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Tier34 多摩
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俺と伊瀬、如月、市川の四人は今日はもう上がることになった。
「あ~そうだ、マノ君! ちょっといいかな?」
六課を出ようとした帰り際、手塚課長に呼び止められた。
俺は如月に先に行っていろと手で合図をして、三人を先に帰らせた。
俺の足でならすぐに追いつけるだろう。
「何です?」
俺がそう聞き返しても手塚課長からの返答はなかった。
その代わり手塚課長は手を思い切りパタパタとしていた。
どうやら、もっと近くに来いということらしい。
俺は手塚課長との距離が目と鼻の先ぐらいになるまで近づいた。
「今夜、大臣からの迎えが来るから宜しく頼むね」
手塚課長は口の動きを誰にも見られないように手で覆い隠しながら耳打ちした。
「例のヤツですか?」
俺も口をあまり動かさずに手塚課長にしか聞こえないくらいの声量で話す。
「おそらく、そうだと思うよ」
そこまで言うと手塚課長は俺から一歩離れた。
「そういうことだから、よろしくね」
今度は周りにも聞こえるくらいの普通の声量だった。
「了解です」
そう答えて俺は伊瀬達を追いかけるようにして足を帰路に向けた。
--------------------------
「なんだ、まだこんな所にいたのか」
桜並木が続く広い通りを歩いていたところでマノ君が合流した。
「なんだとは何よ。アンタのこと待ってあげていたのに」
「お前らに待ってもらう必要がないから先に行けって言ったんだろうが」
「そんなこと言われてませんし。手でジェスチャーはされましたけど」
「っ! それは言葉の綾だろ!」
マノ君と美結さんは口を開けばすぐに喧嘩になっているな。
「あの~市川さん。この二人っていつもこんな感じなんですか?」
「そうだね。いつもこんな感じだね。というか、こういう感じじゃない時の方が稀だね」
市川さんは二人を眺めながら穏やかに笑った。
普通は逆だと思うんだけどな。
「そういえばマノ君、手塚課長はマノ君に何の用だったの?」
「うん? あー大した用事じゃねぇよ」
美結さんとの言い合いを止めてマノ君がこちらを向いた。
「そうなの? それにしては手塚課長、どこか真剣な様子だったと思うんだけど」
「あ~それはな、自分の親父ギャグをなぜ誰も反応してくれないかって聞かれたんだよ。あと、せめて伊瀬にくらいは反応して欲しかったそうだ」
そう聞いて、美結さんと市川さんは納得しつつも微妙な顔をした。
「そうだったんだ」
やっぱり、手塚課長は僕が親父ギャグに反応しきれなかったことに傷ついていたんだ。
なんだか申し訳なさでいっぱいになってきた。
僕は心の中で手塚課長にごめんなさいと謝った。
「それにしても、この辺の街並みって結構綺麗ですよね。ほら、この桜並木とか春になったらとても綺麗そうじゃないですか」
手塚課長への申し訳なさにいたたまれなくなった僕は話題を変えた。
「まぁ、ここら一帯は再開発されて出来たからな」
「近くには国営の大きい公園もあるしね。花見も出来るし、夏は花火大会とかも有名だしね」
「商業施設もたくさんあるから、多摩地域に住んでいるなら下手に都心に出るよりこっちに来た方が便利かも」
「なるほど」
確かに、首都圏が何かの影響で機能しなくなった時に国の中枢機関が六課があるような所に移されるくらいなんだから、あらゆる施設が充実しているのかもしれないな。
「多摩地域は東京じゃないから都心は遠いもんな」
「何言ってんのよ! 多摩だって東京でしょ!」
「いや、少なくとも23区外は東京じゃないだろ。言うなれば、多摩県か?」
「今すぐ多摩に住んでいる人に謝んなさいよ! というか、アンタだって多摩に住んでいるじゃない! 自分のことだけ棚に上げて何言ってんのよ!」
「それはしょうがないだろ! なんせ政府からここに住めって強制させられているんだからさ。出身は多摩じゃないんだから良いだろう」
「そんなこと言ったらアタシだってそうですけど!?」
「ねぇ、市川さん。止めなくて大丈夫なの?」
マノ君と美結さんの口論が激化する中、平然と先を歩く市川さんに僕は尋ねた。
「大丈夫だよ。止めたところで、あんまり意味無いしね。伊瀬君も慣れれば気にならなくなると思うよ」
そう堂々と言った市川さんは、マノ君と美結さんの対応のスペシャリストだなと僕は思った。
「あ~そうだ、マノ君! ちょっといいかな?」
六課を出ようとした帰り際、手塚課長に呼び止められた。
俺は如月に先に行っていろと手で合図をして、三人を先に帰らせた。
俺の足でならすぐに追いつけるだろう。
「何です?」
俺がそう聞き返しても手塚課長からの返答はなかった。
その代わり手塚課長は手を思い切りパタパタとしていた。
どうやら、もっと近くに来いということらしい。
俺は手塚課長との距離が目と鼻の先ぐらいになるまで近づいた。
「今夜、大臣からの迎えが来るから宜しく頼むね」
手塚課長は口の動きを誰にも見られないように手で覆い隠しながら耳打ちした。
「例のヤツですか?」
俺も口をあまり動かさずに手塚課長にしか聞こえないくらいの声量で話す。
「おそらく、そうだと思うよ」
そこまで言うと手塚課長は俺から一歩離れた。
「そういうことだから、よろしくね」
今度は周りにも聞こえるくらいの普通の声量だった。
「了解です」
そう答えて俺は伊瀬達を追いかけるようにして足を帰路に向けた。
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「なんだ、まだこんな所にいたのか」
桜並木が続く広い通りを歩いていたところでマノ君が合流した。
「なんだとは何よ。アンタのこと待ってあげていたのに」
「お前らに待ってもらう必要がないから先に行けって言ったんだろうが」
「そんなこと言われてませんし。手でジェスチャーはされましたけど」
「っ! それは言葉の綾だろ!」
マノ君と美結さんは口を開けばすぐに喧嘩になっているな。
「あの~市川さん。この二人っていつもこんな感じなんですか?」
「そうだね。いつもこんな感じだね。というか、こういう感じじゃない時の方が稀だね」
市川さんは二人を眺めながら穏やかに笑った。
普通は逆だと思うんだけどな。
「そういえばマノ君、手塚課長はマノ君に何の用だったの?」
「うん? あー大した用事じゃねぇよ」
美結さんとの言い合いを止めてマノ君がこちらを向いた。
「そうなの? それにしては手塚課長、どこか真剣な様子だったと思うんだけど」
「あ~それはな、自分の親父ギャグをなぜ誰も反応してくれないかって聞かれたんだよ。あと、せめて伊瀬にくらいは反応して欲しかったそうだ」
そう聞いて、美結さんと市川さんは納得しつつも微妙な顔をした。
「そうだったんだ」
やっぱり、手塚課長は僕が親父ギャグに反応しきれなかったことに傷ついていたんだ。
なんだか申し訳なさでいっぱいになってきた。
僕は心の中で手塚課長にごめんなさいと謝った。
「それにしても、この辺の街並みって結構綺麗ですよね。ほら、この桜並木とか春になったらとても綺麗そうじゃないですか」
手塚課長への申し訳なさにいたたまれなくなった僕は話題を変えた。
「まぁ、ここら一帯は再開発されて出来たからな」
「近くには国営の大きい公園もあるしね。花見も出来るし、夏は花火大会とかも有名だしね」
「商業施設もたくさんあるから、多摩地域に住んでいるなら下手に都心に出るよりこっちに来た方が便利かも」
「なるほど」
確かに、首都圏が何かの影響で機能しなくなった時に国の中枢機関が六課があるような所に移されるくらいなんだから、あらゆる施設が充実しているのかもしれないな。
「多摩地域は東京じゃないから都心は遠いもんな」
「何言ってんのよ! 多摩だって東京でしょ!」
「いや、少なくとも23区外は東京じゃないだろ。言うなれば、多摩県か?」
「今すぐ多摩に住んでいる人に謝んなさいよ! というか、アンタだって多摩に住んでいるじゃない! 自分のことだけ棚に上げて何言ってんのよ!」
「それはしょうがないだろ! なんせ政府からここに住めって強制させられているんだからさ。出身は多摩じゃないんだから良いだろう」
「そんなこと言ったらアタシだってそうですけど!?」
「ねぇ、市川さん。止めなくて大丈夫なの?」
マノ君と美結さんの口論が激化する中、平然と先を歩く市川さんに僕は尋ねた。
「大丈夫だよ。止めたところで、あんまり意味無いしね。伊瀬君も慣れれば気にならなくなると思うよ」
そう堂々と言った市川さんは、マノ君と美結さんの対応のスペシャリストだなと僕は思った。
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