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Layer30 糸口

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俺は近所で一番大きい図書館である平川中央図書館に向かっていた。
図書館に行くこと自体はかなり久しぶりだ。
小学生の頃はよく行っていたのだが、中学生になった頃からあまり行かなくなってしまった。
俺は電車に揺られながらそんなことを考えていた。
別に自転車で行けないことはない距離なのだが、俺は電車で行くことにした。
理由は制服のスカートを履いているためだ。
スカートで自転車なんか漕いだら絶対にパンツが見えるに違いない。
この体はあくまでも姫石のものなのだから、俺の不注意によって姫石のパンツを街中で晒すわけにはいかない。

そんな晒すわけにはいかないパンツですが、実はこれ2日目です。
汚いと思うかもしれませんが仕方ないんです。
俺も姫石も入れ替わってしまったことに頭がいっぱいで着替えの服まで考えが回らなかったんです。
母親のパンツを履くこともできなくはありませんでしたが、俺にはその勇気がありませんでした。
そんなわけで、後で姫石に連絡してある程度の服をお互いに交換しようと思います。
あれ? 俺が2日目ってことは姫石も2日目なのか……体が入れ替わるって本当大変ですね。

などと、まるで誰かに言い訳をするように俺は考えていた。

それにしてもスカートで自転車に乗っている人達はどうやってパンツが見えないようにしているのだろうか。
俺にはずっと立漕ぎをするぐらいしか見えないようにする工夫が思いつかない。

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駅から少し歩いて平川中央図書館に着いた。
自動ドアを通って中に入ると図書館ならではの雰囲気と紙ぽっい匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
久しぶりに来てみたが、やっぱり図書館のこういう雰囲気や匂いは結構好きだな。
とりあえず文学とか自然科学とかの分類をあたってみるか。

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ッ!
俺はいつの間にか本に読みふけってしまっていた。
時計を見るともう2時間以上経っていた。
探してみたはいいものの入れ替わりに関する有力な情報は見つけることができず、気付いた時には探している最中に見つけた「サピエンス全史」という本になぜか惹きつけられてしまった。
ホモ・サピエンスは遺伝子の突然変異、認知革命が起き脳内の配線が変わったことによって他のホモ族を滅ぼし、唯一の人類となったというような内容だった。

こんな風に本に夢中になってしまった原因は悲しいぐらいに入れ替わりについての有力な情報が見つからなかったからである。
だから仕方ない。
決して久しぶりに図書館に来てテンションが上がって見つけた本に没頭していたとかそういうわけでは……ない。

立花が言っていた「とりかへばや物語」は見つかったが、そもそも男女の体が入れ替わった話ではないため全く参考にならなかった。
もしかしたら、俺が面白そうな小説とかを探す時によく使っている無料で小説を投稿・閲覧できるウェブサイトのほうが見つかるかもしれない。

そう思いスマホを取り出しそうとしたが、平川中央図書館は無料で利用できるパソコンがあるのを思い出したので、せっかくだからパソコンを使おうと置いてあるところへ移動することにした。

キャスター付きの青い椅子に座りデスクトップ型のパソコンを起動させ、俺はさっそくよく使っているウェブサイトを開いた。

「まずは、ジャンル検索から探してみるか」

とは言ったものの入れ替わりって何のジャンルに入るのだろうか?
ファンタジーか?
それともSFとか空想科学?
とにかくありえそうなジャンルから調べてみるか。

ファンタジー
「影の街の秘密」、「もしかして忘れ去られた魔術師の遺産見つけちゃいました? 」、「蒸気時代の平凡でありふれた日常」

ファンタジーのジャンルで調べるとずらずらと作品名が上がってきたがどれも入れ替わりに関係ありそうなものは無い。

SF・空想科学
「クロノス・コード:時空の秘宝」、「引きこもり過ぎてたので、デジタル帝国を作ってみました」、「ひょんなことから架空のはずの宇宙の存在を証明しちゃった件」

この辺も違うな。
……
それよりもキーワードで「入れ替わり」と調べた方が断然早いな。
今さらこんなことに気づい俺はすぐに検索をかけた。

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「駄目だ。全然見つからない」

お互いに体が入れ替わる話は思っていたよりもあったのだが、その入れ替わりがどのようにして起きたのかを科学的に説明したものは一つもなかった。
この感じだともう八雲からの情報に期待するしかないな。
素人にはどうにもならない。
これ以上はここにいてもやれることはないだろう。
姫石に服の交換について連絡しておこう。

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俺は今、姫石の家の前に来ていた。
姫石に連絡を取ってから、一度自宅に帰り自分の服を必要最低限バッグにつめて持ってきていた。
俺の家から姫石の家までは歩いて15分くらいだ。

俺は側にあったインターホンを鳴らした。
姫石の家の場所は知っていたが、まさかこんな形で初めてインターホンを押すことになるとは夢にも思わなかった。
それに姫石の家のドアから自分の姿が現れるところをイメージするとものすごく変な気分になる。

「はーい、今行くね」

インターホンから自分の声が聞こえてきた。
そうだった。
先にこっちだった。
これも変な気分になるな。

すぐにドアの鍵がカチャリと開く音がして俺の姿の姫石が顔を出した。
俺は開き始めたドアの取っ手を掴もうとした。
その時……

バチッ!

という音がして指先に一瞬痛みを感じた。

「何? 今の音? 静電気? こんな時期に珍しいね」

「……」

「ちょっと! 玉宮聞いてる? 」

姫石が怪訝そうに俺の顔を覗きこんで聞いてきた。

「そうか……静電気だ」

俺はそうつぶやくと服の入ったバッグを強引に姫石に押し付けた。

「わるい! 姫石! これ頼んだ! 」

そう叫んで俺は全速力で走りだした。

「え!? 頼むって!? あたし、まだ玉宮に服渡してないんだけど……ッ!待ちなさいよ! 玉宮! これどうすんのよ!! 」

姫石の動揺の声を背に俺は走りながらスマホを手に八雲へ電話を掛けた。
この入れ替わり現象の解決の糸口を見つけたという直感を一刻でも早く俺は八雲に伝えたかった。
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