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人の番外
人の番外ー貂と鬼
しおりを挟む「最近、あいつらめっちゃ良い感じじゃね?」
鬼が、隣を歩く貂に声をかけた。
夕刻、倉に向け、怪物街道を二人並んで歩く。
いつの時からか、夕方頃に二人待ち合わせて倉まで歩くのが常になっていた。
赤く照らされる空の下を一緒に歩くのも、満天の星が照らす道を共に歩くのも、朝焼けの中並んで歩くのも、二人は気に入っていた。
雨の日は、鬼が傘を持ち、背の低い貂が濡れないように鬼の肩が片方必ず濡れる。
鬼は傘を持たずに出掛ける。貂は先刻御承知の様で、しかしそれを嬉しく思っているようだった。
「あっちも多分、同じ事話してるでしょうね」
二人の間に、決定付ける言葉が交わされた事は無い。しかし、誰かがこの二人を見れば、仲が良いを超えた関係であると思うだろう。
「おれたちの出会いは… いやまぁ、おれが悪かったが」
「そんなことないわよ。あたしがあんたの事探ろうと近付いてって、あんたが人間について聞いてきて、あたしがしらを切って…」
「おれが嘘について怒鳴りつけ…」
「あたしが逆にキレてあんたに詰め寄り、あんたがあたしを離そうとした」
「突き飛ばした、だろ。やっぱ先に手を出したおれがわりぃ」
「手を出させた原因はあたしじゃないの」
「あいつに言われたよ。『女の子に手を上げといて、自慢気に語るなよ』ってな」
「それはあいつをけしかける為でしょ」
しばしの沈黙。
先に口を開いたのは、貂だった。
「結局あたしはぬらりひょんのお爺さんに助けられちゃうし、あの時ちょっとビビっちゃって悔しかったし。あんたがあいつについてであたしを挑発するから、あたしがあいつをけしかけちゃったし。…なんか恥ずかしいわ」
その挑発も、お爺さんと手合わせしたかったからだって後で気付いたし、と貂は付け加えた。
「まぁでも、あの出会いで良かったのよ。おかげで今は、気兼ね無い関係ね」
「…お前、みるみる精神的に成長していくのな」
鬼が貂の顔を見て、衝撃を受けた様な表情をした。
貂はちょっとイラッとして軽く鬼の尻を蹴った。
二人はただ、倉に向かって歩き続ける。
「…貂」
鬼が小さな声で名を呼んだ。
「…?何か言った?」
貂には聞こえなかったようで、鬼に聞き返した。
「いや、何でもねー」
鬼は沈み行く夕日に顔を向ける。
何かを隠す様に。
「…?変なの」
貂はそう言って、鬼に向けた顔をまた戻した。
二人が手を繋いで歩くことはない。
貂の肩が、鬼の腕に少し当たるくらいだ。
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