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二十三.
アサギマダラがつなぐ縁
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おとといと同じリビングに通され、野々村さんは、お茶の準備にキッチンへ行った。
(了二さん、良かったニャア。この機会に「清水町児童公園」のことも聞けるニャア。)
猫が声をかけてくれた。
野々村さんは、了二が買ってきたケーキをトレーに並べて運んだあと、ポットとティーカップ、ケーキ皿などを運んできた。
了二の前に、手際よくティーカップが置かれ、ポットから湯気をたてる透き通った黄色い液体が、注がれた。
「ローズヒップティーって言うの。わたしが庭で育てているイヌバラの実から作ったの。ビタミンCが豊富なのよ。」
(やっぱり植物にもお詳しいんだ…)と了二は思った。
野々村さんは、自分のカップにもローズヒップティーを注ぐと、了二に、あなたから好きなケーキをお取りなさい、と言った。
了二は洋菓子店で「スノーモンブラン」と名付けられていた、白いクリームが円錐形にしぼり上げられている、シンプルなケーキを選んだ。
野々村さんは「ストロベリーフラワー」という、いちごのとがったほうから十字に切り込みを入れ、少し開いて花に見立てたものが、パイ生地の上に3つ並んでいるケーキを選んだ。
了二は白いクリームをすくって口に入れた。予想していなかったことに、クリームの中に小さく刻まれた栗の実が隠れており、栗の甘さとさっぱりした味のクリームが絶妙な美味しさを醸し出した。
(サプライズを演出している素敵なケーキだな…)
野々村さんのほうは、
「いちごの甘酸っぱさと、パイにはさまれたカスタードクリームがベストマッチだわ。やっぱりこのお店のケーキは美味しいわね。」
と、喜んでくださり、了二は高級店のケーキを買ってきてよかった、と思った。
ほのかに甘いローズヒップティーをいただきながら、了二は切り出した。
「僕、橋の上で転ぶより前に、野々村さんをお見かけしたことがあるんです。」
「あら、そうなの?どこで?」
「園芸道具を持って、清水町児童公園に入っていかれるところを見たんです。僕は今、地域密着のインターネットメディアの記事を書く仕事をしていて、あの公園にいた蝶のアサギマダラのことを書いた時のことです。」
「あなた、そういう仕事をしてらっしゃるの?わたし達、何か縁があるのかしら?実は、あそこにアサギマダラを呼び寄せているのは、わたしなのよ。」
「えっ?どういうことですか?」
「アサギマダラのオスは藤袴(フジバカマ)の花を好んで集まる習性があるの。だから、あの公園の花壇をボランティアで手入れすることになった時、藤袴を植えて、アサギマダラが集まる公園にしたいと思ってそうしたのは、わたしなの。」
「そうだったんですか!!」
「そのインターネットの記事は、今読めるの?よかったら見せて。」
(原因あって結果ありだニャ。結果から原因にたどり着いたニャ。)
了二は、猫の声が聞こえるショルダーの中からスマホを取り出すと「アンノウンニュースレター」の中で検索をかけて、アサギマダラの記事を出し、スマホを野々村さんに渡した。
野々村さんは、ゆっくり時間をかけて記事を読んだ。そして、スマホを了二に返す手が、こころなしか震えていた。
「わたしが一人でこっそりやったことが、こんなに素敵な記事になっていたなんて…うれしいわ。」
了二は野々村さんの言葉を聞き、頭にピンと、閃いた!
(島田氏が言っていた「地域に埋もれている魅力的な人」の一例が、野々村さんだ。この人の経験や知識を紹介することは、きっと、他の人にも役に立つ!)
了二は勇気を出して提案した。
「アサギマダラの記事は、僕が今の仕事を得るための試験としての、最初の記事だったんです。野々村さんが、藤袴を植えてくださっていたからアサギマダラが来て、僕は記事を書くことができました。これからも、野々村さんのご経験や知識を元に、記事を書かせていただきたいのですが、どうでしょうか?」
「あら、わたしにそれほどの、経験や知識があるかしら?」
「ありますとも!今、だしてくださったローズヒップティーは買ったものではなくて、野々村さんがイヌバラを栽培して、手作りされたものでしょう?このことだけでも、一本の記事になります。それに、野々村さんは、元看護婦さんでしょう。医療者の視点から見た植物というのは、そうでない人とは違うと思うんです。」
「まあ、ハーブは何種類か育てているわね。ヨーロッパではハーブは薬として認められているし。」
「ぜひ、そのことを連載させてください!」
ーー
こうして「裕子さんのハーブタイム」の連載が決まった。
(了二さん、良かったニャア。この機会に「清水町児童公園」のことも聞けるニャア。)
猫が声をかけてくれた。
野々村さんは、了二が買ってきたケーキをトレーに並べて運んだあと、ポットとティーカップ、ケーキ皿などを運んできた。
了二の前に、手際よくティーカップが置かれ、ポットから湯気をたてる透き通った黄色い液体が、注がれた。
「ローズヒップティーって言うの。わたしが庭で育てているイヌバラの実から作ったの。ビタミンCが豊富なのよ。」
(やっぱり植物にもお詳しいんだ…)と了二は思った。
野々村さんは、自分のカップにもローズヒップティーを注ぐと、了二に、あなたから好きなケーキをお取りなさい、と言った。
了二は洋菓子店で「スノーモンブラン」と名付けられていた、白いクリームが円錐形にしぼり上げられている、シンプルなケーキを選んだ。
野々村さんは「ストロベリーフラワー」という、いちごのとがったほうから十字に切り込みを入れ、少し開いて花に見立てたものが、パイ生地の上に3つ並んでいるケーキを選んだ。
了二は白いクリームをすくって口に入れた。予想していなかったことに、クリームの中に小さく刻まれた栗の実が隠れており、栗の甘さとさっぱりした味のクリームが絶妙な美味しさを醸し出した。
(サプライズを演出している素敵なケーキだな…)
野々村さんのほうは、
「いちごの甘酸っぱさと、パイにはさまれたカスタードクリームがベストマッチだわ。やっぱりこのお店のケーキは美味しいわね。」
と、喜んでくださり、了二は高級店のケーキを買ってきてよかった、と思った。
ほのかに甘いローズヒップティーをいただきながら、了二は切り出した。
「僕、橋の上で転ぶより前に、野々村さんをお見かけしたことがあるんです。」
「あら、そうなの?どこで?」
「園芸道具を持って、清水町児童公園に入っていかれるところを見たんです。僕は今、地域密着のインターネットメディアの記事を書く仕事をしていて、あの公園にいた蝶のアサギマダラのことを書いた時のことです。」
「あなた、そういう仕事をしてらっしゃるの?わたし達、何か縁があるのかしら?実は、あそこにアサギマダラを呼び寄せているのは、わたしなのよ。」
「えっ?どういうことですか?」
「アサギマダラのオスは藤袴(フジバカマ)の花を好んで集まる習性があるの。だから、あの公園の花壇をボランティアで手入れすることになった時、藤袴を植えて、アサギマダラが集まる公園にしたいと思ってそうしたのは、わたしなの。」
「そうだったんですか!!」
「そのインターネットの記事は、今読めるの?よかったら見せて。」
(原因あって結果ありだニャ。結果から原因にたどり着いたニャ。)
了二は、猫の声が聞こえるショルダーの中からスマホを取り出すと「アンノウンニュースレター」の中で検索をかけて、アサギマダラの記事を出し、スマホを野々村さんに渡した。
野々村さんは、ゆっくり時間をかけて記事を読んだ。そして、スマホを了二に返す手が、こころなしか震えていた。
「わたしが一人でこっそりやったことが、こんなに素敵な記事になっていたなんて…うれしいわ。」
了二は野々村さんの言葉を聞き、頭にピンと、閃いた!
(島田氏が言っていた「地域に埋もれている魅力的な人」の一例が、野々村さんだ。この人の経験や知識を紹介することは、きっと、他の人にも役に立つ!)
了二は勇気を出して提案した。
「アサギマダラの記事は、僕が今の仕事を得るための試験としての、最初の記事だったんです。野々村さんが、藤袴を植えてくださっていたからアサギマダラが来て、僕は記事を書くことができました。これからも、野々村さんのご経験や知識を元に、記事を書かせていただきたいのですが、どうでしょうか?」
「あら、わたしにそれほどの、経験や知識があるかしら?」
「ありますとも!今、だしてくださったローズヒップティーは買ったものではなくて、野々村さんがイヌバラを栽培して、手作りされたものでしょう?このことだけでも、一本の記事になります。それに、野々村さんは、元看護婦さんでしょう。医療者の視点から見た植物というのは、そうでない人とは違うと思うんです。」
「まあ、ハーブは何種類か育てているわね。ヨーロッパではハーブは薬として認められているし。」
「ぜひ、そのことを連載させてください!」
ーー
こうして「裕子さんのハーブタイム」の連載が決まった。
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