを買われて、生徒会の広報になったと言っても過言じゃないんだから!」
「そうなんですか!?」
僕は驚きつつも那須先輩が生徒会に入れた理由に納得した。
「そうよ! さっきだって、撮影した写真の整理をして新しい学校のホームページに載せる写真の選別とかレイアウトとかを決めてたんだから――」
そこまで言って、那須先輩の顔がサーッと青ざめていくのが分かった。
「どうしよ、期限近いのにまで全然作業終わってない。しかも、書記ちゃん達の分まで作業引き受けちゃったし……」
那須先輩が頭を抱え込み始めたところで、マノ君がさり気なく出口の扉の鍵を開けて僕にすぐ生徒会室から出る準備をするように合図を送って来た。
「ねぇ、二人とも。悪いんだけど残りの作業手伝って――」
「じゃ、俺達はこれで帰ります」
那須先輩が言い終わらないように上から重ねて強引に言い放つと、マノ君は生徒会室を出た。
そして僕もマノ君に釣られて生徒会室を出て、急かされるように校門へと足早に向かう。
「二人とも待ってよぉ~~~! お願いだから手伝ってぇ~~~!」
那須先輩の悲痛な叫び声が生徒会室の方からこだましてきた。
マノ君は一仕事を終えたように手をはらった。
「あ゛~~~! 私の愛しのコレクションが完全に削除されているぅ~~~!」
那須先輩はこの世の終わりかのように泣き崩れている。
「マノ君、これはちょっとやり過ぎなんじゃないかな」
さすがに、那須先輩が気の毒に思えた。
「何を言っている? これぐらいお灸をすえとかないとコイツはおそらくまたやるぞ」
「そうかな~?」
那須先輩のダメージはお灸をすえる度をはるかに超えていた。
「これでも丈人先輩に知らせてない分、温情を掛けてやってるんだぞ。丈人先輩に知らせたるどうなるか……」
「ど、どうなるの?」
マノ君の顔が暗くなる。
「……知らない方が良い」
え……本当にどうなるの!?
「ま、これに懲りたらもうしないことだな」
「うぅ~~~分かったよ~」
那須先輩は涙目ながらに反省した。
「それにしても、どうしてこんなことしたんです?」
「それは……ここ最近、出費が痛くて……」
「出費って……一体何にそんなにたくさんお金を使っているんですか?」
「う、薄い本とか?」
那須先輩は言いにくそうに言った。
「薄い本? 薄い本って何ですか? 薄いのに値段は高いんですか?」
「伊瀬、やめとけ。俺もよくは知らんが、どうせロクなもんじゃないぞ。聞くだけ無駄だ」
手をひらひらとさせて、マノ君は那須先輩の机の辺りを物色している。
「ちょっと、マノ君! 無駄って何よ! この価値を分かんない子に、そんなこと言われる筋合いはないんだからね!」
さっきまでこの世の終わりかのように泣き崩れていた人だとは思えないくらいの勢いで、マノ君に言い返していた。
「伊瀬君、君もいずれこの価値がいかに素晴らしいかが分かるようになるよ」
「は、はぁ……」
肩にポンと手を置かれて那須先輩に言われたけれど、僕はよく分からなかったので気のない返事しかすることが出来なかった。
「お、中々良さ気なのがあるじゃねぇか」
那須先輩の机の辺りを物色していたマノ君が何かを見つけたらしい。
「なぁ、那須先輩。金欠で困っているなら、これを売れば良いんじゃないか?」
そう言ってマノ君が取り出したのは一眼レフのカメラだった。
型落ちのようではあるけれど、物はかなり良さそうで売ればそれなりの値段が付きそうだ。
「それは駄目!」
カメラを見た瞬間、那須先輩から鋭い声が聞こえてきた。
いつもの那須先輩から発せられた声とは思えないほど鋭いものだった。
マノ君も驚いたようで、若干フリーズしている。
「……あ、ごめん急に大きな声を出しちゃって。でもマノ君、それは駄目なの。それはお父さんの形見なの」
那須先輩の唐突な衝撃的な発言に僕もまたフリーズしてしまった。
「そ、そうだった……んですか。軽率な行動でした。すみません」
事も事なので、マノ君はしおらしく謝罪をする。
「いや、そんな風に謝ったりしなくても大丈夫だよ。マノ君に悪気がなかったことぐらい分かってるから!」
優しく笑いながらマノ君をフォローする。
「あの~那須先輩のお父さんって、もしかして……」
「そう、もう死んじゃったの。私が小学生くらいの頃だったかな。何の前触れもなく急に……ね」
那須先輩の表情に影が落ちる。
「そうだったんですか。すみません、嫌なことを聞いちゃって」
「うんうん、大丈夫。あれから随分時間も経っているから、私の中で心の整理はついているから」
落ちた影はすぐになくなって、いつもの明るい那須先輩に戻っていた。
「那須先輩のお父さんはカメラが趣味だったんですか?」
形見であるカメラ指しながら聞いた。
「う~ん、どうなんだろう。実は、このカメラを見つけたのはお父さんの遺品を整理している時に初めて見つけたんだよね。それまでは一度も見たことがなかったし、私もお母さんもお父さんにカメラの趣味があるなんて知らなかったの。だから趣味だったのか、たまたま持っていただけなのかは分からないんだよ。家族でも知らないことってあるんだね」
「そうなんですか。家族なのに――」
ズキッ
頭の中から鈍くて重い痛みが走った。
耐え切れず、僕は体のバランスを崩してしまった。
「おい、伊瀬!」
マノ君の声で僕はとっさに近くの机に手を掛けて事なきをえた。
「伊瀬君、大丈夫!?」
「大丈夫か、伊瀬!?」
二人が心配そうな顔で駆け寄って来てくれた。
「だ、大丈夫です。軽い立ちくらみをしちゃったみたいです」
僕は二人にこれ以上心配を掛けないように、すぐに立ち上がる。
「ほら、もう大丈夫ですから」
僕の立ち上がった姿を見て二人から心配の色が消えていくのが分かる。
「良かったぁ~びっくりさせないでよ~」
那須先輩が胸をなでおろす。
「すみません、話の途中だったのに。お父さんのカメラの話でしたよね?」
なぜか僕は焦るように話題を変えようと促した。
「う、うん。このカメラを見つけた時に、お父さんの持っていたカメラがどんなものだったのか知りたくなったの。それで、このカメラを使って写真を撮るようになったら、いつの間にか写真を撮ることが好きになっていたの」
「え? でも、那須先輩の趣味って、えっと~薄い本? とかじゃないんですか?」
「それはそれ! 私これでも結構、写真撮るの上手いんだよ。なんなら写真撮る上手さを買われて、生徒会の広報になったと言っても過言じゃないんだから!」
「そうなんですか!?」
僕は驚きつつも那須先輩が生徒会に入れた理由に納得した。
「そうよ! さっきだって、撮影した写真の整理をして新しい学校のホームページに載せる写真の選別とかレイアウトとかを決めてたんだから――」
そこまで言って、那須先輩の顔がサーッと青ざめていくのが分かった。
「どうしよ、期限近いのにまで全然作業終わってない。しかも、書記ちゃん達の分まで作業引き受けちゃったし……」
那須先輩が頭を抱え込み始めたところで、マノ君がさり気なく出口の扉の鍵を開けて僕にすぐ生徒会室から出る準備をするように合図を送って来た。
「ねぇ、二人とも。悪いんだけど残りの作業手伝って――」
「じゃ、俺達はこれで帰ります」
那須先輩が言い終わらないように上から重ねて強引に言い放つと、マノ君は生徒会室を出た。
そして僕もマノ君に釣られて生徒会室を出て、急かされるように校門へと足早に向かう。
「二人とも待ってよぉ~~~! お願いだから手伝ってぇ~~~!」
那須先輩の悲痛な叫び声が生徒会室の方からこだましてきた。
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