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怪物街道 獣の話
そして裏話
しおりを挟む倉に帰って来て、僕とぼっこさんは穏やかな夕方を迎えていた。二日連続で貂について考えていたのも終わり、今日はゆったり過ごせるだろう。
二人で夕餉の支度をしていると、倉の入り口がドンドンと叩かれた。
「来客かな、珍しいね。出てくれる?」
ぼっこさんは味噌汁の味見をしながら言った。
またぬらりひょんの爺さんが来たか、と思いながら僕が入り口である戸に近付くと
「いるんでしょー!?」
という声が聞こえてきた。貂の声だ。
「貂さん」
と呼びかけながら僕が戸を開ける。
「貂で良いわよ」
小袖に袴、いつもの着こなしで立つ貂がいた。
「どうかされましたか?」
「あれから、色々考えたのよ。あたしの我儘と実力不足で迷惑かけて、その後あんたにも助けてもらったでしょ」
火事に関しては、僕がけしかけたせいというのが強いと思うが。
言わない方が良いのかなこれ。良いだろうな。
「お礼言ってなかったからね。…ありがと」
素直に受け取って良いのだろうか。
「どういたしまして?」
「何で語尾上がってんの?」
貂は怪訝そうな顔をした。
「でね、あの妖狐とはまだまだ実力差は大きいし、あたしはもっと修行しないとって思ったのよ。今日、妖狐さんのところに行って謝罪ついでにもっと実力つけるにはどうするか聞きに行ったら、あんたのところに行けば良いって言われたわ」
どうしてそうなった。それと、妖狐さん呼びになったんだな。もう悪戯は大丈夫そうだ。
「理由は聞いたんですか?」
「あんた、妖怪達の相談役やってるんでしょ?妖狐さんから聞いたわ。きっと面白いことがこれからもあんたの周りで起こるから、そばにいて損はないだろうって。それに、あんたに助けてもらった借りもあるし、あんた、意外とやるようだから」
「何ですかそれ…」
「火柱になったあたしを止めたのも、一軒は妖狐さんとはいえ、もう一軒の火を消したのはあんたよ。まずはあんたをぎゃふんと言わせないと気が済まないわ!」
おかしなことになったもんだ。
「何だか盛り上がってるね。貂ちゃん、ご飯食べていく?」
僕の後ろから、にゅっとぼっこさんが顔を出した。
「いただくわ!」
貂は元気良く、遠慮なく言った。
「ここに泊まり込みでもするつもりですか…?」
僕はため息を吐いた。
「あたしには敬語じゃなくて良いわよ。ていうか、泊まられたら嫌なの?実際泊まらないけど、あんたって結構やらしいのね…」
貂は僕とぼっこさんを交互に見ながらそう答えた。
「違うわ!」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
○
「相変わらずここの油揚げは旨いのぉ」
いつの間にか、揚げ物屋『和狐餉』に侵入したぬらりひょんが油揚げを食べながら言った。
「あらあら、いつの間に来たんですか」
特段焦った様子もなく、妖狐はクスクス笑いながら答えた。
「どうじゃった、あの二人」
「面白い二人でした。貂の悪戯は解決出来なくても良かったのに、意外と上手くいきましたし。何より、本当の目的の…恋に発展する前の人間と妖怪が見れました」
妖狐は頬に両手を当ててうっとりとした。
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かつての自分を思い出す。柄にも無く、ある人間に熱を上げ、恋をしたあの頃の自分。妖力もその時が最も高かった。懐かしい気持ちに浸れるかも、というだけで、無理くり理由を作って二人を見たかったのだ。
「おぬしの本当の依頼は、一番最初に終わっておったからのぉ」
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「好き者じゃのう」
ぬらりひょんはいつの間に取ってきたのか、お茶を啜っていた。
「だから部屋を分けるか聞いた時も即答で同じにして欲しいって返したのよ。邪な気が一切ないからこそ逆にね!火事の時だって何も疑わないし助け合う!意識は多少なりともしている筈なのに、恋愛感情が中々芽生えないの!すごくない!?」
「わかったわかった。今のおぬしを見たら吃驚するじゃろうな」
ぬらりひょんの前からお茶を淹れた湯呑みと油揚げを載せた皿が無くなっていた。いつの間にか水場に片したようだ。
「いやもう本人達に言っちゃおうかと思ったわよね、色々と。でもやめておいたの」
「それがええ」
「あの二人、どうなっていくのかしらねぇ。貂もけしかけたし、気になりますわ。やっぱり恋愛って面白い。始まりの爽やかさから、途中の泥沼もきっとあり、終わりはどういった風になるかしら」
「流石、傾国の美女よのぉ」
「私はやってませんけれどね」
うふふと笑う妖狐を見て、ぬらりひょんはため息を吐く。嘘か真か判別しずらい。
「まぁ、あの二人がどうなっていくかは、儂も気になるところじゃがな」
カカカとぬらりひょんは笑った。
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