怪物街道

ちゃぴ

文字の大きさ
上 下
56 / 59
怪物街道 人の話

これからも、ずっと

しおりを挟む

 次の日、白狼天狗に事の顛末てんまつを話した。昨日は天狗に怪物街道で僕達が守ると伝えていたのだ。白狼天狗はその事を非常に心配していたようだが…何ならかげで見ていたらしく、無事に終わって良かったと笑っていた。
 大天狗様はまだ帰って来てはいないらしい。気に入った人間を見つけたらしく、意地でも帰らないと言って遊んでいるとか。
 僕にぶつけるとかいう話は頑張って断っておいてくださいとお願いしておいた。
 ちなみに、総大将は降りてもらう手筈てはずで話を進めているらしい。

 ぬらりひょんの爺さんにも挨拶に行った。
 爺さんは「良く生き残れたな」と言ってカカカと笑っていた。
「人間はいつも、儂の想像を超えて事を成す」
 爺さんは遠い目をして、懐かしんでいる様だった。
「いつか、冒険譚ぼうけんたんを聞かせてくださいよ」
「カカカ、老人にそれを言えばどうなるか、良く考えての発言じゃろうな?」
 爺さんは元気そうだった。傷も順調に回復していっているらしい。
 僕とぼっこさんが去ろうとすると「お似合いじゃよ」と爺さんが声をかけてきた。
 とりあえず「どうも」とだけ返して離れた。

 妖狐さんにも挨拶に行った。
 妖狐さんは全く知らなかったらしい。
 美味しい厚揚げをいただき、帰る事にした。
 帰り際に「貴方達、変わったわね」と言われた。
 はて?と思いながら去ろうとすると「絶対上手くいくわよ」と何かに太鼓判たいこばんを押してくれた。
 妖狐さんは僕達の姿が見えなくなるまで、力一杯手を振ってくれていた。



 怪物街道を、二人で手を繋ぎながら歩く。
 夕陽がそろそろ沈む頃だろうか。
 鬼と貂も倉に向かう頃だろう。
「面白いことも、つらいことも、色々ありましたね」
「そうだね。こうやって手を繋いで歩くこともあれば、突然突き飛ばされることもあるからね」
 ぼっこさんは意地悪に笑った。
「格好悪いところ見せましたね」
「いつも必死だったから、格好悪いところも愛らしかったかも」
 ぼっこさんは「でも、素敵なところの方が多かったよ」と笑いながら付け加えてくれた。
「きっとこれからも、色んな姿を見てもらうことになるかもです。とても平和でありながら、予測のつかない毎日ですから。季節は巡り、また沈丁花ジンチョウゲの咲く日も来るでしょう」
 二人で沈み出した夕陽を眺める。
黄昏時たそがれどきだね」
 ぼっこさんが、赤と青の混じり合う空を見上げて言った。
「人は日のもとに生きて、妖は月の下に現れるの。だから、私達が出会える時間は、本来はこの時しか無かったんだよ」
 ぼっこさんが僕と向かい合う。
「人と妖はね、本来それくらい一緒にいることが難しいの。大体が悲恋ひれんだね。やっぱり色々と、違うから」
 ぼっこさんは一歩後ろに歩み出して、手を離そうとした。
 だから、僕はその手を離さないように強く握った。
「沈丁花の花言葉を教えてもらってから、少し調べたんです。沈丁花の花言葉には、永遠等の言葉の他に『実らぬ恋』というものがあります」
 ぼっこさんが少し目を伏せた。
「それは、ある神が、かけられた呪いのせいで付けられた花言葉だそうです。…ところで、僕達の出会いと今までは、どの様なものだったでしょうか」
 ぼっこさんは僕の言葉を聞いて、顔を上げた。
 目が合う。
 目を逸らすことなく、僕は言った。
「きっと、大丈夫です」
 そう言って、僕は手を引っ張った。
 ぼっこさんを抱きしめる。
 ぼっこさんの呪いを解く事が出来る人間は僕以外にもいただろう。貂の悪戯いたずらを止めるのは僕じゃなくても出来るだろう。鬼に認めてもらえる人間は、僕以外にもいるだろう。窮奇きゅうきだって、善性のある人物であれば戦いになると言ったが、僕でなければ止められないとは言わなかった。
 僕にしか出来ない事など、一つも成し得ていないが
「出会えたのが、君で良かった」
これ程嬉しい言葉を言われる機会は、人生に何度あるだろうか。
「それは、随分な殺し文句だなぁ」
 僕とぼっこさんは、夜のとばりが下りるまで笑い合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命2ヶ月の俺の青春

希望
ライト文芸
俺は小説を書いて、そこそこ売れている作家だ。両親はいないが、妹と二人で親の遺産と俺の印税でそこそこ小金持ちの生活をしていた。あの診断がでるまではー そう俺は余命2ヶ月のガンの診断を受けた。そして俺は高校を辞めて、誰も悲しませずにひっそりと暮らそうと、千葉の田舎のほうに親の遺産のひとつであるアパートに移り住むことになった。 そして青春しませんかという看板を見つけて、死ぬ前に遺作として、新しい小説を書くのも悪くないなと思い参考にするためその神社を潜った。そして俺はある少女に出会い、最後の青春をして、小説に残し、それが後世に語り継がれる物語となるー。 これは俺と少女の最後の青春である。

夢はお金で買えますか? ~とあるエンタメスクールの7カ月~

朝凪なつ
ライト文芸
東京メディアスクール。略してTMS。 アニメ、ゲーム、キャラクターデザイン、漫画、小説・シナリオ、声優のプロを育成する専門スクール。 一年で約100万円かかる二年制のスクールに夢を叶えるために通う生徒たち。 ・スクールに仕方なく就職した佐久間晧一(事務員、契約社員) ・ライトノベル作家を夢見る大学生の木崎彩(小説・シナリオ学科) ・声優を目指して入った会社員の高梨悠理(声優学科) ・イラストで食べていきたいと会社を辞めた河野いちか(キャラクターデザイン学科) スクールで働く者と、夢を目指して通う者たち。 様々な人とそれぞれの思いが交錯するスクールでの、それぞれの物語。 *+*+*+* 以前、別のペンネーム、『夢は甘いか、苦いか、しょっぱいか』というタイトルでWeb連載した作品を 改題、本文修正して投稿しております。

猫と幼なじみ

鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。 ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。 ※小説家になろうでも公開中※

ツキヒメエホン ~Another Days~

海獺屋ぼの
ライト文芸
京極月姫はクラスメイトの勅使河原葵から絵のモデルを頼まれた。 デッサンされる中、彼女から”ガラスウサギ”の噂を聞かされる……。 長編小説《ツキヒメエホン》のサイドストーリー的短編小説。

破鏡の世に……(アルファポリス版)

刹那玻璃
歴史・時代
 後漢王朝は、形ばかりのものになりつつあった190年後半。  曹孟徳(そうもうとく)による『徐州大虐殺』から姉弟たちと共に逃れ、逃れて荊州(けいしゅう)の襄陽(じょうよう)にたどり着いた諸葛孔明(しょかつこうめい)、16歳。  現在の趣味は畑仕事に掃除、洗濯に内職。裁縫も得意だ。星を読むのは天候予測のため。でないとご飯にありつけない。一応学問はさらっているが、それが今現在役に立っているかは不明。そして早急に必要なのは姉弟の腹を満たすものと、結婚適齢期を過ぎつつある二人の姉の嫁ぎ先!  性格は悪くないものの破天荒な姉弟たちによって磨かれた「おかんスキル」と、新しく親族となった一癖どころか二癖も三癖もある人々の中、何とかいかに平和に、のんびりと、無事にやり過ごそうと努力したもののことごとく失敗。 その上、一人の少女と出会う。 半身を追い求める孔明、幼い少女は自分を守ってくれる人、愛を求める。

Who Am I

ムロヒ
ライト文芸
主人公は見た目は至って普通の刑事であるが解離性同一性障害を持っていた。 多重人格者(28人以上) 1人目:普通でマニアル通りの真面目の人格者(刑事) 2人目:ギャンブラーの人格者 3人目:引きこもり根暗の人格者 4人:目天才IQ200以上の天才人格者 5人目:猟奇的殺人者の人格者 6人目:女子高校生の人格者 7人目:心優しい自称15歳の人格者 8人目:働き者だが自主性がない人格者。他の人格に命令されなければ何もしない。ずっと壁を見つめている。 (その他数十名) 主人公本人も自覚できないほど人格が入れ替わり立ち替わりで悪戦苦闘するストーリー 主人格は猟奇的殺人者の人格であった 決して捕まる事ない連続殺人者

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...