マイグレーション ~現実世界に入れ替え現象を設定してみた~

気の言

文字の大きさ
上 下
78 / 126

Tier26 脳波

しおりを挟む
「だけど、今の検査方法のままだと全然駄目なんだよね」

 僕に褒められて嬉しそうに笑っていた姫石さんが少し気を落としたように言った。

「なんでですか? マイグレーターに入れ替わっているかどうかの判別が出来るんですよね? それなのにどうして全然駄目なんですか?」

 正確性があまり高くはないのだろうか。
 でも、姫石さんは検査した人はマイグレーターに入れ替わっている可能性は無いと言っていた。
 それなら、正確性が高くないということはないはずだと思う。

「伊瀬、お前検査にどれくらい時間が掛かった?」

 急にマノ君が話に割って入ってきた。

「え? どれくらいって……少なくとも半日以上は掛かったと思うけど」

「そうだ。それだけの時間が掛かるんだ。そんな時間の掛かる検査を日本の国民全員にやらせられるか? 現実的に考えて無理だろ。ましてや即座にマイグレーターに入れ替わっていないか判別したい時だってあるだろう。そういう時はどうするんだ?」

 マノ君の言ったことは全く持ってその通りだった。
 マイグレーターに入れ替わっているかどうかの判別が出来るだけではいけないんだ。
 その判別が時と場合に応じて可能であることも大切だ。

「マノ君は歯に衣着せずに指摘してくれるね。まぁ、確かにその通りなんだけどさ。それに判別が出来るのはあくまでも一般人がマイグレーターに入れ替わっているかどうかの判別だけ。マイグレーター自体の判別は出来ないの」

「どういうことですか?」

 マイグレーターに入れ替わっているかどうかの判別が出来るのにマイグレーターがマイグレーターであるという判別が出来ないのはどこか矛盾しているような気がする。

「そうだなぁ……例えば、もし仮に伊瀬君がマイグレーターだったとして脳波の検査をしたらどうなると思う?」

「それはもちろん、脳波に乱れがあるんじゃないんですか?」

「ところが、脳波に乱れはないんだよ。つまり、マイグレーターでない一般人と同じ脳波ってこと」

「え!? どうして……?」

 僕は姫石さんにとって予想通りの回答をしてしまったようだ。

「じゃあ、今度はマイグレーターである伊瀬君が私の体に入れ替わった状態で脳波の検査を受けたとしたらどうなると思う?」

 姫石さんはヒントを出すように僕に質問した。

「……そっか、その場合だと脳波が乱れるんですね。姫石さんの脳に僕の意識という不純物が入るわけですから脳波が僅かに乱れる。逆に僕の脳に僕の意識がある状態であれば、脳と意識は相性が最も良いわけだからズレは生じない。だから、脳波に乱れがない。いくらマイグレーターだからといっても脳と意識が本人のものであったなら、一般人と脳波は変わらないんですね」

 僕はようやく姫石さんが言わんとしていることが分かった。

「……伊瀬君は推察力がすごいね! 全部説明する前に答え言われちゃったよ」

 姫石さんは元々丸くて大きな目をさらに見開いて感嘆した。

「伊瀬君ならワトソンにも小林少年にもなれるね!」

 僕は名探偵には決してなれないということを暗に言われているようで複雑な気持ちだ。
 もちろん、ワトソンや小林少年は名探偵の優秀な補佐役だから言われて嫌なわけじゃない。
 ただ、どうせなら名探偵の方を言って欲しかった。
 いや、僕にはなれないということは分かっていますよ。
 ……ここは素直に誉め言葉として受け取っていた方が良さそうだな。

「へぇ~そういうことだったんだ。アタシも知らなかった」

「何でお前も知らないんだよ」

 思わず呟いていた美結さんにマノ君が反応した。

「いや、知らなかったわけじゃないんだよ! そうじゃなくて、どういう理由で判別が出来たり出来なかったりするのかを知らなかっただけ!」

 きっと美結さんは、計算式の答えは分かっているけれど途中式は分かっていないという感じなのだろう。
 マノ君はそんな美結さんを見てやれやれと肩を落としていた。

「なんて浅はかな」

 心底呆れたようにマノ君は言った。

「そこまで言わなくたって良いじゃない!」

「とにかく、今の課題は検査の簡略化とマイグレーター自体を判別出来るようにすることかな」

 マノ君と美結さんがケンカになりそうになったことを察した姫石さんが二人の間を分かつように割って入った。

「そのためには、これからもマイグレーションの研究を頑張らないとね!」

 自分を鼓舞するように言った姫石さんを見て、僕は姫石さんにならそれを実現することが出来る日も近いじゃないかと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

.
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...