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♯13

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タクリスもあの後盛大に吐いて、ほぼ屍の状態で床についた。明日生きてんのかコイツは……?

ふかふかの布団に寝られたのはよかったけど、そこに至るまでの経緯がやばいよ。

明日の朝食も用意してくれるんだろうか……? またあんな料理になってしまうんだろうか……。考えるだけでもゾッとするぜ……Zzz……。

そのまま寝落ちしてしまったらしく、目が覚めた時にはもう陽は昇っていて、まわりを見回すと誰もいなくてすっごくアセった。え!? 俺を置いてどこ行ったの!?

飛び起きて身支度整えて急いで寝室を飛び出す。

俺だけ寝坊したのかよ! だったらなんで起こしてくんなかったんだよっ!

「くそぉ……ハラ減ったぁ。吐いた分だけハラ減ったぁ。けどまた食べんのかぁ。あの料理…………うぅ……」

ありありと想像できる。ゲンナリする。あぁ…………なんてことだ……店に入ったのは俺だけど、俺はなんて凶運なんだぁぁぁ!

テュータが『最強』なら俺は『最凶』だ。うまいこと言ったって? ざっけんなよぉぉぉ! もおぉぉ!

朝飯の恐怖と、自分の身に降りかかる凶運にため息をしつつ、昨日の服がズラァっと並んでいた部屋に戻ると、俺の目に飛び込んできたものは、服を着替え中のテュータだった。

「ぴぎゃあああああああ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ごぉぉめ゛ぇ゛ぇ゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

絶叫。そして退室。その間数秒。

過去一番にとんでもないことをしてしまった。多分。

中にパレッタいたからまぁ安心――かな。うん。

数秒前に見た表情は下心丸出しの顔だったけどね。デヘデヘーってしてた。後々が心配だなぁ……。

――ん? じゃあタクリスは? アイツどこ行ってんの!?

俺は今さっきのところには出禁だから、とりあえず……。最初にパレッタに会った店の方に避難。

「あ」

「……おぅ。昨日は、大丈夫だったかぁ? はは……まだ腹ゴロゴロしてんだよ……なぁ……」

そう言いつつ腹をさするタクリスがいた。やっと見つけたぁ。つっても探してはないけどな。本格的には。

「さっきすげぇ叫び声したと思ったら、お前が走って入ってきたからびっくりしてさ……なにがあったんだ。てか、なにしたんだよ」

「何かした前提で喋んの!? ……いや何かしちゃったのは確かだけどっ! えっと……」

俺はそれからさっき起きた事故についてヒーヒー言いながら話した。

その話をふむふむと聞くタクリス。

一通りの話を聞き終わったタクリスが全てを承知したように一度頷いた。

「へー……お前もついにロリコ」

「違うわ! あれは事故だ!」

一つも分かってねぇ!

「まだ最後まで言ってねぇじゃねぇかよ。遮んなオレの御言葉」

「やだよ! その言葉だけは言われたくねぇんだ! 言ってほしくねぇんだ!」

「まーまーフレンドリーにいきましょうよ」

「い・や・だ・よっ!」

俺がそう叫んだ時、ガチャリと扉が開いた。入ってきたのはもちろんテュータとパレッタ。

「みっ見てくださいこの、この、天使!!」

もうちょっと語彙力はなかったか……? すっごい興奮してる……。

「エリュス! 戦友! こっちのテュータ、どう?」

「んー? おお、いいんじゃねぇか? ロリに磨きがかかってんじゃねぇか」

「そーゆーこと言うなよ。……まぁ、でも、よく似合ってるよ。テュータ」

「えへへ。これ、あねごーのつくったふくなの!」

スカートのすそを少しつまんで誇らしげに笑う。

白をベースとした服には、ポイントとなる朱色のリボンが胸元についている。襟や袖には、細やかなフリルがあしらわれている。

ニコニコで1回クルっとその場でターンする。フワっとスカートが舞う。

パレッタの言った通り天使に見えてきた……。ハッ!? 俺は一体何を言っている!! つ、ついに……ロリコ――ッッン(咳払い)! あの二人と一緒になっちまったのか!? 同類になってしまったの……か!? くっ!!

「テュータさん、パレの愛娘にしたいです! そしたら、ふ、服だって……ふへへへ……」

もうやべぇぇよぉぉ!! この人ぉぉぉ!!

と、その時。

ぐぅぅぅぅぅっ。

腹の虫が悲鳴を上げた。それと同時に心の中の俺も悲鳴を上げた。

「あ、ご飯、まだ、でしたね。いま、つくってき――」

「「まって! はやまらないで!」」

俺とタクリスは慌ててパレッタを止める。振り返ったパレッタの顔はすごい恐かった。

けど吐瀉るよりかはマシだ! 胃も賛成だぜっ。

「きょっ今日の朝飯は俺が! 俺が作るから! パレッタにまかせっきりもちょっとあれだから!」

「いえパレが……」

「おれがつくります。たのむからつくらないでください」

土下座。土下座しました。そうでもしないと聞かなさそうだったから……。

パレッタは少し困ってオロオロし始めたけれど、諦めてこう言った。

「では、シチュー、お願い、します」

シチューからいったん離れろよ偏食人間!

お、俺はオムライスから離れないけどな!

明らかに矛盾しちまってるぜ!


とりあえず台所はいったん俺のフィールドになった。さて、オムライス作るか。

材料は全部一通りそろってるし、大丈夫だな。

今回は鶏さん入れるか。あと、まだいっぱい具材あるし……よし、とびっきり豪華にすっか!

                      ***

「オムオム!」

昨日も食べたであろう人間が目を輝かせている。一体お前は何食食えば気が済むんだ……?

「ほら、できたぞ。あ、パレッタ、勝手にいっぱい具材使っちゃったけど、大丈夫だった?」

「えっ、あっ、はい! だい、じょうぶ、です!」

コソっと謝ると、コソっと大丈夫と返ってきた。よかったぁ……。

それから、コトッコトッと各々の前へとオムライスを並べていく。テュータは椅子の上に立ってぴょんぴょこ跳ねてる。

『いただきます』

声を合わせ手を合わせる。早速スプーンを手に取ったのはパレッタ。さっきからずっと目キラキラしてたもんね。1口分すくってお口に直行。もぐもぐして一言。

「おいしー、です!」

よっし! 難関クリア! 正直どんな反応するか気になってたからさぁ……。心の中の俺ガッツポーズ。

テュータはもう知っての通りご機嫌麗しゅうのでいいとして……。

問題はタクリスだよ。

昔からあいつ変な食い方するの。上の卵剥いでから食う人なの! まぁ、その食べ方もありだと思うけどさ!?

やっぱり剥いだこの人!!

「んぁー美味い。やっぱエリュスの飯だよ」

めっちゃしみじみ食ってる。今あんた卵しか食ってねぇけど? そこで俺って感じられんの?

みんなに好評だったオムライスは瞬く間に皿から消えた。今日のもよい出来です。


「じゃあ、そろそろ俺らも行くな」

テュータの新しい服も、パレッタのおかげで決まり、長居しすぎてると思い、そろそろお暇しようかと思っていた時、パレッタが突然「あの……」といった。

「あ、の……皆さんさえ、よければ、パレも、一緒、に……一緒に、行動してもいい、ですか?」

「……え?」

「パレ、こ、こんなに、誰かを、信じて、一緒にいたいと思ったの、久しぶり、だから……だからっ」

必死になって伝えるパレッタの目は、怖がっているのは抜けていないけど、でも、強く信じる気持ちが宿っていた。迷いは、少しもなかった。

「パレッタがそういうなら、もう俺は何も言わないよ。よろしくね」

「ふっへっ!?」

「同意。オレも、君が来てくれるのは有り難いし、頼りになるしな」

「ひへぇぇ!?」

「あねごーといっしょ。テュータうれしい!」

「ひんひゃぁぁぁぁ!!?」

変な叫び声は上げたけれど、それでもすごく嬉しそうに笑っていた。

「よし、パレッタも加わったことだし、今度こそ出発だな!」

「っつっても、お前どこ行くんだよ。アテあんのかよ」

タクリスに指摘され、あ、と思った。あーやべぇ。そーでした。

「んー〈ルル〉に届いたらにする」

「また魔王討伐かよ。つーか、めったに来ねぇだろ」

「まおーっ! テュータやるー!!」

元気よく手を挙げるテュータ。学校であったら花丸つけます。おっきー花丸つけます。

「んひぃぃぃ!! テュータ、さん、まおーなんて……危険で、すよぉ!!」

まぁ、それが普通の反応だよね。ふつーの反応だよね。でも俺らはもうコイツの力の強さが天使どころかバケモンってことを知ってしまったから、そんな「危険だ」ってわーきゃー言えない。むしろ、見なかったことにできるなら、今すぐにでもそうしたい。

非現実にそろそろ慣れてきた。慣れって怖いね。この頃非現実が普通になってきている。

「だいじょぶ。テュータまおーとーばつすごくとくい。むしろたのちぃ」

満面の笑みでグッジョブサイン。

「きけんですよぉぉ!!」

ガシっと縋りつく。涙目で訴えるパレッタの言葉は少しも通じていない。ドンマイパレッタ。

「ま、そういうことで」

「いやですぅぅ!! 血にまみれたテュータさんなんて、見られないですぅぅ!!」

「…………」(もう見てしまった二人)

「どーしたんですか!! まさか、見て、しまって、るんですか? お二人は……」

「…………(コクリ)」(満面の笑顔)

「ひぃあああああ!!」

これでもかってくらいに叫び続けるパレッタ。あぁ、もう二日間で慣れちゃったや。慣れって怖いね。

数十分ご乱心だったけれど、俺やタクリスがなだめたおかげで、ちょっとずつ落ち着いてきてくれたから、やっと出発できる。

〈ルル〉は鳴らない。静まり返ってます。

「行先どうしよう……。まーったく決まってない……」

「エリュスのおうちにもどる」

「……え? 家? もう吹き飛んで無い気がするんだけど」

「うん。あれは本当にごめん」

「じゃあおうちのあとちに行く」

「それはそれで悲しくなるからやめんか!! ……まぁ、一度戻っておいた方がいいことはあるしなぁ……」

うーん。どうしようか。俺の家(の跡地)までそう遠くないし、パレッタにも紹介しておいた方がいいのかなぁ……。

「行って、みたいです。パレ、お出かけすること、あまり、ない、から……」 

もじもじしながらパレッタはそう告げる。

「じゃ、家付近で決まりだな。ロリもまだ見てないところもあるだろうし、お嬢さんに関しちゃ、初見なんだしな」

タクリスが頭の後ろに手をやってニヒッと笑う。

「……よし、ここからすぐだと思うし、今すぐ出発するか!」


……とぅーびーこんてにゅーっ!
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