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怪物街道 人の話
これからも、ずっと
しおりを挟む次の日、白狼天狗に事の顛末を話した。昨日は天狗に怪物街道で僕達が守ると伝えていたのだ。白狼天狗はその事を非常に心配していたようだが…何なら陰で見ていたらしく、無事に終わって良かったと笑っていた。
大天狗様はまだ帰って来てはいないらしい。気に入った人間を見つけたらしく、意地でも帰らないと言って遊んでいるとか。
僕にぶつけるとかいう話は頑張って断っておいてくださいとお願いしておいた。
ちなみに、総大将は降りてもらう手筈で話を進めているらしい。
ぬらりひょんの爺さんにも挨拶に行った。
爺さんは「良く生き残れたな」と言ってカカカと笑っていた。
「人間はいつも、儂の想像を超えて事を成す」
爺さんは遠い目をして、懐かしんでいる様だった。
「いつか、冒険譚を聞かせてくださいよ」
「カカカ、老人にそれを言えばどうなるか、良く考えての発言じゃろうな?」
爺さんは元気そうだった。傷も順調に回復していっているらしい。
僕とぼっこさんが去ろうとすると「お似合いじゃよ」と爺さんが声をかけてきた。
とりあえず「どうも」とだけ返して離れた。
妖狐さんにも挨拶に行った。
妖狐さんは全く知らなかったらしい。
美味しい厚揚げをいただき、帰る事にした。
帰り際に「貴方達、変わったわね」と言われた。
はて?と思いながら去ろうとすると「絶対上手くいくわよ」と何かに太鼓判を押してくれた。
妖狐さんは僕達の姿が見えなくなるまで、力一杯手を振ってくれていた。
○
怪物街道を、二人で手を繋ぎながら歩く。
夕陽がそろそろ沈む頃だろうか。
鬼と貂も倉に向かう頃だろう。
「面白いことも、つらいことも、色々ありましたね」
「そうだね。こうやって手を繋いで歩くこともあれば、突然突き飛ばされることもあるからね」
ぼっこさんは意地悪に笑った。
「格好悪いところ見せましたね」
「いつも必死だったから、格好悪いところも愛らしかったかも」
ぼっこさんは「でも、素敵なところの方が多かったよ」と笑いながら付け加えてくれた。
「きっとこれからも、色んな姿を見てもらうことになるかもです。とても平和でありながら、予測のつかない毎日ですから。季節は巡り、また沈丁花の咲く日も来るでしょう」
二人で沈み出した夕陽を眺める。
「黄昏時だね」
ぼっこさんが、赤と青の混じり合う空を見上げて言った。
「人は日の下に生きて、妖は月の下に現れるの。だから、私達が出会える時間は、本来はこの時しか無かったんだよ」
ぼっこさんが僕と向かい合う。
「人と妖はね、本来それくらい一緒にいることが難しいの。大体が悲恋だね。やっぱり色々と、違うから」
ぼっこさんは一歩後ろに歩み出して、手を離そうとした。
だから、僕はその手を離さないように強く握った。
「沈丁花の花言葉を教えてもらってから、少し調べたんです。沈丁花の花言葉には、永遠等の言葉の他に『実らぬ恋』というものがあります」
ぼっこさんが少し目を伏せた。
「それは、ある神が、かけられた呪いのせいで付けられた花言葉だそうです。…ところで、僕達の出会いと今までは、どの様なものだったでしょうか」
ぼっこさんは僕の言葉を聞いて、顔を上げた。
目が合う。
目を逸らすことなく、僕は言った。
「きっと、大丈夫です」
そう言って、僕は手を引っ張った。
ぼっこさんを抱きしめる。
ぼっこさんの呪いを解く事が出来る人間は僕以外にもいただろう。貂の悪戯を止めるのは僕じゃなくても出来るだろう。鬼に認めてもらえる人間は、僕以外にもいるだろう。窮奇だって、善性のある人物であれば戦いになると言ったが、僕でなければ止められないとは言わなかった。
僕にしか出来ない事など、一つも成し得ていないが
「出会えたのが、君で良かった」
これ程嬉しい言葉を言われる機会は、人生に何度あるだろうか。
「それは、随分な殺し文句だなぁ」
僕とぼっこさんは、夜の帷が下りるまで笑い合った。
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