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怪物街道 人の話
僕が招かれた理由
しおりを挟む広い座敷に座布団を敷いてもらった。僕を真ん中に四人が座り、向かいには白狼天狗という形をとる。
「さて、何を話しましょうかな。貴殿が呼ばれた理由も申したし、大天狗様の気まぐれで居なくなったことも申した。おぉ、そうだ。人間殿、ここを訪れたという事は、やはり従来の生活に戻りたいからという事かな」
白狼天狗が膝を叩きながら僕に質問した。
「今の生活を気に入っていますので、早急にという事もありません。まぁ、家族や知人が心配している可能性は高いので、そこは少し気掛かりですが」
「あぁ、ほんの少しの連絡は取りたいという事か。しかし、行って帰ってと頻りに出来る訳では無いし、流石に総大将の了を得る必要がある。大天狗様が戻って来られれば進言致すが、いつになるかは明言出来ませぬなぁ」
白狼天狗は「少し許りの問題もある」とも呟いた。
「僕が怪物街を出て行くことには問題がありますか」
「む。いや、違う違う。問題というのはまぁ、怪物街としての、というかね。貴殿には助けられてしかおらぬよ」
白狼天狗の言葉に、僕はまたも首を傾げた。
「そうだな。より詳しく話すべきだった。貴殿が招き入れられた理由には、話を聞くという目的があった。現代の人間事情を知るという事は、現在の妖怪事情を知る事と同義なのだよ。我々妖怪は、人間に忘れ去られれば存在が消えてしまう。天狗や鬼は良い。名の有る妖怪であれば誰かの頭に必ず残る。しかし、そうでない妖怪もいるのだ。忘れ去られて消えて行くというのはね、とてもとても悲しい事さ。そして、人が忘れた妖怪は、我々妖怪だって覚えている事が出来ない。人の思念が元となっている妖怪ならではの苦悩だな。胸に穴が空くのだよ。思い出せないが、確かに誰かがいた筈だ、と。だが、いずれはその空虚すら感じなくなる。これがまた、堪らなく悲しいのだ。それを防ぐ為には、人に妖怪の事を知ってもらう必要がある。我々は、人間の話を聞いた後、此方の話も聞いて頂きたかった」
白狼天狗は、話し終えた後に虚空を見つめた。
「成程…。しかし、忘れられないために人間界に行く事はしなかったのですか?」
白狼天狗は、その質問に優しく微笑みながら答えてくれた。
「時代は進み、科学なる物が良く発展した。妖怪が出て行き、妖怪が怪異を引き起こそうとしても、科学には敵わず、また、現象にはその妖怪とは別の名称が与えられる。それは、存在の否定だ。力の無い妖怪はそれだけで消えてしまう。我々力有る妖怪が出張っても、我々の存在が知られるのみで、力無い妖怪に影響がある訳では無い。いや、今となっては、我々が出張ったとしても、もう無理でしょう。妖怪という、この世ならざるモノでは無い別の何かに変えられてしまうのみでしょうな」
白狼天狗は語った後、お茶を飲む。少し間を開け「我々は、取り残された亡霊だ」と呟き、話を続ける。
「貴殿が助けにしかなっていないというのはね、貴殿が怪物街で過ごすだけで、様々な妖怪を知っていってくれている。たった一人だ。人間、たった一人に知られるだけ。だが、その一が、ある者にとってはとても重要な時がある。全ては一から始まる。一を大切に出来ぬ者に、それ以上は与えられぬ」
白狼天狗は、僕をしっかりと見る。
「是非、怪物街をもっと知ってくれ。まだまだ気付いておらぬ事が、君の周りにはきっと溢れている。今迄目を向けなかったところを見てみると、新たな発見があるだろう。世界は、思ったよりも広いという事だ。意識的に、ね」
白狼天狗の言葉に、僕は笑みで返した。これは妖怪達にとって大切なこと。そして、僕が生きていく上でも、きっと大切なことだ。
「成程、怪物街の問題とは、思ったよりも大きいですね」
「ん?あぁ、それもそうだが、私の言っていた問題とは全然違う事だ」
「えっ」
別に全然恥ずかしくない間違い…いや、間違いというには何か違う気がするが、それでも気恥ずかしくなった。
「ふむ。そう言えば、貴殿は万屋だったな。丁度良い。我々が最近頭を抱えている問題を手伝ってはくれまいか」
万屋、何でも屋、確かに僕は妖怪お悩み相談所をやっているかやっていないかとても微妙なところだけど、そういえばそうだった。
「人間を招き入れた事による…あの迷信も些か出鱈目では無いのかもしれんな」
白狼天狗は苦笑した。
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