怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 倉の話

夢の中の問答

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 成程、かこめ囲め、か。

 夢の中にとらわれている僕が、かごの中の鳥か。
 その僕が、夢の中に出てきたのか。それとも、この夢の中から抜け出させない為に、僕が僕でいることの出来るこの祠の近くから出るのを期待しているのか。
 夜あけのばん。そうだよな、僕が寝たのは深夜、今夢を見ている時間は、現実で言えば夜明け、夜明けの終わり頃辺りかもしれない。

 尋常じゃない量の汗をかき、身体が震え、筋肉も限界だと叫んでいる。地面にめり込ませた指は、爪が剥がれ始め、痛みを訴える。
 それでも僕は足掻あがき続けた。

 つるつるつっぺぇつたとは何だ。ここからの意味が、僕はわからない。
 考えろ。
 僕が良く聞いていたかごめかごめは、鶴と亀が滑った、だった。では、つるつるつっぺぇつたとは、するすると滑った、だろうか。
 いや、この引っ張られているという状況のことを表しているのだろうか。
 歌の通りにしないようにと意識するのであれば、今僕が必死になってもがいているのは間違いではないのだろうか。
 一旦ここは置いておく。次だ。
 なべのなべのそこぬけ、そこぬいてーたーァもれ。

 …全く意味がわからん!

 だが、なべのなべのそこぬけ、に関しては似たような遊びがあったはずだ。
 なべなべそこぬけ、だ。
 これもまた、かごめかごめと同様に、幾人いくにんかの子ども達で行う代表的な遊びだったと思う。
なべなべそこぬけは、手を繋いだ人同士がり返れるように動き、背中合わせになる。誰か2人の手を繋いでいる部分を門としてくぐり、そこから反り返るのだ。続けて、またも歌に合わせ、反り返り、向かい合わせに戻る。これを繰り返す遊びだったはずだ。
 裏返す、ここから考えてみるか。
 この子供達は、間違いなく生きている者ではないだろう。反対に、僕はまだ生きている。
生きることの反対は、死ぬことだ。
 僕が生きている状態から裏返されれば、死んだことになる。
 この子供達は、僕を裏返したいのだ。
 歌にのっとった遊びだとでも言うのか。
 であれば、あの訳の分からんことになっている鳥居が、なべのそこぬけ、か。
 つまりは、僕は死にたくないので裏返る訳にはいかない。
 畢竟ひっきょう、あの鳥居をくぐるわけにはいかない!
 だが、ここまで考えて解決策が浮かんでいない。
 この遊びの終わり方が、僕にはわからない。
 僕の知っているかごめかごめとは遊び方が違っている可能性がある。
 とにかく、全力で抵抗し続けた。それでも、身体はどんどん鳥居に引っ張られ、遂に鳥居は目前となった時、引っ張る力が消えた。
 息を切らせながら、気を抜かずに目線を上げると、そこには先程見た浴衣の男が立っていた。
 ついさっきのことであるはずだが、僕は随分長らく前のことと思ってしまった。
 それ程頑張ったのだ。いや全く、かたくなに我を張ったよ。本当に。
 男は僕を見下ろしながら、口を開いた。
「何故、そこまで抗う」
「死にたくないからです」
 即答した。ここが分水嶺ぶんすいれいだと思ったからだ。
「何故、死にたくない」
「死ぬのが怖いからです」
 嘘はかず、正直に思ったことを即答えた。
「何故、死ぬのが怖い」
 言葉に詰まった。死ぬのが怖いのは、何故か。わからない。わからないけど、わからないから、怖いのだ。
 とりあえずそう答えようとしたところ、
「では何故、生きようと思う」
と新たな質問が来た。
 そんな難しいこと、即答えられないって。
「幸せになりたいから、とかですかね…」
 もうどう答えるのが正解かわからないし、本当に思ったことをそのまま言った。
 脳死状態である。
 ははは、冗談が冗談でなくなるか。言うて。
「では、今望む幸せは何だ」
 男に聞かれ、僕は考えた。
 僕の望む幸せは何だろう。取り立ててやりたいことはない。特に夢もない。平凡に生きてきた僕は、大きな目標も特別な感情もなかった。
 ただ日々を、穏やかに過ごして生きたかった。

 その時、沈丁花ジンチョウゲの香りがした。
 甘く、優しい香りだった。
 そこでようやく、僕は彼女の名前を思い出したのだ。

「…とりあえず、目を覚まして、ぼっこさんとご飯を食べたい」
 疲れたから。寝る前の様子から、心配してるかもしれないし。
 十分な幸せだな、今望む分とすれば。
 そう思っていたら、男は目を丸くした。
 初めて表情が変わった。
「そうか」
 男は短くそう言うと、次第に笑い出した。
 先程とは打って変わって、その笑い声と表情は、とても柔らかいものだった。
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