怪物街道

ちゃぴ

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怪物街道 倉の話

倉の話

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 その倉からは、甘く、そして優しい香りがする。
 倉の近くに生る木、咲く花々から香るのだと、彼女は僕に話してくれた。
 周囲には僕ら以外に人影が無く、森閑しんかんとしていた。特に何をしているというわけでもない。彼女が話し、僕がそれを聞く。或いは、そのまた逆だってある。時には2人とも黙っていることもあった。
 しかし、いつでも柔らかな空気が僕らの間には流れていた。

 倉は、木材で出来ている。
 大きくはない。歴史を感じる佇まいであるが、手入れが行き届いているのだろう。清麗せいれいで、落ち着いた様であった。
 現代ではめずらしく、古き良き倉である。
 彼女は、特別な事は何もしていないと言っていた。とはいえ、大事に扱っていなければこの状態を保てるものではない。彼女にとっての当たり前の習慣が、倉を特別にしたのだ。

 倉の側に咲く花は、白と石竹色せきちくいろで、可憐さと綺麗さを併せ持つ。しかして、花の見た目に騙されては痛い目を見ることとなる。その花を支える枝も、幹も、根も、その全てに毒がある。花が望んだものかどうかは知らないが、その身を守る術を備えているらしい。加えて、なかなか丈夫であるという。
 彼女は花について、そう語った。
 彼女は、この花に囲まれている倉に住んでいる。それゆえなのか、彼女からは花と同じ香りがした。

沈丁花ジンチョウゲ、と言うんだよ」

 春の訪れを知らせる花の名を、彼女は僕に教えてくれた。
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