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二十八.
サプライズ!
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月曜の午後2時、野々村さん宅のリビングに集まった4人。
野々村さん。野々村さんの娘さん。野々村さんのだんなさんが医院をやっておられた頃から野々村さんが依頼をしていた税理士さん。そして了二。
野々村さんの娘さんは、東京でピアノの講師をしておられるそうだ。ハキハキテキパキした野々村さんに比べると、おっとりとして、あか抜けたファッションに身を包んだ芸術家らしい雰囲気をまとった女性だった。
4人が囲んだテーブルの上には、不動産鑑定士が作成した、不動産価格の資料、工務店が作成した、建物を改装した場合の図面、見積書、これが3社からとってあり、野々村さんが、これらを見比べられるよう広げると、テーブルの上がいっぱいになった。
税理士の先生が中心となって、話し合いが始まった。
建物の二階部分の改装は、アパートにする案とシェアハウスにする案とがだされていたが、アパートだと一部屋ずつ、キッチン、バス、トイレの水回りの工事が大変で、工事費用も多額になるため、以前の入院病棟だった時の状態を、そのまま生かし、バス、トイレは共用にしてシェアハウスでよいのではないか、という意見が娘さんから出た。
一階の待合室だった部屋も改装し、コーヒーメーカーなどを据え付けて、入居者の共有リビングにする。
改装費は野々村さんの預貯金をあて、足りない分は野々村さんが銀行から借り入れをする、ということである。了二は借り入れまでするのは気の毒ではなかろうか、と思ったが、税理士さんの話を聞くと、借り入れが残ったままで娘さんが相続すると、借金は相続財産から相殺され、相続税の額が減るので、わるくない選択なのだそうだ。
それに幸い、ここからそう遠くないところに大学が二校ある。アパートより賃貸料の安いシェアハウスは、学生さんの入居が見込める。
一階の検査室と点滴室だった部屋は、鍵がかかる鉄製のドアを付け、倉庫として貸し出す。
庭は、9区画に分け、野菜や花を育てたい人達に貸し出す。
これで、すべてに借り手がついたとすると、一ヶ月に娘さんに入る金額の想定はできるわけだが…
税理士の先生が質問した。
「娘さんが支払われることになる、固定資産税、都市計画税、所得税の概算を出す前に、決めておかねばなりませんが、娘さんはこちらに住まわれないということなので、物件を管理する管理人が必要となります。どなたにするか決めておられますか?」
娘さんは、落ち着いたテノールの声で答えた。
「管理人は、母が生きている間は母が、母が亡くなった後は、こちらの朝倉了二さんに、お願いします。」
税理士の先生はうなずいたが、驚いたのは了二だ。
「ええっ?!!」と声をあげ、娘さんの顔と野々村さんの顔を交互に見た。娘さんが野々村さんに目くばせすると、野々村さんは、微笑みながら、
「驚かせてごめんなさいね。わたしが娘に、朝倉さんにお願いするのがいいわよ、と勧めたの。
今、わたしが使っている居住スペースに、無料で住んでもらって、管理人としてのお手当は、十分にお払いするわ。わるい話ではないと思うのだけれど?」
(今日、この場に呼ばれたのは、このためだったのか。管理人としての仕事はあるが、家賃が無しで手当がもらえる。そんな立場に自分がついてよいのだろうか?)
了二がソファーに置いていた、ショルダーの中から、「猫」の声が聞こえた。
(了二さん。人から信頼されて、任される仕事は、やらニャアあかんで。)
「本当に、私でいいんですか?」
了二は、また、娘さんと野々村さんの顔を交互に見ながら、確認した。
ふたりの女性は、「もちろんよ。」という表情で
同時にうなずいた。
野々村さん。野々村さんの娘さん。野々村さんのだんなさんが医院をやっておられた頃から野々村さんが依頼をしていた税理士さん。そして了二。
野々村さんの娘さんは、東京でピアノの講師をしておられるそうだ。ハキハキテキパキした野々村さんに比べると、おっとりとして、あか抜けたファッションに身を包んだ芸術家らしい雰囲気をまとった女性だった。
4人が囲んだテーブルの上には、不動産鑑定士が作成した、不動産価格の資料、工務店が作成した、建物を改装した場合の図面、見積書、これが3社からとってあり、野々村さんが、これらを見比べられるよう広げると、テーブルの上がいっぱいになった。
税理士の先生が中心となって、話し合いが始まった。
建物の二階部分の改装は、アパートにする案とシェアハウスにする案とがだされていたが、アパートだと一部屋ずつ、キッチン、バス、トイレの水回りの工事が大変で、工事費用も多額になるため、以前の入院病棟だった時の状態を、そのまま生かし、バス、トイレは共用にしてシェアハウスでよいのではないか、という意見が娘さんから出た。
一階の待合室だった部屋も改装し、コーヒーメーカーなどを据え付けて、入居者の共有リビングにする。
改装費は野々村さんの預貯金をあて、足りない分は野々村さんが銀行から借り入れをする、ということである。了二は借り入れまでするのは気の毒ではなかろうか、と思ったが、税理士さんの話を聞くと、借り入れが残ったままで娘さんが相続すると、借金は相続財産から相殺され、相続税の額が減るので、わるくない選択なのだそうだ。
それに幸い、ここからそう遠くないところに大学が二校ある。アパートより賃貸料の安いシェアハウスは、学生さんの入居が見込める。
一階の検査室と点滴室だった部屋は、鍵がかかる鉄製のドアを付け、倉庫として貸し出す。
庭は、9区画に分け、野菜や花を育てたい人達に貸し出す。
これで、すべてに借り手がついたとすると、一ヶ月に娘さんに入る金額の想定はできるわけだが…
税理士の先生が質問した。
「娘さんが支払われることになる、固定資産税、都市計画税、所得税の概算を出す前に、決めておかねばなりませんが、娘さんはこちらに住まわれないということなので、物件を管理する管理人が必要となります。どなたにするか決めておられますか?」
娘さんは、落ち着いたテノールの声で答えた。
「管理人は、母が生きている間は母が、母が亡くなった後は、こちらの朝倉了二さんに、お願いします。」
税理士の先生はうなずいたが、驚いたのは了二だ。
「ええっ?!!」と声をあげ、娘さんの顔と野々村さんの顔を交互に見た。娘さんが野々村さんに目くばせすると、野々村さんは、微笑みながら、
「驚かせてごめんなさいね。わたしが娘に、朝倉さんにお願いするのがいいわよ、と勧めたの。
今、わたしが使っている居住スペースに、無料で住んでもらって、管理人としてのお手当は、十分にお払いするわ。わるい話ではないと思うのだけれど?」
(今日、この場に呼ばれたのは、このためだったのか。管理人としての仕事はあるが、家賃が無しで手当がもらえる。そんな立場に自分がついてよいのだろうか?)
了二がソファーに置いていた、ショルダーの中から、「猫」の声が聞こえた。
(了二さん。人から信頼されて、任される仕事は、やらニャアあかんで。)
「本当に、私でいいんですか?」
了二は、また、娘さんと野々村さんの顔を交互に見ながら、確認した。
ふたりの女性は、「もちろんよ。」という表情で
同時にうなずいた。
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