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♯1

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 俺はいたって暇である。なぜかって? それはだな……。俺自身、あんまり役に立たないからだ。人助けもできないし、思いやることもできないし、戦うこともできない。

 この世の中に属性分類があるんであれば、俺は『ポンコツ』の中に入るであろう。なんにもできないし、むしろ足引っ張るだけだろうし。

 そんな俺、エリュス=ランドは、今日も一日なんにもしない日々を送っている。

 ……と言い切りたかったが、俺は今回、ちょっとヒサンな目に合わされることとなる。

 舞台は俺ん家。小さな家だが、一人で住むくらいならちょうどいい家である。家の話は一度遠くの空のほうへ飛ばしておいてだな……。まぁ今日も今日とて、なーんにもねぇだろーなーなんて、ニートならではの発言をしつつ(ほぼ偏見である)頬杖をついて窓から見える雲を眺めていた。

 すると、《バァン!》ドアが全開に開けられる音がした。

「ここにゆーしゃはおるか!」

 思いっきしドア全開にしておきながら第一声それかよ。お前誰だよ。

「いないぞ。ここにはニートでポンコツがいるけどよ。どうしたんだ、そんなに慌てて」

「テュータのけらい居ないのだからテュータのけらい探してる! ゆーしゃだせ!」

「いや出せって言われても、ねーもんはしょーがねーだろ! だいたい人ん家はいるときはさぁ、ノックしてから入るもんだろ! なのに、ドア、バァン! はねぇだろ!」

 俺も少々言いたいことを言い終わり、互いにゼェハァ息をしながら、落ち着くのを待つ。

 そして最初に口を開いたのは、見た目4、5歳くらいの全力ドア開けゆーしゃ要求幼女のほうだった。

「だって……! ノックしてもドア壊しちゃうもん! だからドア開けたんだ!」

「いや理由になってね――……? ドアを、壊す、だと……?」

 金色がかった長い黄色の髪を揺らし、そう告げる幼女の発言に疑問を持つ。顔から血の気が引いて、とっさに幼女の後ろに目を凝らす。よく見てみりゃ、全開ドアにはところどころヒビが入ってやがる。……なんだってぇぇ!?

「お前、ドアに何をした」

「開けただけ。早くゆーしゃだせ。さもなくばドアのようにヒビいかす」

 達者な口してんぜコノヤロオ! 脅すのも完璧だぜっ。

「……お前、どこの家の子なんだ?」

 ふと気になって、ドアを壊した幼女にそう聞く。どれだけ凶暴な幼女でも、俺からしたらただの子供だ。きっと迷子になって、俺の家に来たに違いない。そう信じたかった。

 だが、その幼女は俺の質問に予想外の回答をした。

「いえは……ぜんぶもえた!」

 何があってそうなる。

「いや何でだよ!」

「もやした!」

「放火犯お前か!」

 物騒な奴を招き入れてしまったらしい。俺はつくづくついてないな……。

「だからおうちない! すませろ!」

「いやいや、おかしいだろ! ドア直せよ!」

 いきなり来て住ませろは無いだろこいつ!

「3しょくごはんとふかふかベッドとおふろぜんぶつけろ! ゆーしゃだせ!」

「お前はどこの貴族だ! まったく! ……分かった。分かったから。ゆーしゃ出せって? 俺、ゆーしゃですが」

 ……そうだよ。俺、本当はゆーしゃなんだよ。文句あるかよ……。

「じょうだんいってる?」

「いやまったくもって冗談じゃないんだけど」

 そう。俺はゆーしゃである。ゆーしゃである証のクライムライセンス持ってるからな。

 その幼女は、疑り深い目で俺を頭の先から爪の先まで舐め回すかのように見て一言。

「せんとうりょく5。ゴミ」

 オイどっかで聞いたことあるからヤメロそのパロネタ! 怒られんの俺なんだよ!

「じゃあ、お前はどうなんだよ。俺より下だったら許さねぇからな」

 その幼女は、少々考えこんでいるような動作をし、口を開く。

「せんとうりょくよりかはLvのほうが分かりやすい。テュータLv、きゅーおくきゅ-せんきゅーひゃくきゅーじゅーきゅーまんきゅーせんきゅーひゃくきゅーじゅーきゅーだよ」

 ……はい? 今なんて言った? ケタがすっごいんだけど?

「……スンマセン。その……失礼ですけど、どなたですか。あなた様は」

 目の前に佇んでいる幼女に対し、恐怖を本能で感じ取ったのか、急に敬語へと変わる口調。

「テュータ? テュータはテュータだよ? これからもずーっとテュータだよ?」

 ……メルヘンの国にいるいかにもメルヘンな主人公を召喚させるな……。てか、お前それどこで知ったんだよ……そのネタ……。

 そんな、いろんな意味で痛々しいテュータの名乗る幼女は、さらに続ける。

「みょーじはワルツで、テュータ=ワルツ。またのなを〝さいきょーよーじょ〟。じゃあきさまは?」

「貴様!? ……エリュス=ランド。見ての通りゆーしゃニートだ。中は自覚ありのポンコツだけどよ。んで? その〝さいきょーよーじょ〟さんが、なんでわざわざ一人でゆーしゃを探してんだよ」

 テュータが俺ん家に来た根本の理由を聞く。すると、テュータはこう言い放った。

「テュータの世話およびゆーしゃおよびけらいおよびしつじにするためだ! もんくあるか!」

「いや、いっぱい文句あるけど!? なに!? 『及び』の嵐でワケ分かんねぇよ! もうちょいさ、ポンコツでも分かりやすいような言葉使ってくれる!? 困りすぎて俺自身何言ってんのかも分かんねぇよ!」

 ひたすら困りまくって暴走気味の俺を見て、テュータはつぶやく。

「クズ」

「こいつ本当に幼女なワケェェ!?」

 誰か! この目の前の生物が本当に幼女に適する子なのか保証書持ってきてくれ!

「うん。テュータろくさい。おかいどくのかわいいよーじょだよ?」

 ……こいつ自分のこと可愛いって言っちゃってるよ……。まぁ確かに、人並みよりかは可愛いと俺は思うけど俺は! 俺にそういう趣味は断じてないと最初に言っておく!

 ただ、いくらなんでも自意識過剰って感じなんだよ。いろんな場合でも! さっき会ったばっかだけど分かるよこれくらいは!

 痛さエキスだだ漏れ要素花丸満点テュータ=ワルツ。

 それを目にしている俺。

 そんな状況下だったため、俺はとりあえずテュータの手を引きつつこう言う。

「病院行くか」

 するとテュータは突然に暴れだす。

「! びょーいん、やだあああ! そんなことしたら、おまえのほねふんさいする!」(半泣き)

 そう叫ばれたので、急いで手を離した。

「じょーだんだっつーの! そりゃお前の頭は病院に通うレベルに痛々しいけどさ! 観光だよ! か・ん・こ・う! お前、ここに来たことあんのか?」

 そう問うと、テュータはぶんぶんと頭を横に振る。

「だろ? だからだ」

 本当はコイツを病院に行かせてやりたいさ。本当は。コイツのためにも、まぁ、俺のためにも。

 でもそんなことして病院爆破させたら、医者がかわいそうだ。うん、コイツは絶対しかねない。絶対する。数分前に会ったばかりのヤツだけど。今までの言動で確信した。

「ほら、行きたくないのか? 置いてくぞ」

 もう一度手を差し出す。今度は強引じゃなく、テュータを誘うように手を差し出す。

「いぇす。いく」

 すんなり行動に移してくれたので、すんなり外に出られた。てっきり、ダダこねられると思ってたからな。

 ……ってあれ。なんでさっき会ったばっかの幼女に優しく対応してんだ? 俺。そう思ってハッとする。ポンコツ数値また増えた? それか俺もおかしいの? だんだん逆の立場になってきている気がするんだけど! 俺とテュータが!

 そう混乱しつつ、ヒビの入ってしまったドアに手をかけて、ぎいと開く。

 俺、近いうちに病院行かないといけないかも……。


 ……とぅーびーこんてにゅーっ!
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