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Layer43 実験
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俺と姫石はこめかみに電気パッドを付けられていた。
念のため、やけどをしないようにと付ける前に電極ペーストというものを塗られた。
電気パッドの線を辿っていくと電源発生装置へと繋がっていた。
いつの間にか電源発生装置には様々なたくさんのスイッチが取り付けられていた。
それは改造されたゲームのコントローラーのようだなと俺は思った。
電気パッドを付けられた後は、白い有孔ボードで部屋のようになっているところにある椅子に座らされた。
「この実験が成功すればお二人は元の体に戻るんですよね?」
実験の準備を見守っていた立花が言った。
「理論上はそうなるはずだ。入れ替わりという興味深い現象も見納めというわけだ……いや、実験が成功すれば再現性があるということになり入れ替わりという現象を再現できるのではないか?」
八雲がとんでもないことを言い出した。
「再現できるからって入れ替わりなんかするもんじゃないと思うぞ。入れ替わった期間としてはほんの数日だったが、それでもいろいろと本当に大変だったんだ。入れ替わった俺達が異性同士だったのもあるかもしれないが、同性でもこの大変さはあんまり変わらないんじゃないか?」
「うん、あたしもそう思う。本当にいろいろ大変だったんだからね! あ、でも悪いことばかりじゃなかったかな」
姫石は大変ながらも入れ替わりを俺よりはエンジョイしていたらしい。
せっかくなら俺ももう少しは楽しめば良かったのかもしれない。
今さらながら変な後悔が出てきた。
「どちらにしろ、入れ替わり経験者から言うと気軽に入れ替わりなんてするもんじゃないぞ。俺の予測だとたぶんロクなことにならないと思う」
「それは私も同意だな。この現象を使って何かを始めようにもロクな活用法が思いつかないからな。未知の現象を解明し、再現を意図的にコントロールする方法を確立することには興味はある。しかし、その先のことに関しては私は興味はない。科学とは使い手によって天使にも悪魔にもなる。私がその先ですべきことは、解明した科学を悪魔にさせないことだ。それが科学者としての責任だ」
八雲の言葉はヒトの歴史を見ればよく理解できるものだった。
「やっぱり、八雲は科学者としては本当に天才で完璧だな。他の点は、まぁ……アレだが」
八雲は科学以外のことに関してはポンコツだからな。
「そうです! 先輩は人として生活していけるようにもっとちゃんとしてください! このままだと私みたいに先輩のお世話をしてくれる人がいなくなった時に生活していけなくなりますよ!」
立花が本気で心配そうに八雲に言った。
立花はなんて良い子なんだ。
「なら、立花後輩がずっと私の傍にいればいいだけの話ではないのか?」
八雲がさらっと、想像を絶するような爆弾発言をした。
こんなのもう告白と変わらないだろ!
「これから毎朝、俺に味噌汁を作ってくれ」という一昔前の男が結婚する時のプロポーズを言ってんのと何も変わらないからな!
今の時代だと、このプロポーズの文言はコンプライアンス的にアウトだけど。
まぁ、八雲の場合そういう意図は全くないんだろうな。
そこが一番の問題なんだが。
八雲は合理的に考えて、立花が自分の世話をしてくれるのが最善だと思ったからあんな風に言ったのだろう。
だが、告白どころか結婚のプロポーズをした自覚がないというのは厄介すぎる。
八雲のポンコツ具合はもう致命的だな。
「えっ! あっ! ……はい」
八雲のあまりの爆弾発言に思考が追い付いていない立花が思いっきり顔を真っ赤にして固まっていた。
そして、言葉に詰まりながらもなぜか八雲の提案を承諾していた。
別に、立花は八雲のことを好きなため承諾するのも間違ってはいないのだが、結婚となると話が変わってくるのではなかろうか。
ところで、八雲。
結婚のプロポーズ、OKもらえたみたいだぞ。
良かったな。
……いや、何も良くないだろう!
「良かったね~歩乃架ちゃん!」
姫石が思考が停止してフリーズしたままの立花に抱きついていた。
だから、何も良くねぇよ!
八雲は自分が告白したことも結婚のプロポーズをしたことも一切自覚していないからな。
片や、立花はその気になっているし。
俺は元の体に戻るための大切な実験をする前に一体何を見せられているのだろか……
「とりあえず、俺の体で立花に抱きつくのはやめろ!」
そう言って俺は立花に抱きついていた姫石を引き剝がした。
姫石を引き剝がしたところに、八雲が俺に近寄って来て聞いてきた。
「なぜ、立花後輩はあんなに顔を赤面させ固まっているんだ?」
「……八雲、お前は解明した科学を悪魔にさせない責任を持つ前に、もう少し自分の発言に責任を持った方が良いぞ。もう手遅れな気もするが」
「私の発言? 別に、私は可笑しなことは何も……」
一瞬だけ八雲の眉が少し動いた。
「立花後輩が正気に戻ったら実験の準備を続けるぞ」
俺から顔を背けながら八雲は言った。
これは案外、致命的ではないかもしれない。
--------------------------
立花がなんとか正気を取り戻し、俺達は気を取り直して再び実験の準備をしていた。
「まず、VRヘッドセットを装着してくれ」
学校の環境音が流れるスピーカーと同じ位置に立って、八雲が言った。
たぶん、八雲の指示の声が俺と姫石のどちらにも同じように聞こえるようにするためだろう。
椅子に座らされた俺と姫石は八雲に言われて立花から渡されたVRヘッドセットを頭に付けた。
VRヘッドセットを付けた視界は真っ暗で何も見えない。
まだ、起動していないのだろう。
「よし。では、今から玉宮香六と姫石華の視覚を共有させる」
八雲がそう言った直後、視界が白く光ったと思ったらすぐに目の前の白い有孔ボードが目に入ってきた。
この時点ではあまり姫石のVRヘッドセットに付いている小型のカメラからの映像と視界が入れ替わっているとは実感できないな。
俺がVRヘッドセットを付ける前に座って見ていた景色と何も変わらない。
「視界に白い有孔ボードが見えていたら右手を挙げてくれ」
八雲に言われて俺は右手を挙げた。
「二人とも視界の共有はできているようだな」
姫石も右手を挙げたらしく、俺達の視界の共有はできているようだ。
「次は、両手を軽く握り太ももの上にのせてくれ。それが出来たら、私が3秒数えている間にゆっくりとうつむいてくれ」
俺は八雲の指示通りに両手を軽く握り太ももの上にのせた。
「準備は良さそうだな。では、数えるぞ……1、2、3」
八雲の合図と同時に俺はゆっくりとうつむいた。
視界の映像も俺の動きに呼応するようにゆっくりとうつむくように動いた。
そして、視界にはズボンを履いた俺の足と太ももの上に軽く握られた俺の手がのっかっていた。
正真正銘の俺の足と手がそこにはあった。
これを見て俺はようやく姫石と視覚を共有しているという実感を得た。
また、自分の体が元に戻ったような感覚にもなった。
姫石も俺と同じような気持ちなんじゃないだろうか。
「どうだ? 仮想的にだが元の体に戻ったように錯覚しているのではないか? これから、その錯覚をもっと強くするぞ」
八雲がそう言うとガヤガヤと人が話すような音が聞こえてきた。
なるほど、これが学校の環境音というやつか。
たしかに学校の休み時間とか放課後とかはこんな感じの音がしている。
「学校の環境音も私の声もしっかりと聞こえていたら、そのまま動かないでくれ。もし、よく聞こえていないようだったら立ち上がるなり何かしら動きを見せてくれ。その場合はもう一度最初からやり直す」
俺は学校の環境音も八雲の声もちゃんと聞こえたため動かずにじっとしていた。
「問題ないようだな。次は、触覚を共有させる。今からガラス棒で玉宮香六と姫石華の左手の甲に同時に触れる。少ししたら視界にガラス棒がゆっくりと見えてくると思う。視界にガラス棒が見えたら、意識をガラス棒が左手の甲に触れるまで集中させてくれ」
これは、八雲と立花が秒数まで表示された時計を見ながらタイミングを合わせてガラス棒を俺と姫石の左手の甲に触れるようにするらしい。
例えば、時計が22分18秒を表示していたとする。
それを確認した八雲が立花にガラス棒が視界に入るタイミングと触れるタイミングを指示する。
22分50秒に俺達の視界にガラス棒のみが見えるようにすることにしよう。
そこから、10秒かけてゆっくりと左手の甲にガラス棒を近づけて23分00秒きっかりにガラス棒が左手の甲に触れるようにする。
そうすることで、出来る限りガラス棒が同時に触れるようにしているらしい。
八雲が言った通り、少しすると視界の端にガラス棒が見えてきた。
そして、ガラス棒がゆっくりと近づいてきて、視界の中で左手の甲にガラス棒が触れたと同時に触れられたという感覚が左手の甲から伝わってきた。
すごい。
目の前の視界に映っている体が本当に自分の体のように感じる。
触れる場所を変えて同じことを何度か行ったあと、視界からガラス棒は見えなくなった。
俺は完全に体が入れ替わったという錯覚に陥っていた。
「これで五感の共有は終わった。あとは、眼内閃光と静電気だけだ。眼内閃光を起こしてから調整した電気を電気パッドを通して脳に流し、脳の電気信号に介入させる。そうすれば、玉宮香六と姫石華の電気信号のパターンが正しく復活して元の体に戻ることができるだろう。
あと少しで、元の体に戻れる。
八雲の言葉にそんな期待が高まるのを感じる。
「眼内閃光を起こす前にうつむいた状態の顔を正面に向けてもらう。先程と同じように私が3秒数えている間にゆっくりと顔を正面に向けてくれ。では、数えるぞ……1、2、3」
八雲の合図と同時に俺はゆっくりと顔を正面に向けた。
「よし。では、今からまぶたの上辺りに少し圧力をあたえる。眼内閃光が起きているのを感じたら、右手を挙げてくれ。玉宮香六と姫石華が右手を挙げたのを確認出来次第すぐにスイッチを入れ電気を二人の脳に流す。実験が成功すれば、スイッチの音を聞いて気づいた時には元の体に戻っているはずだ」
スイッチの音ともに元に戻るってことか。
入れ替わる時も一瞬なら、元に戻る時も一瞬なのか……
いや、元に戻ると言ってもやっていることは入れ替わった時と同じか。
八雲の指示のあと、俺はまぶたの上辺りを少し押されるのを感じた。
押されているせいか視界がぼやけてよく見えない。
ぼやける視界の中だんだんとチカチカと星のようなものが見えてきた。
これは……眼内閃光か!
俺は右手を挙げた。
一拍置いて
カチッ
という音が聞こえた。
念のため、やけどをしないようにと付ける前に電極ペーストというものを塗られた。
電気パッドの線を辿っていくと電源発生装置へと繋がっていた。
いつの間にか電源発生装置には様々なたくさんのスイッチが取り付けられていた。
それは改造されたゲームのコントローラーのようだなと俺は思った。
電気パッドを付けられた後は、白い有孔ボードで部屋のようになっているところにある椅子に座らされた。
「この実験が成功すればお二人は元の体に戻るんですよね?」
実験の準備を見守っていた立花が言った。
「理論上はそうなるはずだ。入れ替わりという興味深い現象も見納めというわけだ……いや、実験が成功すれば再現性があるということになり入れ替わりという現象を再現できるのではないか?」
八雲がとんでもないことを言い出した。
「再現できるからって入れ替わりなんかするもんじゃないと思うぞ。入れ替わった期間としてはほんの数日だったが、それでもいろいろと本当に大変だったんだ。入れ替わった俺達が異性同士だったのもあるかもしれないが、同性でもこの大変さはあんまり変わらないんじゃないか?」
「うん、あたしもそう思う。本当にいろいろ大変だったんだからね! あ、でも悪いことばかりじゃなかったかな」
姫石は大変ながらも入れ替わりを俺よりはエンジョイしていたらしい。
せっかくなら俺ももう少しは楽しめば良かったのかもしれない。
今さらながら変な後悔が出てきた。
「どちらにしろ、入れ替わり経験者から言うと気軽に入れ替わりなんてするもんじゃないぞ。俺の予測だとたぶんロクなことにならないと思う」
「それは私も同意だな。この現象を使って何かを始めようにもロクな活用法が思いつかないからな。未知の現象を解明し、再現を意図的にコントロールする方法を確立することには興味はある。しかし、その先のことに関しては私は興味はない。科学とは使い手によって天使にも悪魔にもなる。私がその先ですべきことは、解明した科学を悪魔にさせないことだ。それが科学者としての責任だ」
八雲の言葉はヒトの歴史を見ればよく理解できるものだった。
「やっぱり、八雲は科学者としては本当に天才で完璧だな。他の点は、まぁ……アレだが」
八雲は科学以外のことに関してはポンコツだからな。
「そうです! 先輩は人として生活していけるようにもっとちゃんとしてください! このままだと私みたいに先輩のお世話をしてくれる人がいなくなった時に生活していけなくなりますよ!」
立花が本気で心配そうに八雲に言った。
立花はなんて良い子なんだ。
「なら、立花後輩がずっと私の傍にいればいいだけの話ではないのか?」
八雲がさらっと、想像を絶するような爆弾発言をした。
こんなのもう告白と変わらないだろ!
「これから毎朝、俺に味噌汁を作ってくれ」という一昔前の男が結婚する時のプロポーズを言ってんのと何も変わらないからな!
今の時代だと、このプロポーズの文言はコンプライアンス的にアウトだけど。
まぁ、八雲の場合そういう意図は全くないんだろうな。
そこが一番の問題なんだが。
八雲は合理的に考えて、立花が自分の世話をしてくれるのが最善だと思ったからあんな風に言ったのだろう。
だが、告白どころか結婚のプロポーズをした自覚がないというのは厄介すぎる。
八雲のポンコツ具合はもう致命的だな。
「えっ! あっ! ……はい」
八雲のあまりの爆弾発言に思考が追い付いていない立花が思いっきり顔を真っ赤にして固まっていた。
そして、言葉に詰まりながらもなぜか八雲の提案を承諾していた。
別に、立花は八雲のことを好きなため承諾するのも間違ってはいないのだが、結婚となると話が変わってくるのではなかろうか。
ところで、八雲。
結婚のプロポーズ、OKもらえたみたいだぞ。
良かったな。
……いや、何も良くないだろう!
「良かったね~歩乃架ちゃん!」
姫石が思考が停止してフリーズしたままの立花に抱きついていた。
だから、何も良くねぇよ!
八雲は自分が告白したことも結婚のプロポーズをしたことも一切自覚していないからな。
片や、立花はその気になっているし。
俺は元の体に戻るための大切な実験をする前に一体何を見せられているのだろか……
「とりあえず、俺の体で立花に抱きつくのはやめろ!」
そう言って俺は立花に抱きついていた姫石を引き剝がした。
姫石を引き剝がしたところに、八雲が俺に近寄って来て聞いてきた。
「なぜ、立花後輩はあんなに顔を赤面させ固まっているんだ?」
「……八雲、お前は解明した科学を悪魔にさせない責任を持つ前に、もう少し自分の発言に責任を持った方が良いぞ。もう手遅れな気もするが」
「私の発言? 別に、私は可笑しなことは何も……」
一瞬だけ八雲の眉が少し動いた。
「立花後輩が正気に戻ったら実験の準備を続けるぞ」
俺から顔を背けながら八雲は言った。
これは案外、致命的ではないかもしれない。
--------------------------
立花がなんとか正気を取り戻し、俺達は気を取り直して再び実験の準備をしていた。
「まず、VRヘッドセットを装着してくれ」
学校の環境音が流れるスピーカーと同じ位置に立って、八雲が言った。
たぶん、八雲の指示の声が俺と姫石のどちらにも同じように聞こえるようにするためだろう。
椅子に座らされた俺と姫石は八雲に言われて立花から渡されたVRヘッドセットを頭に付けた。
VRヘッドセットを付けた視界は真っ暗で何も見えない。
まだ、起動していないのだろう。
「よし。では、今から玉宮香六と姫石華の視覚を共有させる」
八雲がそう言った直後、視界が白く光ったと思ったらすぐに目の前の白い有孔ボードが目に入ってきた。
この時点ではあまり姫石のVRヘッドセットに付いている小型のカメラからの映像と視界が入れ替わっているとは実感できないな。
俺がVRヘッドセットを付ける前に座って見ていた景色と何も変わらない。
「視界に白い有孔ボードが見えていたら右手を挙げてくれ」
八雲に言われて俺は右手を挙げた。
「二人とも視界の共有はできているようだな」
姫石も右手を挙げたらしく、俺達の視界の共有はできているようだ。
「次は、両手を軽く握り太ももの上にのせてくれ。それが出来たら、私が3秒数えている間にゆっくりとうつむいてくれ」
俺は八雲の指示通りに両手を軽く握り太ももの上にのせた。
「準備は良さそうだな。では、数えるぞ……1、2、3」
八雲の合図と同時に俺はゆっくりとうつむいた。
視界の映像も俺の動きに呼応するようにゆっくりとうつむくように動いた。
そして、視界にはズボンを履いた俺の足と太ももの上に軽く握られた俺の手がのっかっていた。
正真正銘の俺の足と手がそこにはあった。
これを見て俺はようやく姫石と視覚を共有しているという実感を得た。
また、自分の体が元に戻ったような感覚にもなった。
姫石も俺と同じような気持ちなんじゃないだろうか。
「どうだ? 仮想的にだが元の体に戻ったように錯覚しているのではないか? これから、その錯覚をもっと強くするぞ」
八雲がそう言うとガヤガヤと人が話すような音が聞こえてきた。
なるほど、これが学校の環境音というやつか。
たしかに学校の休み時間とか放課後とかはこんな感じの音がしている。
「学校の環境音も私の声もしっかりと聞こえていたら、そのまま動かないでくれ。もし、よく聞こえていないようだったら立ち上がるなり何かしら動きを見せてくれ。その場合はもう一度最初からやり直す」
俺は学校の環境音も八雲の声もちゃんと聞こえたため動かずにじっとしていた。
「問題ないようだな。次は、触覚を共有させる。今からガラス棒で玉宮香六と姫石華の左手の甲に同時に触れる。少ししたら視界にガラス棒がゆっくりと見えてくると思う。視界にガラス棒が見えたら、意識をガラス棒が左手の甲に触れるまで集中させてくれ」
これは、八雲と立花が秒数まで表示された時計を見ながらタイミングを合わせてガラス棒を俺と姫石の左手の甲に触れるようにするらしい。
例えば、時計が22分18秒を表示していたとする。
それを確認した八雲が立花にガラス棒が視界に入るタイミングと触れるタイミングを指示する。
22分50秒に俺達の視界にガラス棒のみが見えるようにすることにしよう。
そこから、10秒かけてゆっくりと左手の甲にガラス棒を近づけて23分00秒きっかりにガラス棒が左手の甲に触れるようにする。
そうすることで、出来る限りガラス棒が同時に触れるようにしているらしい。
八雲が言った通り、少しすると視界の端にガラス棒が見えてきた。
そして、ガラス棒がゆっくりと近づいてきて、視界の中で左手の甲にガラス棒が触れたと同時に触れられたという感覚が左手の甲から伝わってきた。
すごい。
目の前の視界に映っている体が本当に自分の体のように感じる。
触れる場所を変えて同じことを何度か行ったあと、視界からガラス棒は見えなくなった。
俺は完全に体が入れ替わったという錯覚に陥っていた。
「これで五感の共有は終わった。あとは、眼内閃光と静電気だけだ。眼内閃光を起こしてから調整した電気を電気パッドを通して脳に流し、脳の電気信号に介入させる。そうすれば、玉宮香六と姫石華の電気信号のパターンが正しく復活して元の体に戻ることができるだろう。
あと少しで、元の体に戻れる。
八雲の言葉にそんな期待が高まるのを感じる。
「眼内閃光を起こす前にうつむいた状態の顔を正面に向けてもらう。先程と同じように私が3秒数えている間にゆっくりと顔を正面に向けてくれ。では、数えるぞ……1、2、3」
八雲の合図と同時に俺はゆっくりと顔を正面に向けた。
「よし。では、今からまぶたの上辺りに少し圧力をあたえる。眼内閃光が起きているのを感じたら、右手を挙げてくれ。玉宮香六と姫石華が右手を挙げたのを確認出来次第すぐにスイッチを入れ電気を二人の脳に流す。実験が成功すれば、スイッチの音を聞いて気づいた時には元の体に戻っているはずだ」
スイッチの音ともに元に戻るってことか。
入れ替わる時も一瞬なら、元に戻る時も一瞬なのか……
いや、元に戻ると言ってもやっていることは入れ替わった時と同じか。
八雲の指示のあと、俺はまぶたの上辺りを少し押されるのを感じた。
押されているせいか視界がぼやけてよく見えない。
ぼやける視界の中だんだんとチカチカと星のようなものが見えてきた。
これは……眼内閃光か!
俺は右手を挙げた。
一拍置いて
カチッ
という音が聞こえた。
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