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怪物街道 倉の話
昔話
しおりを挟む昔、奉公として仕えていた時の話。
その屋敷には、私が小さな頃から住み込みで働いていて、私が寝たりする場所は基本的にその頃から屋敷にある倉だった。
屋敷の主人は商いをしており、いつも忙しそうにしていたの。ご主人様はとても優しい方で、多くの方から好かれていて…。おかげで商いも随分上手くいってた。
あまりの優しさとその太っ腹加減といったらすごいもので、奉公の身で来ていた私に手車や姉様人形をくれたほどだった。
また、ご主人様のみならず他の方々も優しく、服もおさがりでいただいた。今着ている小袖がそれで、とても綺麗な石竹色が似合うからと言って、私にくれた。本当に嬉しかった。
いつもみんな笑顔で明るく、活発で、あの屋敷で過ごせた日々は宝物だった…。
あのようなところに仕えさせていただけたのは、本当に運が良かった。
正月には羽根つきですごく盛り上がった。私は羽根つきが強くて、鞠つきよりも好きだった。
掃除や洗濯ももちろん疲れるけれど、綺麗に出来ているって良く褒められた。頑張ればちゃんと褒めてくれて、そんな環境って本当に恵まれてたよ。ちなみに、その時に教えてもらった掃除の方法のおかげでこの倉もずっと綺麗な状態を保ってる。すごいでしょ。
それから、倉の側に咲いているお花を覚えてる?
白色と石竹色の花があったでしょ。私が着ている小袖と同じ色の花。住み込みをさせてもらっていた屋敷にも咲いていた。あの花は育てやすい丈夫な部類なんだけどね、木自体には毒があって、迂闊に触っちゃ駄目だよ。
でも、あの花がとても綺麗だからご主人様もおかみさんも気に入って、屋敷の近くに咲かせていた。その時に、花について教えてもらったんだ。
あの花の名前はね、沈丁花、と言うんだよ。
春の訪れを告げる花。
それからね、沈丁花の花言葉は、栄光や永遠なの。盛者必衰とは言うけれど、それでもやっぱり、あの屋敷の幸せを願った。
最後の最後まで。
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