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Layer5 信用
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俺達の必死の抗議も虚しく、立花はすっかり俺と姫石が仲の良い関係だと信じ込んでしまった。
あれだけ息ぴったりに答えてしまったからといって、それだけでこうも頑なに信じ込む必要はないんじゃないかと思う。
なんなら、入れ替わりの話を信じてもらえるよりもこっちの話を信じて欲しいくらいだ。
「違うからね、歩乃架ちゃん! 全然そんな関係じゃないからね! お願いだから勘違いしないでね! 」
若干前のめりになりながら、姫石は立花に一生懸命訴えている。
あんまり言い過ぎると、かえって逆効果になると思うんだが。
「わ、わかりましたから。大丈夫です。もう、ちゃんとわかりましたから」
押され気味に立花が答えた。
「ちゃんとわかってくれた? 」
「はい、もうバッチリです! 」
「なら良かった! 」
能天気な姫石は立花の誤解が解けたと思ったらしい。
あの反応はどう見てもわかっていない時の反応だ。
「とにかく! さっさとその秘密とやらを質問してくれ。それをしないかぎりは話が進まない」
「あ、すみません。じゃあ、今から質問するので玉宮先輩はどこか聞こえないところで待っていてもらってもいいですか? 」
立花は遠慮気味に少し恥ずかしそうに言ってきた。
「大丈夫だ。わかってる。俺は聞こえないようにどこかに行っているから、質問して確認がとれたら呼んでくれ」
姫石以外に誰も知らない内容をこれから聞くということは、同時に姫石以外の誰にも聞かれたくない内容だということだ。
それなのにその内容を俺が聞くというのは野暮なことだ。
「ありがとうございます。すぐに終わらせますので」
立花はペコリと頭を下げた。
「乙女の秘密だからね! 聞き耳を立ようとか変なこと考えないようにね! 」
「だから、わかってるって言ってるだろ! ちょっと俺への信用なさすぎないか? 」
仲が良かったら、こんなに信用されないことはないだろうに。
「そんなことないよ。玉宮だったらやりかねないかな~って思っただけだから」
「それを世間じゃ、信用されていないって言うんだよ」
「細かいことは気にしないの! ほら、早くどっか行ってくれないと歩乃架ちゃんが質問できないでしょ。とっとあっち行ってて! 」
「言われなくても行くわ。なるべく早くしてくれよな」
まったく、世の中はもう少し俺に優しくなるべきだ。
--------------------------
「玉宮先輩、もう大丈夫ですよ」
聞こえないようにと離れたところで待機していた俺を立花が呼びにきた。
「そうか。どうだった? 質問に対しての姫石の回答は正しかったか? 」
「はい、ちゃん合っていました」
「それならこれである程度は俺の仮説を信じてくれたか? 」
「もちろんです。もう疑いの余地はありません。お二人は本当に入れ替わってしまったのだと思います」
疑いの余地が完全に無いということはありえないと思うが、それだけ信じてくれたということだろう。
本当にありがたいことだ。
「まぁ、姫石先輩が入れ替わったと言ってる時点で信じないわけないんですけどね」
「さすが歩乃架ちゃん! 本当そういうところが大好き! 」
そう言って姫石は立花に抱き着いた。
「だから俺の体で抱き着くなってさっきから言っているだろ! 」
いくら立花が俺達の状況を理解していて抱き着かれるのに抵抗しないからといって、そういう誤解を生みそうな行動はやめて欲しい。
傍から見れば男子が女子に抱き着いているようにしか見えないのに変わりはないのだから。
「そっか。あたし達まだ入れ替わったままなんだよね」
「あぁ、状況は何も改善されていない」
立花が俺の仮説を信じてくれたからといってこの状況を打開できるわけでは決してない。
「入れ替わった時ってどうすればいいのかな?とりあえず、親に相談してみる? 」
「姫石はいきなり親にこんな話を相談できるのか? 」
「……いきなりはちょっと無理かも」
「だよな。俺だって無理だ」
いきなりこんなことを親に言い出したら、頭を打ったのかもしれないと余計な心配をされるだけだ。
「やっぱり、どこか大きな病院で精密検査とか受けたりした方が良いんでしょうか? 」
「たしかに立花の言う通り、体の仕組みをよく理解している専門家の人達に詳しく検査してもらえるのが一番いい。この入れ替わりという現象を解明して俺達の体を元に戻してもらえるかもしれない。だが、こんなあまりにも非現実的な話を見ず知らずの人達が真面目に信じてくれるとは到底思えない。最悪、頭のおかしい精神異常者として一生を病院で過ごさせられるはめになってもおかしくはない」
せっかく立花が俺達のことを信じてくれて、俺は社会的に死ぬことを避けられたというのに精神異常者として病院に閉じ込められてしまっては元も子もない。
「そうですよね。姫石先輩のことをよく知っている私でさえ、最初は全然信じることができませんでした。それが見ず知らずの相手だったとしたら尚更ですよね」
「歩乃架ちゃんですら丁寧に説明して、あたしだけしか知らないことを答えることができて、ようやく100%信じることができたぐらいだもんね」
「そう、だから病院に行くのはあくまで最後の手段。自分達でできる手を全てやりつくしてからだ。もしかしたら、これは一過性のもので時間が経てば元に戻るかもしれない。逆に病院に行って信じてもらえたとしても元に戻ることはできないかもしれない。なにせ、病院だって体が入れ替わった患者を診るのは初めてだろうからな。元に戻らない可能性も十分にある」
「多分あたし達が人類で初めて体が入れ替わった人だもんね。どんなにすごい人でもわからなくてあたり前だよね……」
普段なら人類初などと姫石が言っていたら、そんなわけないだろうと指摘しているところだが今に限っては正しい表現なのかもしれない。
できれば人類初ではなく前例があって欲しいものだが。
「人類初だろうとそうじゃなかろうと、とにかく今は情報が欲しい。入れ替わりにまつわるありとあらゆる情報を集めよう。入れ替わりを題材にした漫画やアニメ、ドラマ、映画でもなんでもいい。案外、元に戻るためのヒントがあるかもしれない。あとは科学的な面から入れ替わりに関係がありそうな理論や研究、論文からアプローチできればいいんだが……」
ネットで調べられるといっても、ネット上にある論文や研究データーの数はたかが知れている。
そもそも、専門用語が多すぎてある程度知識がないと理解することすら難しいかもしれない。
「あの私、科学的な面からの情報ならお手伝いできるかもしれません。どんな現象でも科学的に説明できる! と言って何でもかんでも科学的に説明しないと気が済まないような人を知ってるんです。その人ならもしかしたら、何か助けになってくれるかもしれません。きっと、こんな信じられないような話でも興味を持ってくれる人だと思います」
立花は話を信じてくれる人ではなく、興味を持ってくれる人と言った。
あれだけ息ぴったりに答えてしまったからといって、それだけでこうも頑なに信じ込む必要はないんじゃないかと思う。
なんなら、入れ替わりの話を信じてもらえるよりもこっちの話を信じて欲しいくらいだ。
「違うからね、歩乃架ちゃん! 全然そんな関係じゃないからね! お願いだから勘違いしないでね! 」
若干前のめりになりながら、姫石は立花に一生懸命訴えている。
あんまり言い過ぎると、かえって逆効果になると思うんだが。
「わ、わかりましたから。大丈夫です。もう、ちゃんとわかりましたから」
押され気味に立花が答えた。
「ちゃんとわかってくれた? 」
「はい、もうバッチリです! 」
「なら良かった! 」
能天気な姫石は立花の誤解が解けたと思ったらしい。
あの反応はどう見てもわかっていない時の反応だ。
「とにかく! さっさとその秘密とやらを質問してくれ。それをしないかぎりは話が進まない」
「あ、すみません。じゃあ、今から質問するので玉宮先輩はどこか聞こえないところで待っていてもらってもいいですか? 」
立花は遠慮気味に少し恥ずかしそうに言ってきた。
「大丈夫だ。わかってる。俺は聞こえないようにどこかに行っているから、質問して確認がとれたら呼んでくれ」
姫石以外に誰も知らない内容をこれから聞くということは、同時に姫石以外の誰にも聞かれたくない内容だということだ。
それなのにその内容を俺が聞くというのは野暮なことだ。
「ありがとうございます。すぐに終わらせますので」
立花はペコリと頭を下げた。
「乙女の秘密だからね! 聞き耳を立ようとか変なこと考えないようにね! 」
「だから、わかってるって言ってるだろ! ちょっと俺への信用なさすぎないか? 」
仲が良かったら、こんなに信用されないことはないだろうに。
「そんなことないよ。玉宮だったらやりかねないかな~って思っただけだから」
「それを世間じゃ、信用されていないって言うんだよ」
「細かいことは気にしないの! ほら、早くどっか行ってくれないと歩乃架ちゃんが質問できないでしょ。とっとあっち行ってて! 」
「言われなくても行くわ。なるべく早くしてくれよな」
まったく、世の中はもう少し俺に優しくなるべきだ。
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「玉宮先輩、もう大丈夫ですよ」
聞こえないようにと離れたところで待機していた俺を立花が呼びにきた。
「そうか。どうだった? 質問に対しての姫石の回答は正しかったか? 」
「はい、ちゃん合っていました」
「それならこれである程度は俺の仮説を信じてくれたか? 」
「もちろんです。もう疑いの余地はありません。お二人は本当に入れ替わってしまったのだと思います」
疑いの余地が完全に無いということはありえないと思うが、それだけ信じてくれたということだろう。
本当にありがたいことだ。
「まぁ、姫石先輩が入れ替わったと言ってる時点で信じないわけないんですけどね」
「さすが歩乃架ちゃん! 本当そういうところが大好き! 」
そう言って姫石は立花に抱き着いた。
「だから俺の体で抱き着くなってさっきから言っているだろ! 」
いくら立花が俺達の状況を理解していて抱き着かれるのに抵抗しないからといって、そういう誤解を生みそうな行動はやめて欲しい。
傍から見れば男子が女子に抱き着いているようにしか見えないのに変わりはないのだから。
「そっか。あたし達まだ入れ替わったままなんだよね」
「あぁ、状況は何も改善されていない」
立花が俺の仮説を信じてくれたからといってこの状況を打開できるわけでは決してない。
「入れ替わった時ってどうすればいいのかな?とりあえず、親に相談してみる? 」
「姫石はいきなり親にこんな話を相談できるのか? 」
「……いきなりはちょっと無理かも」
「だよな。俺だって無理だ」
いきなりこんなことを親に言い出したら、頭を打ったのかもしれないと余計な心配をされるだけだ。
「やっぱり、どこか大きな病院で精密検査とか受けたりした方が良いんでしょうか? 」
「たしかに立花の言う通り、体の仕組みをよく理解している専門家の人達に詳しく検査してもらえるのが一番いい。この入れ替わりという現象を解明して俺達の体を元に戻してもらえるかもしれない。だが、こんなあまりにも非現実的な話を見ず知らずの人達が真面目に信じてくれるとは到底思えない。最悪、頭のおかしい精神異常者として一生を病院で過ごさせられるはめになってもおかしくはない」
せっかく立花が俺達のことを信じてくれて、俺は社会的に死ぬことを避けられたというのに精神異常者として病院に閉じ込められてしまっては元も子もない。
「そうですよね。姫石先輩のことをよく知っている私でさえ、最初は全然信じることができませんでした。それが見ず知らずの相手だったとしたら尚更ですよね」
「歩乃架ちゃんですら丁寧に説明して、あたしだけしか知らないことを答えることができて、ようやく100%信じることができたぐらいだもんね」
「そう、だから病院に行くのはあくまで最後の手段。自分達でできる手を全てやりつくしてからだ。もしかしたら、これは一過性のもので時間が経てば元に戻るかもしれない。逆に病院に行って信じてもらえたとしても元に戻ることはできないかもしれない。なにせ、病院だって体が入れ替わった患者を診るのは初めてだろうからな。元に戻らない可能性も十分にある」
「多分あたし達が人類で初めて体が入れ替わった人だもんね。どんなにすごい人でもわからなくてあたり前だよね……」
普段なら人類初などと姫石が言っていたら、そんなわけないだろうと指摘しているところだが今に限っては正しい表現なのかもしれない。
できれば人類初ではなく前例があって欲しいものだが。
「人類初だろうとそうじゃなかろうと、とにかく今は情報が欲しい。入れ替わりにまつわるありとあらゆる情報を集めよう。入れ替わりを題材にした漫画やアニメ、ドラマ、映画でもなんでもいい。案外、元に戻るためのヒントがあるかもしれない。あとは科学的な面から入れ替わりに関係がありそうな理論や研究、論文からアプローチできればいいんだが……」
ネットで調べられるといっても、ネット上にある論文や研究データーの数はたかが知れている。
そもそも、専門用語が多すぎてある程度知識がないと理解することすら難しいかもしれない。
「あの私、科学的な面からの情報ならお手伝いできるかもしれません。どんな現象でも科学的に説明できる! と言って何でもかんでも科学的に説明しないと気が済まないような人を知ってるんです。その人ならもしかしたら、何か助けになってくれるかもしれません。きっと、こんな信じられないような話でも興味を持ってくれる人だと思います」
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