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Tier5 任命
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大きな窓を背に座っている榊原大臣は、何を言わずとも背筋が伸びるような迫力を与えてくるような人だった。
「君が伊瀬祐介君だね?」
榊原大臣が僕を見定めるように聞いてきた。
「は、はい。伊瀬祐介と申します」
「なるほど。彼もなかなかに面白い人材を推薦してきたものだな」
面白い人材?
それは僕のことを言っているのだろうか?
僕には面白い要素なんて一つもないはずだ。
クラスでも目立たない方だし、これといって何か取り柄があるわけでもない。
「私は榊原康栄というものだ。大臣なんていう大層な名前を貰っているが、やっていることはこの国の雑用にすぎない。まぁ、君もそんなところに突っ立っていないで座りたまえ」
そう言って榊原大臣は手前にある小さなテーブルと低めの椅子が四つあるところへと僕を促した。
「あ、ありがとうございます」
僕は体が少し強張っているのを感じながら四つの椅子の中で自分から一番近い場所にあった椅子を選んで座った。
僕が座ると榊原大臣が僕の対面に座ってきた。
続いて、扉の音が鳴らないようにと静かに閉めた早乙女さんが榊原大臣の隣に座った。
「あの~それで僕にご用件とは一体なんでしょうか?」
僕は遠慮気味に榊原大臣に尋ねた。
「早速だね。まぁ、いきなり私のような立場の人間に呼び出されれば何事かと気になるのは分からなくもないがね。君を呼び出した理由を簡潔に言えば、君に一つ頼みたいことがあるからだ」
「頼みたいことですか……僕みたいなただの高校生がお力になれるとは思えませんが……」
榊原大臣が僕に頼み事?
どう考えてもおかしい。
高校生に頼める内容だったとしても頼む相手は絶対に僕なんかじゃないはずだ。
同じ高校生でも僕なんかよりもスポーツ万能な人や頭脳明晰な人は星の数ほどいるはずだ。
「いや、君だからこそだ。私もここまで我々の条件に当てはまった人材が見つかるとは思ってもみなかった」
僕は榊原大臣の言葉を聞いて面食らった。
僕だからお願いしたいという理由で人に何かを頼まれるなんてことは、今まで生きてきて一度もなかったからだ。
いつも誰かがやりたくないことを頼まれてやってきたという節が僕にはあった。
そのせいか、今回もそういう類のことだろうと思い込んでいたのでとても驚いている。
それと同時に誰かに必要とされたという事実に僕は飛び跳ねるような嬉しさを感じていた。
正直、驚きと嬉しさが表情に滲み出ていたりしないか心配だった。
「僕だからですか……具体的に何をすれば良いんでしょうか?」
「そうだね。いろいろと説明しなければならないことはあるが、単刀直入に言おう。君には三ヶ月の研修を受けた後に、警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室の特別司法警察職員として働いて貰いたい」
僕は言われたことを理解するのにかなり時間が掛かってしまった。
公安?
突発性脳死現象?
特別……警察?
単語自体は聞いたことがある。
単語の意味もそれなりには分かる。
ただ、その単語を僕に言う理由が分からない。
それに僕がなれってことなのか?
え……何で?
僕がそんなこと出来るわけないじゃないか。
「それって断ったりはできるんでしょうか?」
言われた内容を全て理解出来たわけではないが、とにかく僕には出来そうにないことだけは分かった。
「悪いが正直に言えば君がここに来られている時点で、君に断るという選択肢は存在しない」
榊原大臣は早乙女さんに目配せして受け取った物をテーブルの上に置きながら言った。
そこには僕の名前や顔写真などが載った警察手帳のような物が置かれていた。
こんな物が既に作られているということは本当に最初から僕に断るという選択肢は残されていなかったみたいだ。
「……分かりました。僕なんかがお力になれるかどうかは分かりませんが、榊原大臣のその頼み引き受けさせて頂こうと思います」
「そうか。我々の都合に巻き込んでしまったことについては申し訳ないが、君が引き受けてくれたことに礼を言おう」
榊原大臣はそう言って頭を下げた。
まさか大臣という立場の人から頭を下げられることなんてあるのかと思いつつも、断る選択肢を用意させなかった榊原大臣は腹の底が読めない人だなとも僕は思った。
「ではここに伊瀬祐介の警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室、特別司法警察職員としての任を命ずる」
榊原大臣の身を引き締られるような鋭い声が部屋に響いた。
「は、はい!」
僕は自分でも情けないと思ってしまうような声で返事をしてしまった。
とにもかくにも、僕は警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室の特別司法警察職員となってしまった。
「君が伊瀬祐介君だね?」
榊原大臣が僕を見定めるように聞いてきた。
「は、はい。伊瀬祐介と申します」
「なるほど。彼もなかなかに面白い人材を推薦してきたものだな」
面白い人材?
それは僕のことを言っているのだろうか?
僕には面白い要素なんて一つもないはずだ。
クラスでも目立たない方だし、これといって何か取り柄があるわけでもない。
「私は榊原康栄というものだ。大臣なんていう大層な名前を貰っているが、やっていることはこの国の雑用にすぎない。まぁ、君もそんなところに突っ立っていないで座りたまえ」
そう言って榊原大臣は手前にある小さなテーブルと低めの椅子が四つあるところへと僕を促した。
「あ、ありがとうございます」
僕は体が少し強張っているのを感じながら四つの椅子の中で自分から一番近い場所にあった椅子を選んで座った。
僕が座ると榊原大臣が僕の対面に座ってきた。
続いて、扉の音が鳴らないようにと静かに閉めた早乙女さんが榊原大臣の隣に座った。
「あの~それで僕にご用件とは一体なんでしょうか?」
僕は遠慮気味に榊原大臣に尋ねた。
「早速だね。まぁ、いきなり私のような立場の人間に呼び出されれば何事かと気になるのは分からなくもないがね。君を呼び出した理由を簡潔に言えば、君に一つ頼みたいことがあるからだ」
「頼みたいことですか……僕みたいなただの高校生がお力になれるとは思えませんが……」
榊原大臣が僕に頼み事?
どう考えてもおかしい。
高校生に頼める内容だったとしても頼む相手は絶対に僕なんかじゃないはずだ。
同じ高校生でも僕なんかよりもスポーツ万能な人や頭脳明晰な人は星の数ほどいるはずだ。
「いや、君だからこそだ。私もここまで我々の条件に当てはまった人材が見つかるとは思ってもみなかった」
僕は榊原大臣の言葉を聞いて面食らった。
僕だからお願いしたいという理由で人に何かを頼まれるなんてことは、今まで生きてきて一度もなかったからだ。
いつも誰かがやりたくないことを頼まれてやってきたという節が僕にはあった。
そのせいか、今回もそういう類のことだろうと思い込んでいたのでとても驚いている。
それと同時に誰かに必要とされたという事実に僕は飛び跳ねるような嬉しさを感じていた。
正直、驚きと嬉しさが表情に滲み出ていたりしないか心配だった。
「僕だからですか……具体的に何をすれば良いんでしょうか?」
「そうだね。いろいろと説明しなければならないことはあるが、単刀直入に言おう。君には三ヶ月の研修を受けた後に、警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室の特別司法警察職員として働いて貰いたい」
僕は言われたことを理解するのにかなり時間が掛かってしまった。
公安?
突発性脳死現象?
特別……警察?
単語自体は聞いたことがある。
単語の意味もそれなりには分かる。
ただ、その単語を僕に言う理由が分からない。
それに僕がなれってことなのか?
え……何で?
僕がそんなこと出来るわけないじゃないか。
「それって断ったりはできるんでしょうか?」
言われた内容を全て理解出来たわけではないが、とにかく僕には出来そうにないことだけは分かった。
「悪いが正直に言えば君がここに来られている時点で、君に断るという選択肢は存在しない」
榊原大臣は早乙女さんに目配せして受け取った物をテーブルの上に置きながら言った。
そこには僕の名前や顔写真などが載った警察手帳のような物が置かれていた。
こんな物が既に作られているということは本当に最初から僕に断るという選択肢は残されていなかったみたいだ。
「……分かりました。僕なんかがお力になれるかどうかは分かりませんが、榊原大臣のその頼み引き受けさせて頂こうと思います」
「そうか。我々の都合に巻き込んでしまったことについては申し訳ないが、君が引き受けてくれたことに礼を言おう」
榊原大臣はそう言って頭を下げた。
まさか大臣という立場の人から頭を下げられることなんてあるのかと思いつつも、断る選択肢を用意させなかった榊原大臣は腹の底が読めない人だなとも僕は思った。
「ではここに伊瀬祐介の警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室、特別司法警察職員としての任を命ずる」
榊原大臣の身を引き締られるような鋭い声が部屋に響いた。
「は、はい!」
僕は自分でも情けないと思ってしまうような声で返事をしてしまった。
とにもかくにも、僕は警視庁公安部第六課突発性脳死現象対策室の特別司法警察職員となってしまった。
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