怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 獣の話

怪物街に御招待

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家人かじんに気付かれぬ内、いつの間にか入り込み、飯を食うては消えて行く。その極意ごくいは、人のきょを突き、意識の外におるゆえなり、じゃ。カカカ!」
 倉の中、笑うぬらりひょんの爺さんを前にして、僕とぼっこさんはため息をついた。
「その極意を使って、わざわざ僕を驚かせたんですか…」
と僕が言うと、
「当然。わしらは妖怪じゃぞ?人に恐れられてこそよ。驚かせられる機会があればいくらでもやるわい。まぁ、倉ぼっこのようにただただ優しいやつもおるが、少数派じゃな」
と答えた。
 そうか、妖怪。これが普通と言われれば、確かにその通りだろうから、ぐぅのも出ない。
「で、今日はどうされましたか」
「うむ。この前言っていた件でな、悩み解決をして欲しいんじゃ」
 困っている妖怪の手助けをして欲しいという話は確かに以前言っていたが、まさか本当にけることになるとは。
「僕は人間ですが、大丈夫なんですか」
「おうとも。というより、人間だからこそ面白くなりそうと答えた方が正しいな」
「…面白くなるかどうかの判断で良いんですか?」
 僕は少しあきれて、笑いながら答えたが、
「そうだ!良いか人間!儂ら妖怪はな、衣食住大切にしとる。だが何より大切にしているのは、自分以外の奴らの感情だ!儂らは怪異かいいだ。怪異は、何から生まれたモノだと思う?恐れ、不可思議、妄想幻想… 思考と感情が混ざり合い、ぐちゃぐちゃになって儂らとなる。生まれる理由がそうであり、また、生きていく上で必要となるモノもそれなのだよ。これからお前さんに行ってもらう妖怪達の集まる場所、『怪物街かいぶつがい』では、最も大事にされているのは怪異だ。金でも食でも無く、な。面白おかしいのが何より良いのさ!儂らを生み出す発想力豊かな、人間の訪客ほうきゃくともなれば、これ程愉快ゆかいな事あるまい!」
 爺さんはそう答えた。これは結構、真面目な話をしているのだろう。
 神様や妖怪にとって、忘れ去られるのが最も耐えがたいことだと言うのをどこかで聞いたことがある。であるならば、驚かすこと、楽しませること、そういった感情を大事にするのは必然か。
「で、怪物街ってのがあって、僕はそこに行くんですか」
「そうして欲しいんじゃ。まぁ、嫌だと言うなら仕方のないことだがな。無理強むりじいはせんよ。大概たいがいの妖怪は、怪物街に住んでおる。倉ぼっこは、呪いの関係もあって離れて住んでいたがな。少数派じゃ。なんじゃぼっこ、お前さん、考えてみたら随分ずいぶん変わり種だな」
 ぼっこさんは「そんな事ない!」と、爺さんに向けて舌を出していた。
「色んな妖怪がおって楽しいぞ。相談を請ける請けないは別として、一度行ってみると良い。ぼっこも気兼きがねなく行けるようになったし、二人でな」
「一緒に行かないんですか?」
「儂がいない方が、予想外の出来事が起きる可能性もある。ならばその方が楽しかろ!」
 カカカと爺さんは笑った。
「怪物街に着いたらば、揚げ物屋に行きゃあええ。そこの奴から話を聞いてやってくれ。ぼっこ、怪物街に通ずる道を忘れてはおるまいな」
「覚えてるよ。大丈夫」
 ぼっこさんは胸を張って答えた。表情から、わくわくしてるのがわかる。
 彼女が楽しみにしているのなら、行く以外に選択肢はない。あらゆる妖怪がいるという怪物街、怖さもあるが、僕も楽しみにしてしまっている。怖いもの見たさというやつだ。
「決まりじゃな。いつ行くかは、お前さんらに任せよう。相談に関しても、だ。別に相談を請けんでも、すでに倉ぼっこの件で恩がある。取って食ったりはせんさ。そもそも殺生せっしょうに関しては厳しく取り締まっとるが。ではな」
 そう言って、爺さんは帰って行った。玄関を出てすぐ、姿はもう見えない。爺さんは、人の家に勝手に入って飯を食うだけ、とか言っていたが、意識の外にいることを極意とする、つまりは、意図的に認識させないようにするということだ。結構すごいことなのかもしれない。
「少し遅くなっちゃったけど、お昼御飯にしよっか」
 ぼっこさんが僕の顔を覗き込むように、上目遣いで見つめてきた。かわいい。
 そういえば、2人で街に出掛けに行くというのは… なかなか、緊張することになってしまう可能性がなきにしもあらずと言っても過言ではないのかもしれない。
 とりあえず僕は「そうですね」と答えて昼餉ひるげ支度したくを手伝った。
 ぐぅ、腹の音がなった。
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