56 / 123
Tier10 元凶
しおりを挟む
「あの~ところでなんですけど、マイグレーターってどうやって成るんですか? さっき早乙女さんがマイグレーターは成る者だと聞いてからずっと気になっていたんです。万に一つもないとは思いますが、僕なんかでもマイグレーターに成ることって出来たりするんでしょうか?」
そんな質問をしてから僕は自分でも馬鹿だなと思ってしまうような質問だったと思った。
それでも僕は聞かずにはいられなかった。
僕だって男の子だ。
人とは違う特殊な能力を持った人間に成れるかもしれないなんて話を聞いたら、誰だって少年心をくすぐられるはずだと思う。
「……成れることには成れます。ですが、成れないと考えて頂いた方が良いと思います」
早乙女さんが困ったような表情で言ったのを見て、僕はこんな質問をしてしまった自分が恥ずかしなった。
それに、少年心をくすぐられた僕の儚い夢は一瞬にして塵となってしまった。
「早乙女君、構わないから話したまえ」
僕が「成れることには成れる」という早乙女さんの言葉に疑問と僅かな希望を見出そうとした時に榊原大臣が言った。
「宜しいのですか、大臣? かなりの機密事項ですよ。いくら伊瀬さんが六課への所属が決定したからといって、この段階での開示は時期早々ではありませんか?」
少し驚いた様子で早乙女さんが榊原大臣に聞き返した。
「確かにそうだね。しかしね、彼も遅かれ早かれ知ることには変わりはないだろう。ならば、早く知っておくことに越したことはないと思うがね」
「分かりました。大臣がそうおっしゃるのなら、私はそれに従うまでです」
軽い気持ちで質問したつもりだったのだけれど、僕はかなり際どい質問をしてしまっていたのかもしれない。
「では、改めて。これからお話することは今申し上げました通り、秘匿度合いの高い機密事項ですのでくれぐれも漏洩しないようご注意下さい」
早乙女さんはそう前置きしてから言った。
「マイグレーターは八雲 加琉麻という一人の人間によって生み出されています」
「え?」
僕は今日で何度目か分からない「え?」を言ってしまった。
けれど、やっぱり反射的にそう言ってしまう。
それにしても八雲加琉麻という名前……どこかで聞いたことがあるような気がする。
「その八雲加琉麻という人がマイグレーターを生み出すってどういうことですか? 正直、言われていることが全く想像出来ないんですけど……」
「もちろん、絶対にそうだとは言い切れませんが可能性としては100%に限りなく近いと考えて差し支えないと思われます。我々がこの結論に至ったのは、確認されたマイグレーターと成った者達の全員が八雲加琉麻と思われしき人物と何らかの接触をしたことによってマイグレーターと成ったことが分かったからです。おそらく、八雲加琉麻には接触した相手にマイグレーションを扱えるようにする力を与える能力があるのではないのかと考えられています」
早乙女さんの説明を聞いた僕は率直に、人に特殊な力を与えることが出来る八雲という人はまるで神様みたいな人だなと思ってしまった。
「それって誰に対しても出来るんですか?」
「可能だと思われます。現に、老若男女問わずマイグレーターと成っていることが確認されています」
なるほど。
だから、早乙女さんは僕にでもマイグレーターに成れることには成れると言ったみたいだ。
「たった一人の人間にそんなことが出来るなんて信じられないですね」
「そうですね。当初、我々もマイグレーターと成った者には何かしらの遺伝的特徴があると考え、マイグレーターのあらゆる情報を精査しました。しかし、成果を得ることは出来ずに研究が進んでいき八雲加琉麻という人間の存在に行き着いたのです。マイグレーションという一連の出来事が一人の人間によって持たされたという結論は我々の想像のはるか上をいっていました」
「要するに、全ての元凶となっているのが八雲加琉麻であるということだ。これは裏を返せば、八雲加琉麻という一人の人間をどうにかすることが可能であればマイグレーションという現象を完全に消滅させることが出来るということだ」
榊原大臣の言う通りだった。
マイグレーションという一連の出来事が八雲という人が原因なのであれば、その原因を解消すれば全てが解決することになる。
「今もまだマイグレーションが消滅していないということは八雲という人をどうにか出来ていないってことですよね? そうなると、え~と、警視庁公安部――」
「その呼び方だと長いだろう。『六課』で構わないよ。実際に、六課に所属している彼らはそう呼んでいる」
「警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室」と言おうとして言葉を詰まらせた僕を見て、榊原大臣がそう助言してくれた。
「あ、分かりました。じゃあ、その六課の最終的な目的は八雲加琉麻を殺すことなんでしょうか?」
「フッ、君は察しが良いな。そして、なかなかに大胆な物言いだ。君の言う通りだ。六課は八雲加琉麻を逮捕もとい殺害するために発足されたと言っても過言ではない。そのためにマイグレーターを協力者として六課に所属させるなどの超法規的措置を取っている。だが、事はそう簡単ではない。我々も一度、八雲加琉麻には手痛い目にあっているからな」
苦虫を噛み潰したような顔で榊原大臣が言った。
「手痛い目にあったというのは一度、八雲加琉麻を殺害しようとして失敗したということですか?」
僕の問いかけに榊原大臣は頷いて、こう言った。
「君は五年前に起きた『平川第五中学校爆破事件』を覚えているかね?」
そんな質問をしてから僕は自分でも馬鹿だなと思ってしまうような質問だったと思った。
それでも僕は聞かずにはいられなかった。
僕だって男の子だ。
人とは違う特殊な能力を持った人間に成れるかもしれないなんて話を聞いたら、誰だって少年心をくすぐられるはずだと思う。
「……成れることには成れます。ですが、成れないと考えて頂いた方が良いと思います」
早乙女さんが困ったような表情で言ったのを見て、僕はこんな質問をしてしまった自分が恥ずかしなった。
それに、少年心をくすぐられた僕の儚い夢は一瞬にして塵となってしまった。
「早乙女君、構わないから話したまえ」
僕が「成れることには成れる」という早乙女さんの言葉に疑問と僅かな希望を見出そうとした時に榊原大臣が言った。
「宜しいのですか、大臣? かなりの機密事項ですよ。いくら伊瀬さんが六課への所属が決定したからといって、この段階での開示は時期早々ではありませんか?」
少し驚いた様子で早乙女さんが榊原大臣に聞き返した。
「確かにそうだね。しかしね、彼も遅かれ早かれ知ることには変わりはないだろう。ならば、早く知っておくことに越したことはないと思うがね」
「分かりました。大臣がそうおっしゃるのなら、私はそれに従うまでです」
軽い気持ちで質問したつもりだったのだけれど、僕はかなり際どい質問をしてしまっていたのかもしれない。
「では、改めて。これからお話することは今申し上げました通り、秘匿度合いの高い機密事項ですのでくれぐれも漏洩しないようご注意下さい」
早乙女さんはそう前置きしてから言った。
「マイグレーターは八雲 加琉麻という一人の人間によって生み出されています」
「え?」
僕は今日で何度目か分からない「え?」を言ってしまった。
けれど、やっぱり反射的にそう言ってしまう。
それにしても八雲加琉麻という名前……どこかで聞いたことがあるような気がする。
「その八雲加琉麻という人がマイグレーターを生み出すってどういうことですか? 正直、言われていることが全く想像出来ないんですけど……」
「もちろん、絶対にそうだとは言い切れませんが可能性としては100%に限りなく近いと考えて差し支えないと思われます。我々がこの結論に至ったのは、確認されたマイグレーターと成った者達の全員が八雲加琉麻と思われしき人物と何らかの接触をしたことによってマイグレーターと成ったことが分かったからです。おそらく、八雲加琉麻には接触した相手にマイグレーションを扱えるようにする力を与える能力があるのではないのかと考えられています」
早乙女さんの説明を聞いた僕は率直に、人に特殊な力を与えることが出来る八雲という人はまるで神様みたいな人だなと思ってしまった。
「それって誰に対しても出来るんですか?」
「可能だと思われます。現に、老若男女問わずマイグレーターと成っていることが確認されています」
なるほど。
だから、早乙女さんは僕にでもマイグレーターに成れることには成れると言ったみたいだ。
「たった一人の人間にそんなことが出来るなんて信じられないですね」
「そうですね。当初、我々もマイグレーターと成った者には何かしらの遺伝的特徴があると考え、マイグレーターのあらゆる情報を精査しました。しかし、成果を得ることは出来ずに研究が進んでいき八雲加琉麻という人間の存在に行き着いたのです。マイグレーションという一連の出来事が一人の人間によって持たされたという結論は我々の想像のはるか上をいっていました」
「要するに、全ての元凶となっているのが八雲加琉麻であるということだ。これは裏を返せば、八雲加琉麻という一人の人間をどうにかすることが可能であればマイグレーションという現象を完全に消滅させることが出来るということだ」
榊原大臣の言う通りだった。
マイグレーションという一連の出来事が八雲という人が原因なのであれば、その原因を解消すれば全てが解決することになる。
「今もまだマイグレーションが消滅していないということは八雲という人をどうにか出来ていないってことですよね? そうなると、え~と、警視庁公安部――」
「その呼び方だと長いだろう。『六課』で構わないよ。実際に、六課に所属している彼らはそう呼んでいる」
「警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室」と言おうとして言葉を詰まらせた僕を見て、榊原大臣がそう助言してくれた。
「あ、分かりました。じゃあ、その六課の最終的な目的は八雲加琉麻を殺すことなんでしょうか?」
「フッ、君は察しが良いな。そして、なかなかに大胆な物言いだ。君の言う通りだ。六課は八雲加琉麻を逮捕もとい殺害するために発足されたと言っても過言ではない。そのためにマイグレーターを協力者として六課に所属させるなどの超法規的措置を取っている。だが、事はそう簡単ではない。我々も一度、八雲加琉麻には手痛い目にあっているからな」
苦虫を噛み潰したような顔で榊原大臣が言った。
「手痛い目にあったというのは一度、八雲加琉麻を殺害しようとして失敗したということですか?」
僕の問いかけに榊原大臣は頷いて、こう言った。
「君は五年前に起きた『平川第五中学校爆破事件』を覚えているかね?」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/mystery.png?id=41ccf9169edbe4e853c8)
それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/entertainment.png?id=2f3902aa70cec36217dc)
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる