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Layer7 科学室
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俺達は北校舎の一階にある化学室へと向かっていた。
北校舎の一階という場所なだけに外からの光が入りづらく、どの時間帯でもこのエリアは薄暗い。
そのため生徒の人通りは比較的に少なく、実際に俺達三人以外に生徒は一人もいなかった。
ここなら話の内容を盗み聞きされるような心配も少ないだろう。
渡り廊下から左に曲がって一番奥へと歩き続けて、ようやく化学室の前に来た。
扉のすぐ上には化学室と書かれた看板のようなものがある。
そしてその上に、黒のマジックペンで科学室と書かれたノートの切れ端らしきものが貼ってあった。
勝手にこんなもの貼っていいのかよ……学校の登校時間といい随分と自由にやっているんだなぁ。
非常に羨ましい限りである。
もちろん才能があるからこそ許されるのであって、俺のような平凡な人間がやったらあっという間に生徒指導室行きである。
「先輩、入りますよ~」
そう言いながら慣れた手つきで立花は化学室もとい科学室の扉をガラガラと開けた。
立花を先頭に中へ入って見ると、いつも先生が授業で実験の説明をする時とかに使っている横長のテーブルの上にいくつかの実験器具があるだけだった。
科学室の電気は付けっぱなしになっており、テーブルの黒色の天板が光を反射していた。
「あれ? 先輩いないんですか? おかしいな。いつもならこの時間はここにいるんですが……先輩~ いるなら返事してくださ~い」
立花が呼んでみるものの返事はなかった。
「誰もいないのかな? けど、この感じだとちょっと待ってたらすぐに戻って来るんじゃ……」
「んーっ……? 」
姫石が言いかけたところで、実験器具が出しっぱなしのままになっているテーブルの方から寝起きのうめき声のようなものが聞こえた。
すると、テーブルの下から勢いよく手が伸びてきた。
「ひゃっ! 」
「キャッ! 」
姫石と立花が短く悲鳴を上げた。
姫石の悲鳴だけあきらかに低いのは言うまでもない。
何回聞いても慣れる気がしないな。
声がした方へと行ってみると、制服の上に白衣を着た八雲が椅子を五つほど連結させて寝そべっていた。
どうやら昼寝をしていたようだ。
「もう! 何で実験の道具も出しっぱなしで寝ているんですか! 声かけたらすぐに返事してくださいよ! いきなり手が出てきてびっくりしたじゃないですか。そもそも何でこんな時間に寝てるんですか? もう夕方ですよ」
「ふぁ~……なんだ立花後輩か。そこにある実験器具は起きたらすぐに使うつもりだったから出しっぱなしでいいんだよ。いちいち片づけていたら非効率的だ。あと、私がいつどこで寝ようとそれは私の勝手だ。誰かにとやかく言われる筋合いはない。あくまで私は人間の三大欲求の一つである睡眠欲を満たしたにすぎない」
俺と姫石はこの短い会話で、八雲という人物がかなりクセのある人物であることを察した。
馬鹿と天才は紙一重ではなく、変人と天才は紙一重に直した方が正しいんじゃないだろうか。
「それにしても立花後輩が客人を連れて来るなんて初めてじゃないか。ようやく出来た友達というのが、そこの二人なのか? 」
「何言ってるんですか! 友達なら前から普通にたくさんいますよ! 逆にどうして私に友達がいないと思ったんですか? 私が言うのもなんですけど、それなりに社交的な性格をしてると思うんですけど」
「立花後輩はいつも一人でここにくるからな。てっきり友達がいないから、その寂しさを紛らわすために私みたいな人間に会いに来ているのかと思っていたよ。まさか、友達がいたとは驚きだな」
「一人で来てたからってそんな風に思わなくても……たしかに先輩に会いに来るのは私ぐらいですけど」
なんだか立花が不憫でならない。
それにしても学年が一つ下の立花と放課後にしかほぼ学校にいない八雲はどうやって知り合ったのだろう。
けして二人の接点は多くないはずだ。
「あたし、2年3組の姫石 華。歩乃架ちゃんとは委員会と部活が一緒で仲良くなったの。よろしくね」
俺が二人の接点について疑問に思っていると、姫石がさっそく自己紹介をしていた。
「同じく玉宮 香六だ。立花とは横にいる姫石を介してさっき知り合ったばかりだ。ちなみに姫石と俺は中学からの腐れ縁だ。よろしく」
すかさず俺は姫石の自己紹介に続いた。
姫石が自己紹介の流れを作ってくれたおかげ事故紹介にはならずに済んだ。
流れを作った当の本人はなぜか悔しがっていたが。
「私は八雲 加琉麻だ。以後よろしく頼む」
切れ長の目に真っ黒なストレートの髪という容姿に白衣も相まってか、まるで絵に描いたような科学者を連想させる見た目をしている八雲は簡潔に自己紹介をした。
「それで、そこのあんたらは立花後輩の友達として自己紹介をするためだけにここに来たわけじゃないんだろう? 私に何か用があってここに来たんだろう? それに、発言をている人間と内容がマッチしていない。別に私は名前にケチを付けようとも思っていないし、LGBTを否定しようとも思っていない。だが、あんたら二人にはそういった事情があるようにはどうしても見えない。あまりにも不自然すぎる」
日本の科学の未来を担う天才なだけあって、さすがの洞察力だ。
「お前の言う通り、俺達は別の用があってここに来た。そしてその用というのは八雲が感じた不自然さと密接に関わっている」
そう言って俺は、入れ替わりという非現実的な出来事について八雲に語った。
北校舎の一階という場所なだけに外からの光が入りづらく、どの時間帯でもこのエリアは薄暗い。
そのため生徒の人通りは比較的に少なく、実際に俺達三人以外に生徒は一人もいなかった。
ここなら話の内容を盗み聞きされるような心配も少ないだろう。
渡り廊下から左に曲がって一番奥へと歩き続けて、ようやく化学室の前に来た。
扉のすぐ上には化学室と書かれた看板のようなものがある。
そしてその上に、黒のマジックペンで科学室と書かれたノートの切れ端らしきものが貼ってあった。
勝手にこんなもの貼っていいのかよ……学校の登校時間といい随分と自由にやっているんだなぁ。
非常に羨ましい限りである。
もちろん才能があるからこそ許されるのであって、俺のような平凡な人間がやったらあっという間に生徒指導室行きである。
「先輩、入りますよ~」
そう言いながら慣れた手つきで立花は化学室もとい科学室の扉をガラガラと開けた。
立花を先頭に中へ入って見ると、いつも先生が授業で実験の説明をする時とかに使っている横長のテーブルの上にいくつかの実験器具があるだけだった。
科学室の電気は付けっぱなしになっており、テーブルの黒色の天板が光を反射していた。
「あれ? 先輩いないんですか? おかしいな。いつもならこの時間はここにいるんですが……先輩~ いるなら返事してくださ~い」
立花が呼んでみるものの返事はなかった。
「誰もいないのかな? けど、この感じだとちょっと待ってたらすぐに戻って来るんじゃ……」
「んーっ……? 」
姫石が言いかけたところで、実験器具が出しっぱなしのままになっているテーブルの方から寝起きのうめき声のようなものが聞こえた。
すると、テーブルの下から勢いよく手が伸びてきた。
「ひゃっ! 」
「キャッ! 」
姫石と立花が短く悲鳴を上げた。
姫石の悲鳴だけあきらかに低いのは言うまでもない。
何回聞いても慣れる気がしないな。
声がした方へと行ってみると、制服の上に白衣を着た八雲が椅子を五つほど連結させて寝そべっていた。
どうやら昼寝をしていたようだ。
「もう! 何で実験の道具も出しっぱなしで寝ているんですか! 声かけたらすぐに返事してくださいよ! いきなり手が出てきてびっくりしたじゃないですか。そもそも何でこんな時間に寝てるんですか? もう夕方ですよ」
「ふぁ~……なんだ立花後輩か。そこにある実験器具は起きたらすぐに使うつもりだったから出しっぱなしでいいんだよ。いちいち片づけていたら非効率的だ。あと、私がいつどこで寝ようとそれは私の勝手だ。誰かにとやかく言われる筋合いはない。あくまで私は人間の三大欲求の一つである睡眠欲を満たしたにすぎない」
俺と姫石はこの短い会話で、八雲という人物がかなりクセのある人物であることを察した。
馬鹿と天才は紙一重ではなく、変人と天才は紙一重に直した方が正しいんじゃないだろうか。
「それにしても立花後輩が客人を連れて来るなんて初めてじゃないか。ようやく出来た友達というのが、そこの二人なのか? 」
「何言ってるんですか! 友達なら前から普通にたくさんいますよ! 逆にどうして私に友達がいないと思ったんですか? 私が言うのもなんですけど、それなりに社交的な性格をしてると思うんですけど」
「立花後輩はいつも一人でここにくるからな。てっきり友達がいないから、その寂しさを紛らわすために私みたいな人間に会いに来ているのかと思っていたよ。まさか、友達がいたとは驚きだな」
「一人で来てたからってそんな風に思わなくても……たしかに先輩に会いに来るのは私ぐらいですけど」
なんだか立花が不憫でならない。
それにしても学年が一つ下の立花と放課後にしかほぼ学校にいない八雲はどうやって知り合ったのだろう。
けして二人の接点は多くないはずだ。
「あたし、2年3組の姫石 華。歩乃架ちゃんとは委員会と部活が一緒で仲良くなったの。よろしくね」
俺が二人の接点について疑問に思っていると、姫石がさっそく自己紹介をしていた。
「同じく玉宮 香六だ。立花とは横にいる姫石を介してさっき知り合ったばかりだ。ちなみに姫石と俺は中学からの腐れ縁だ。よろしく」
すかさず俺は姫石の自己紹介に続いた。
姫石が自己紹介の流れを作ってくれたおかげ事故紹介にはならずに済んだ。
流れを作った当の本人はなぜか悔しがっていたが。
「私は八雲 加琉麻だ。以後よろしく頼む」
切れ長の目に真っ黒なストレートの髪という容姿に白衣も相まってか、まるで絵に描いたような科学者を連想させる見た目をしている八雲は簡潔に自己紹介をした。
「それで、そこのあんたらは立花後輩の友達として自己紹介をするためだけにここに来たわけじゃないんだろう? 私に何か用があってここに来たんだろう? それに、発言をている人間と内容がマッチしていない。別に私は名前にケチを付けようとも思っていないし、LGBTを否定しようとも思っていない。だが、あんたら二人にはそういった事情があるようにはどうしても見えない。あまりにも不自然すぎる」
日本の科学の未来を担う天才なだけあって、さすがの洞察力だ。
「お前の言う通り、俺達は別の用があってここに来た。そしてその用というのは八雲が感じた不自然さと密接に関わっている」
そう言って俺は、入れ替わりという非現実的な出来事について八雲に語った。
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