怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 獣の話

仲直りといきましょう!

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 次の日夕刻、僕とぼっこさんはまたも物陰でてんが来るのを待った。
 今回は幾つか用意がある。
 まずは話をしてみたい。現れたらいきなり話しかけてみよう。貂に会う前に情報を集める事も考えたが…。先日の無謀な初対面もしたことだし、多分、こっちの方が面白くなりそうだ。
などと考えていたら女の子がやってきた。
 貂だ。
 今日は昨日にも増して周囲を確認する回数が多い。化ける前に僕は歩み寄った。
「こんばんは」
「キュア!?」
 どんな声だよ。
 いや、動物だとこんな鳴き声になるのか。貂ってこんな感じに鳴くの?あとものすごく声が高くなるんだな。
「昨日はすみませんでした。これ、おびの品です」
 僕は近付きすぎずに声をかけ、距離をとった状態で、持ってきていた布袋から一つの小さな容れ物を取り出した。
「煮いちごです」
 そろそろ暖かな春という今の時期、冬に収穫出来たレモンと、そろそろ旬になるいちごを使ったお手軽簡単おやつだ。
 いちごと砂糖、レモン汁を使って、崩れず色が落ち過ぎずと変化を慎重に見極めながら煮立て、後は冷やせば完成する楽々調理。
 妖狐さんから砂糖を使ってもいいと言ってもらえたので少し使わせてもらった。
 ちなみに失敗しかけたらすぐにジャム作りに切り替えたらいい。そこまで量は作れないし、腐らせずに済む。
 貂は、雑食だから何でも食べてくれると妖狐さんから教えてもらったが、お店の物をあげても心境はどうなるかわからないし、いちごをそのまま渡すよりも一手間かけた方がお詫び感が出るだろう。
 人間だからね、小賢こざかしくいかせてもらう。
「煮いちご…?」
「食べてみてください」
 僕は容れ物を差し出した。貂が少しずつ寄ってくる。僕からは寄らないのが大事な点である。
 良い匂いだろう。動物の本能には逆らえまい。
 貂はいちごを一つ摘み、口に入れると
「美味しい~!」
 パッと笑顔を輝かせた。
「気に入ってもらえて良かった!どうぞ!」
僕は煮いちごの入った容れ物を貂に渡した。
「貰っといてあげるわ!」
「どうも。許してもらえて良かった。食べながらで良いので少しお話しを…」
と言ったところで、少し警戒する色が見えた。
「そのままの煮いちごでも美味しいのですが、他にも色んな楽しみ方があるんですよ」
「へぇ~!」
 危ない。流石に警戒心強いな。割に感情に流されやすくもある。かじ取りが楽なのか大変なのかわかりにくい。
 とはいえ、意外と上手くいった。もっと苦戦するかと思ってた。
 献上品けんじょうひんでご機嫌を取る。その流れで会話に持っていく。食べ物は気に入ってくれていて、布や袋に貰ったばかりで包めていない。何なら本当に食べながら聞いてくれるようだ。
 これなら逃げようと考え出してもすぐさま動けない。走り出す前か途中かに、最悪でも放り投げるか落とすかの行動を一つ挟む必要が出る。
「てかあんた、人間よね?」
「そうです」
 もう既に距離が近いな。心も体も。動物の事をもっと理解していれば、もっと上手く出来るのかもしれない。今はどうしようもないか。
「なんで人間が怪物街にいんのよ?」
「色々あって、迷い込みました」
「はぁー?」
 まぁ、そうだよな。
「話すと長く…もならないか。僕の事情を説明する為に、もう一人呼んでいいですか」
「どこにいんの?変な場所に連れ込むつもりじゃないでしょうね」
「いえ、そこにいます。ぼっこさーん」
 僕に呼ばれて、物陰からぼっこさんが、頬をぽりぽりかきながら出て来る。
「呼ばれて飛び出て、倉ぼっこのぼっこちゃん~…」
 乾いた笑いを出しながら、敵意が無いんですよ~と言わんばかり。
「別に場所はどこでも良いですよ。えーと…」
「貂で良いわよ」
「じゃあ、貂さん。座れるお店とか誰もいないところとか、貂さんにお任せします」
「お店かどっかか…って、なんか変なことになっちゃったわね…」
 貂は煮いちごを頬張りながら、頭に疑問符を浮かべた。
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