89 / 126
Tier37 トロッコ問題
しおりを挟む
「それで、何で自動運転の実用化は難しいんだ? 技術的にはだいぶ実用化に近づいているんじゃないのか?」
マノ君が口火を切った。
「そうだね。技術的な面から言えば、完全自動運転車の実現は可能だと思うよ。現にもう、自動運転レベル4の導入が行われているからね」
「あの~自動運転レベル4って何ですか?」
聞きなれない単語に僕は男の人に説明を求めた。
「すまない。いきなり、こんなことを言われても分からないよね。自動運転レベル4というのは『自動運転車(限定領域)のことでね、決められた条件下でのみ全ての運転操作を自動化するんだ。決められた条件下というのは例えば高速道路とかね。緊急時の対応も自動運転システムが全て行うからドライバーが介入する余地は一切ないよ」
「へぇ~レベル3があるなら1とか2もあるってことだよね?」
美結さんが「仮〇ライダー2号がいるなら1号もいるはず」みたいなことを言った。
「もちろん。自動運転レベルは0~5まであるよ。レベル0は『運転自動化なし』。自動運転する技術が何もない車のことだね。レベル1とレベル2は『運転支援車』。レベル1だと車線から逸脱すると自動的に修正するステアリング補正システムや前にいる車との車間距離を保つ加減速調整システムとかがあるかな。レベル2ではレベル1の個々に独立していたステアリング補正システムと加減速調整システムが相互に連携をとるようになるんだ。レベル1もレベル2も自動運転がドライバーにとって代わることはなくて、あくまでドライバーのサポートなんだ。レベル3は『条件付き自動運転車(限定領域)』。レベル3もレベル4と同様に高速道路などの決められた条件下で全ての運転操作を自動化されるんだ。ただし、レベル3では決められた条件下でも緊急時にはドライバー側が操作しないといけないんだ。レベル4についてはさっき説明した通りだよ」
男の人はここで一息ついた。
そして、自分の話に僕達がついてこれているかどうか確かめていた。
僕も他の皆がどのくらい男の人の説明についてこれているのか確かめてみた。
マノ君は話半分で聞いていたような様子だった。
おそらく今の男の話はマノ君も知っていたのだろう。
市川さんは納得顔をしており、理解度は僕と同じくらいな感じだった。
美結さんは……なんとか話にはついてこれているようだ。
「そして最後にレベル5。レベル5は『完全自動運転車』。条件なく、どんなところでも全ての運転を自動化出来る車だ。ドライバーのいらない、まさに自動運転車の理想形だね」
完全な自動運転の車が完成すれば、それは超スマート社会の第一歩になると思う。
「技術面については時間の問題だということは分かった。なら、一体何が問題だと言うんだ?」
確かに、技術面での問題がクリア出来るというのなら他にどんな問題があると言うのだろう。
「それは自動運転という技術を運用する側に問題があるんだ」
「どういう意味だ?」
「そうだなぁ、例えば倫理面。こんな状況を想像してみて。完全自動運転車が当たり前になった近い未来で、ある一台の走行中の自動運転車が外部からの強いアクシデントによって事故が起きてしまった。目の前には5人の人がいて、このままでは轢いてしまう。ハンドルを切って回避しなければ、この5人はおそらく命を落としてしまう。けれども、5人を回避するためには回避した先にいる1人を轢かなければならない。つまり、5人の命を助けるためにハンドルを切らなければ轢かれることのなかった1人を犠牲にしても良いのかということだね」
「トロッコ問題か……」
マノ君の呟きに僕だけじゃなく、美結さんも市川さんも反応した。
どうやら皆、一度は耳にしたことがあったみたいだ。
トロッコ問題とは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という倫理学の思考実験のことだったはず。
その思考実験が自動運転に関係してくるとは思ってもみなかった。
なんとなく、科学的要素が強く感じられる自動運転と倫理学が上手く結びつかなかった。
「君達はどう思う?」
男の人は僕達を試すように投げかけてきた。
「……単純に数的処理として考えるのなら、1人を犠牲にして5人を助けるだろうな」
「そういう風に思うのも分かるよ。でも、その1人は本来は轢かれるなんてことはなかったはずなんだよ。5人を助けるためだからといって犠牲にならなきゃいけないなんて……もしもアタシだったらって考えるとやっぱり嫌だよ」
マノ君の意見に美結さんは反対する。
「そうだ。完璧に数的処理として考えようとしても、俺達には感情がある。どうしても犠牲となる1人に感情移入してしまい、数的処理としての判断が大きく揺らいでしまう。ましてや、運命論なんて出された折には到底判断なんかすることは出来ない。どっちの判断も決定打になるほどの正しさも間違いも無いからな」
二人の意見を聞く中で僕は判断が出来ずに、どんどんと深みにはまっていくようで何も言えずにいた。
それは僕と一緒に黙っていた市川さんも同じのようだ。
どんな結論も全て正しくて全て間違っている、そんな感覚が頭の中で広がっていくのが分かった。
マノ君が口火を切った。
「そうだね。技術的な面から言えば、完全自動運転車の実現は可能だと思うよ。現にもう、自動運転レベル4の導入が行われているからね」
「あの~自動運転レベル4って何ですか?」
聞きなれない単語に僕は男の人に説明を求めた。
「すまない。いきなり、こんなことを言われても分からないよね。自動運転レベル4というのは『自動運転車(限定領域)のことでね、決められた条件下でのみ全ての運転操作を自動化するんだ。決められた条件下というのは例えば高速道路とかね。緊急時の対応も自動運転システムが全て行うからドライバーが介入する余地は一切ないよ」
「へぇ~レベル3があるなら1とか2もあるってことだよね?」
美結さんが「仮〇ライダー2号がいるなら1号もいるはず」みたいなことを言った。
「もちろん。自動運転レベルは0~5まであるよ。レベル0は『運転自動化なし』。自動運転する技術が何もない車のことだね。レベル1とレベル2は『運転支援車』。レベル1だと車線から逸脱すると自動的に修正するステアリング補正システムや前にいる車との車間距離を保つ加減速調整システムとかがあるかな。レベル2ではレベル1の個々に独立していたステアリング補正システムと加減速調整システムが相互に連携をとるようになるんだ。レベル1もレベル2も自動運転がドライバーにとって代わることはなくて、あくまでドライバーのサポートなんだ。レベル3は『条件付き自動運転車(限定領域)』。レベル3もレベル4と同様に高速道路などの決められた条件下で全ての運転操作を自動化されるんだ。ただし、レベル3では決められた条件下でも緊急時にはドライバー側が操作しないといけないんだ。レベル4についてはさっき説明した通りだよ」
男の人はここで一息ついた。
そして、自分の話に僕達がついてこれているかどうか確かめていた。
僕も他の皆がどのくらい男の人の説明についてこれているのか確かめてみた。
マノ君は話半分で聞いていたような様子だった。
おそらく今の男の話はマノ君も知っていたのだろう。
市川さんは納得顔をしており、理解度は僕と同じくらいな感じだった。
美結さんは……なんとか話にはついてこれているようだ。
「そして最後にレベル5。レベル5は『完全自動運転車』。条件なく、どんなところでも全ての運転を自動化出来る車だ。ドライバーのいらない、まさに自動運転車の理想形だね」
完全な自動運転の車が完成すれば、それは超スマート社会の第一歩になると思う。
「技術面については時間の問題だということは分かった。なら、一体何が問題だと言うんだ?」
確かに、技術面での問題がクリア出来るというのなら他にどんな問題があると言うのだろう。
「それは自動運転という技術を運用する側に問題があるんだ」
「どういう意味だ?」
「そうだなぁ、例えば倫理面。こんな状況を想像してみて。完全自動運転車が当たり前になった近い未来で、ある一台の走行中の自動運転車が外部からの強いアクシデントによって事故が起きてしまった。目の前には5人の人がいて、このままでは轢いてしまう。ハンドルを切って回避しなければ、この5人はおそらく命を落としてしまう。けれども、5人を回避するためには回避した先にいる1人を轢かなければならない。つまり、5人の命を助けるためにハンドルを切らなければ轢かれることのなかった1人を犠牲にしても良いのかということだね」
「トロッコ問題か……」
マノ君の呟きに僕だけじゃなく、美結さんも市川さんも反応した。
どうやら皆、一度は耳にしたことがあったみたいだ。
トロッコ問題とは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という倫理学の思考実験のことだったはず。
その思考実験が自動運転に関係してくるとは思ってもみなかった。
なんとなく、科学的要素が強く感じられる自動運転と倫理学が上手く結びつかなかった。
「君達はどう思う?」
男の人は僕達を試すように投げかけてきた。
「……単純に数的処理として考えるのなら、1人を犠牲にして5人を助けるだろうな」
「そういう風に思うのも分かるよ。でも、その1人は本来は轢かれるなんてことはなかったはずなんだよ。5人を助けるためだからといって犠牲にならなきゃいけないなんて……もしもアタシだったらって考えるとやっぱり嫌だよ」
マノ君の意見に美結さんは反対する。
「そうだ。完璧に数的処理として考えようとしても、俺達には感情がある。どうしても犠牲となる1人に感情移入してしまい、数的処理としての判断が大きく揺らいでしまう。ましてや、運命論なんて出された折には到底判断なんかすることは出来ない。どっちの判断も決定打になるほどの正しさも間違いも無いからな」
二人の意見を聞く中で僕は判断が出来ずに、どんどんと深みにはまっていくようで何も言えずにいた。
それは僕と一緒に黙っていた市川さんも同じのようだ。
どんな結論も全て正しくて全て間違っている、そんな感覚が頭の中で広がっていくのが分かった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる