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Tier32 バッテン
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「話しておくべきことは、こんなところかな。皆、今日はもう上がっていいよ。非番の日にわざわざ呼び出してしまって悪かったね」
手塚課長が僕達を見渡して労いの言葉をかけてくれた。
この数時間で僕は六課のことやマイグレーション・マイグレーターのこと、元凶となった事件のことなどいろいろなことを説明してもらった。
同時に、物事の真実や自分がいかに無知であるかを思い知らされた。
「そんな気にしないで下さい。それじゃあ、お言葉に甘えて俺達も今日はもう上がらせてもらいますね」
丈人先輩と未だに口を塞がれている那須先輩が部屋を出て行こうとした。
「佐々木君、那須君。君達二人は今日は非番じゃないよね。勝手に上がられてしまうと困りますね」
手塚課長の声に扉の前まで来ていた丈人先輩と那須先輩の動きが止まった。
「やっぱ、バレちゃいましたか?」
いたずらを親に見つかった子供のような表情で丈人先輩が手塚課長の方に振り返った。
「んむむむ、んむっむんむんん~」
「『いけると、思ったんだけどな~』って言っています」
当たり前のように丈人先輩が那須先輩の通訳をした。
本当にどうして那須先輩が何を言っているのか分かるのか不思議でならない。
「私だってこれでも、この六課の課長だからね。六課の皆のことはちゃんと把握していますからね」
二人は観念したかのように自分の机に戻った。
「ところで、那須君。そろそろ口を塞いでいるテープは取った方が良いと思うよ」
たぶん、少し前から皆が思っていたことを手塚課長が代弁してくれた。
「んむんむん?」
丈人先輩の通訳は無かったが、那須先輩が何を言いたいのかはなんとなく分かる。
きっと、「そうですか?」みたいなことを言っているのだろう。
僕達は黙って首を縦に振った。
それを見て那須先輩はバッテンに口を塞いでいたマスキングテープをはがした。
「プッハァ! 空気が美味しい!」
都会から自然豊かな田舎に遊びに来た人が言いそうな感想とともに那須先輩の口はついにマスキングテープから解放された。
解放されたのは良かったのだけれど……
「プッ!」
丈人先輩が噴出したのを見て、僕達は堰を切ったかのように笑い出した。
マノ君も笑いを堪えようと肩を震わせている。
「ちょ、ちょっと! 何で皆して笑っているの? 何がそんなに可笑しいの?」
一人だけ何も知らない那須先輩が訳が分からないという顔で僕達を見ている。
「だ、だって……波瑠見先輩の……口が……アハハハハ! もう駄目!」
僕達が笑ってしまっている訳を美結さんが教えようとしたが、笑いを堪えきれずに断念してしまった。
「え!? 私の口がどうかしたの?」
笑われている訳が分からない那須先輩の困惑したその声が余計に僕達を笑わせる燃料となり、またドッと笑いの波が押し寄せてきた。
「あんな塞がれたをされていた時点で予想はしていたが、まさか……那須先輩がここまでのアホ面になるとはなっ!」
大きく肩を揺らしてマノ君が笑いを嚙み殺しながら言った。
「先輩に向かってアホ面とは良い度胸ね。さんを付けなさいよデ――」
「でも、今の波瑠見ちゃんの顔は確かにアホ面だよ。あー痛い、痛い! お腹痛い! お願いだからこれ以上笑わせないでくれ!」
笑い過ぎてお腹をよじった丈人先輩が目の端に涙を浮かべながら訴える。
そして、ジャケットの内ポケットから手鏡を出して那須先輩を見ないように顔を背けながら、手鏡を那須先輩の顔の前に向けた。
「鏡? これがどうし……えっ!? 何これ!?」
ようやく、事態を理解した那須先輩が悲鳴に近い声を上げた。
僕達がなぜ笑っていたのかというと、那須先輩の口にマスキングテープの痕が赤くバッテンにくっきりと残っているせいなのだ。
その見た目があまりにも滑稽で、皆して笑いを堪えきれずにいた。
「あれっ!? 全然、痕が取れないんだけど!」
那須先輩は自分の口元に出来たバッテン印の痕を消そうと、一生懸命に手で擦っている。
けれど、一向に消えなければ、痕が薄くもならない。
そんな那須先輩の反応を見て、僕達はより一層お腹を抱えて笑ってしまった。
--------------------------
一通り笑い終えた僕達は疲れ切っていた。
笑うことがこんなにも体力を奪われるものとは思わなかった。
「うぅ……こんなことになるなら早くテープを外しておけばよかった……」
皆に笑われて余程恥ずかしかったのか、那須先輩が恨み節のように呟いた。
「つい笑ちゃったけど、バッテンの痕が付いた波瑠見ちゃんも可愛かったよ」
丈人先輩が慰めるように那須先輩の肩をポンポンと叩く。
「なら、どうして私の口元ばかり見ているんですか?」
そうなのだ。
慰めるようなことを言いつつ、丈人先輩の視線はずっとまだくっきりとバッテンの痕が残っている那須先輩の口元に注がれていた。
「え? そんなことないよ」
丈人先輩は笑って誤魔化す。
本当はこれっぽっちも誤魔化せていないのだけれど。
「そういや、いつの間にか深見さんいなくなってねぇか?」
「あれ? 本当だ!」
マノ君に言われて辺りを見渡してみると、確かに深見さんの姿がどこにも見当たらなかった。
「アンタよく気付いたわね。アタシは言われるまで全然気付かなかったのに」
「あの深見さんが腹抱えて笑っているとは思えなくてな。それで周りを探してみたら、案の定この場からいなくなっているわけだ」
僕も深見さんがお腹を抱えるほど笑っている姿というのが、どうにもイメージすることが出来なかった。
「あぁ、深見君なら少し前に用事があるとか言って出て行ったよ」
手塚課長が思い出したかのように言った。
「少し前っていつです?」
「え~っと、マノ君が伊瀬君に八雲の仲間である疑いがあるっていう冗談を言ったすぐ後ぐらいかな」
「少しじゃなくて、結構前じゃないですか!」
手塚課長の少し前の感覚がアバウト過ぎてマノ君がツッコんだ。
それにしてもこれだけの人の目がある中で深見さんはよく誰にも気付かれずに出て行くことが出来たなと感心してしまう。
しかも、いなくなってからの時間もそれなりに経っている。
それでも気付かれないってことは、ゲームでよくある潜伏スキルのようなものを深見さんは持っているんじゃないかと疑ってみたくなってしまう。
手塚課長が僕達を見渡して労いの言葉をかけてくれた。
この数時間で僕は六課のことやマイグレーション・マイグレーターのこと、元凶となった事件のことなどいろいろなことを説明してもらった。
同時に、物事の真実や自分がいかに無知であるかを思い知らされた。
「そんな気にしないで下さい。それじゃあ、お言葉に甘えて俺達も今日はもう上がらせてもらいますね」
丈人先輩と未だに口を塞がれている那須先輩が部屋を出て行こうとした。
「佐々木君、那須君。君達二人は今日は非番じゃないよね。勝手に上がられてしまうと困りますね」
手塚課長の声に扉の前まで来ていた丈人先輩と那須先輩の動きが止まった。
「やっぱ、バレちゃいましたか?」
いたずらを親に見つかった子供のような表情で丈人先輩が手塚課長の方に振り返った。
「んむむむ、んむっむんむんん~」
「『いけると、思ったんだけどな~』って言っています」
当たり前のように丈人先輩が那須先輩の通訳をした。
本当にどうして那須先輩が何を言っているのか分かるのか不思議でならない。
「私だってこれでも、この六課の課長だからね。六課の皆のことはちゃんと把握していますからね」
二人は観念したかのように自分の机に戻った。
「ところで、那須君。そろそろ口を塞いでいるテープは取った方が良いと思うよ」
たぶん、少し前から皆が思っていたことを手塚課長が代弁してくれた。
「んむんむん?」
丈人先輩の通訳は無かったが、那須先輩が何を言いたいのかはなんとなく分かる。
きっと、「そうですか?」みたいなことを言っているのだろう。
僕達は黙って首を縦に振った。
それを見て那須先輩はバッテンに口を塞いでいたマスキングテープをはがした。
「プッハァ! 空気が美味しい!」
都会から自然豊かな田舎に遊びに来た人が言いそうな感想とともに那須先輩の口はついにマスキングテープから解放された。
解放されたのは良かったのだけれど……
「プッ!」
丈人先輩が噴出したのを見て、僕達は堰を切ったかのように笑い出した。
マノ君も笑いを堪えようと肩を震わせている。
「ちょ、ちょっと! 何で皆して笑っているの? 何がそんなに可笑しいの?」
一人だけ何も知らない那須先輩が訳が分からないという顔で僕達を見ている。
「だ、だって……波瑠見先輩の……口が……アハハハハ! もう駄目!」
僕達が笑ってしまっている訳を美結さんが教えようとしたが、笑いを堪えきれずに断念してしまった。
「え!? 私の口がどうかしたの?」
笑われている訳が分からない那須先輩の困惑したその声が余計に僕達を笑わせる燃料となり、またドッと笑いの波が押し寄せてきた。
「あんな塞がれたをされていた時点で予想はしていたが、まさか……那須先輩がここまでのアホ面になるとはなっ!」
大きく肩を揺らしてマノ君が笑いを嚙み殺しながら言った。
「先輩に向かってアホ面とは良い度胸ね。さんを付けなさいよデ――」
「でも、今の波瑠見ちゃんの顔は確かにアホ面だよ。あー痛い、痛い! お腹痛い! お願いだからこれ以上笑わせないでくれ!」
笑い過ぎてお腹をよじった丈人先輩が目の端に涙を浮かべながら訴える。
そして、ジャケットの内ポケットから手鏡を出して那須先輩を見ないように顔を背けながら、手鏡を那須先輩の顔の前に向けた。
「鏡? これがどうし……えっ!? 何これ!?」
ようやく、事態を理解した那須先輩が悲鳴に近い声を上げた。
僕達がなぜ笑っていたのかというと、那須先輩の口にマスキングテープの痕が赤くバッテンにくっきりと残っているせいなのだ。
その見た目があまりにも滑稽で、皆して笑いを堪えきれずにいた。
「あれっ!? 全然、痕が取れないんだけど!」
那須先輩は自分の口元に出来たバッテン印の痕を消そうと、一生懸命に手で擦っている。
けれど、一向に消えなければ、痕が薄くもならない。
そんな那須先輩の反応を見て、僕達はより一層お腹を抱えて笑ってしまった。
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一通り笑い終えた僕達は疲れ切っていた。
笑うことがこんなにも体力を奪われるものとは思わなかった。
「うぅ……こんなことになるなら早くテープを外しておけばよかった……」
皆に笑われて余程恥ずかしかったのか、那須先輩が恨み節のように呟いた。
「つい笑ちゃったけど、バッテンの痕が付いた波瑠見ちゃんも可愛かったよ」
丈人先輩が慰めるように那須先輩の肩をポンポンと叩く。
「なら、どうして私の口元ばかり見ているんですか?」
そうなのだ。
慰めるようなことを言いつつ、丈人先輩の視線はずっとまだくっきりとバッテンの痕が残っている那須先輩の口元に注がれていた。
「え? そんなことないよ」
丈人先輩は笑って誤魔化す。
本当はこれっぽっちも誤魔化せていないのだけれど。
「そういや、いつの間にか深見さんいなくなってねぇか?」
「あれ? 本当だ!」
マノ君に言われて辺りを見渡してみると、確かに深見さんの姿がどこにも見当たらなかった。
「アンタよく気付いたわね。アタシは言われるまで全然気付かなかったのに」
「あの深見さんが腹抱えて笑っているとは思えなくてな。それで周りを探してみたら、案の定この場からいなくなっているわけだ」
僕も深見さんがお腹を抱えるほど笑っている姿というのが、どうにもイメージすることが出来なかった。
「あぁ、深見君なら少し前に用事があるとか言って出て行ったよ」
手塚課長が思い出したかのように言った。
「少し前っていつです?」
「え~っと、マノ君が伊瀬君に八雲の仲間である疑いがあるっていう冗談を言ったすぐ後ぐらいかな」
「少しじゃなくて、結構前じゃないですか!」
手塚課長の少し前の感覚がアバウト過ぎてマノ君がツッコんだ。
それにしてもこれだけの人の目がある中で深見さんはよく誰にも気付かれずに出て行くことが出来たなと感心してしまう。
しかも、いなくなってからの時間もそれなりに経っている。
それでも気付かれないってことは、ゲームでよくある潜伏スキルのようなものを深見さんは持っているんじゃないかと疑ってみたくなってしまう。
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