29 / 34
二十九.
「シェアハウス サントリーニ」完成!
しおりを挟む
計画が決まれば、すぐに動きはじめるのが野々村さんの性格だ。
税理士の先生との打ち合わせをした日から、数日のうちに、工務店の人達が二階の改装を始めた。
工事の間も「裕子さんのハーブタイム」の取材は続けていた。訪問する度に、新しい用途に向けて生まれ変わってゆく建物を目にすると、無機質の建物が、何だか感情を持っていて、喜んでいるように感じられてくるから不思議だ。
アンノウンのZOOM会議で、野々村さんが取材に合わせて、新しいハーブを自費で用意してくださっていたり、新しいレシピを考案してくださることなど、とても協力してくださる方だと伝えていたので、アンノウンからのお返しとして、野々村さん宅がシェアハウスになることと、入居者募集中だという記事を、書いてあげてくださいと島田氏から言われた。
そこで了二が、改装途中の写真と図面から、完成イメージイラストを描き、それに文章をつけて「アンノウンニュースレター」で公開すると、それを見た工務店の社長さんから、「うちが扱っている他の物件も取材してほしい。」と言われ、「リフォームの匠が手がける生まれ変わる建物語(たてものがたり)」の連載が新たに始まった。
年が変わり、4月の下旬。新緑がまぶしく萌えている。
「シェアハウス サントリーニ」は完成した。
野々村さんは完成披露会をかねてミニパーティを開いた。
「アンノウンニュースレター」で以前の「野々村医院」をシェアハウスに改装中、入居者募集中、4月29日(祝)に完成披露会開催、と、何度も記事を掲載したので、入居を考えての見学者だけでなく、野々村さんの友人や近所の方々、むかし野々村医師の患者でお世話になったという方々、が思いのほか大勢来てくださっているようだった。
(株)アンノウンからは、社名が書かれた札を立てた、お祝いの、蘭の鉢植えを持って、島田氏と了二が出席した。
感染予防のため、大勢が部屋にかたまらないように、リビングとテラスの間の窓とドアが明け放たれ、テラスに並べたテーブルの上に、野々村さん手作りの軽食とお菓子が並べられ、氷の入った容器の中で、ジュースやアルコール飲料が冷えていた。
野々村さんの娘さんが、キーボードを持って来て、クラシックに詳しくなくても、誰でも聞き覚えのある、易しく楽しい曲を弾いて、場を盛り上げた。
今日の野々村さんは、了二は初めて見る、異次元の喜びの表情をしていた。普段の野々村さんも笑顔がすてきな人なのだが、了二は会うことができなかった、生前の野々村医師をよく知っている、元患者さんや、近所の人々と、野々村医師の思い出話に花を咲かせる野々村さんは、たとえれば、全身のオーラの輝きが違うというか、この建物を、つまりは野々村医師の人生と想いを残せることが、野々村医師へのおおきなおおきな愛情なのだということが、はたから見ている了二の胸にも、ひしひしと感じられるのだった。
「シェアハウス サントリーニ」からの帰り途、島田氏と並んで歩きながら、了二は島田氏に「野々村裕子さんがお亡くなりになったら、自分がシェアハウスの管理人になるよう、野々村さんと野々村さんの娘さんから依頼されているが、引き受けてもよいだろうか?」と打ち明けた。
島田氏は、初めて面会した時と同じように、了二を安心させるように微笑みながら、
「朝倉さん、今は、大企業でも社員の副業を認めている時代ですから、朝倉さんが管理人になっても、会社としては構わないですよ。ただ、朝倉さんはアンノウンにとって、かけがえのない素晴らしい社員ですから、アンノウンの仕事に差しつかえのないようにはしてくださいね。」
了二は、「はい。」と答えながら、「かけがえのない社員」と言われたことに胸が震えていた。
以前、派遣社員をしていた時も、仕事が嫌いだったわけではない。
けれど、派遣社員を将棋の駒に例えると、それぞれの人に、能力や個性があっても、駒を動かす棋士、いわゆる上司の腕前によって、派遣社員の能力が、発揮できたりできなかったりする。
ところが、(株)アンノウンのように、仕事が社員の裁量に任されているところは、自分の能力を思う存分発揮でき、さらに仕事をする度に、新しい学びがあり、能力をさらに向上させてゆくことができる。こういう仕事のあり方は、自由で楽しい。
了二は副業サイトから、自分を見つけ出してくれた島田氏に、心の底から感謝した。
(ええ心がけや。仕事に感謝、社長に感謝、お客さんに感謝ニャで。)
肩にかけたショルダーの中から「猫」がささやいた。
税理士の先生との打ち合わせをした日から、数日のうちに、工務店の人達が二階の改装を始めた。
工事の間も「裕子さんのハーブタイム」の取材は続けていた。訪問する度に、新しい用途に向けて生まれ変わってゆく建物を目にすると、無機質の建物が、何だか感情を持っていて、喜んでいるように感じられてくるから不思議だ。
アンノウンのZOOM会議で、野々村さんが取材に合わせて、新しいハーブを自費で用意してくださっていたり、新しいレシピを考案してくださることなど、とても協力してくださる方だと伝えていたので、アンノウンからのお返しとして、野々村さん宅がシェアハウスになることと、入居者募集中だという記事を、書いてあげてくださいと島田氏から言われた。
そこで了二が、改装途中の写真と図面から、完成イメージイラストを描き、それに文章をつけて「アンノウンニュースレター」で公開すると、それを見た工務店の社長さんから、「うちが扱っている他の物件も取材してほしい。」と言われ、「リフォームの匠が手がける生まれ変わる建物語(たてものがたり)」の連載が新たに始まった。
年が変わり、4月の下旬。新緑がまぶしく萌えている。
「シェアハウス サントリーニ」は完成した。
野々村さんは完成披露会をかねてミニパーティを開いた。
「アンノウンニュースレター」で以前の「野々村医院」をシェアハウスに改装中、入居者募集中、4月29日(祝)に完成披露会開催、と、何度も記事を掲載したので、入居を考えての見学者だけでなく、野々村さんの友人や近所の方々、むかし野々村医師の患者でお世話になったという方々、が思いのほか大勢来てくださっているようだった。
(株)アンノウンからは、社名が書かれた札を立てた、お祝いの、蘭の鉢植えを持って、島田氏と了二が出席した。
感染予防のため、大勢が部屋にかたまらないように、リビングとテラスの間の窓とドアが明け放たれ、テラスに並べたテーブルの上に、野々村さん手作りの軽食とお菓子が並べられ、氷の入った容器の中で、ジュースやアルコール飲料が冷えていた。
野々村さんの娘さんが、キーボードを持って来て、クラシックに詳しくなくても、誰でも聞き覚えのある、易しく楽しい曲を弾いて、場を盛り上げた。
今日の野々村さんは、了二は初めて見る、異次元の喜びの表情をしていた。普段の野々村さんも笑顔がすてきな人なのだが、了二は会うことができなかった、生前の野々村医師をよく知っている、元患者さんや、近所の人々と、野々村医師の思い出話に花を咲かせる野々村さんは、たとえれば、全身のオーラの輝きが違うというか、この建物を、つまりは野々村医師の人生と想いを残せることが、野々村医師へのおおきなおおきな愛情なのだということが、はたから見ている了二の胸にも、ひしひしと感じられるのだった。
「シェアハウス サントリーニ」からの帰り途、島田氏と並んで歩きながら、了二は島田氏に「野々村裕子さんがお亡くなりになったら、自分がシェアハウスの管理人になるよう、野々村さんと野々村さんの娘さんから依頼されているが、引き受けてもよいだろうか?」と打ち明けた。
島田氏は、初めて面会した時と同じように、了二を安心させるように微笑みながら、
「朝倉さん、今は、大企業でも社員の副業を認めている時代ですから、朝倉さんが管理人になっても、会社としては構わないですよ。ただ、朝倉さんはアンノウンにとって、かけがえのない素晴らしい社員ですから、アンノウンの仕事に差しつかえのないようにはしてくださいね。」
了二は、「はい。」と答えながら、「かけがえのない社員」と言われたことに胸が震えていた。
以前、派遣社員をしていた時も、仕事が嫌いだったわけではない。
けれど、派遣社員を将棋の駒に例えると、それぞれの人に、能力や個性があっても、駒を動かす棋士、いわゆる上司の腕前によって、派遣社員の能力が、発揮できたりできなかったりする。
ところが、(株)アンノウンのように、仕事が社員の裁量に任されているところは、自分の能力を思う存分発揮でき、さらに仕事をする度に、新しい学びがあり、能力をさらに向上させてゆくことができる。こういう仕事のあり方は、自由で楽しい。
了二は副業サイトから、自分を見つけ出してくれた島田氏に、心の底から感謝した。
(ええ心がけや。仕事に感謝、社長に感謝、お客さんに感謝ニャで。)
肩にかけたショルダーの中から「猫」がささやいた。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
15
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる