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十七.
盛金稲荷縁起 2 三つの奇跡
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来兵衛が家に帰り着いた時、両親と姉妹は涙を浮かべて、来兵衛の無事を喜んだ。
来兵衛が帰り道で出会った、稲荷大神の遣いの
話をすると、家族の皆は驚いたが、お告げを信じて、「おみたま」が入っている箱を神棚に祭り、皆で手を合わせて、感謝と願いの祈りを捧げ、その夜は、来兵衛も家族も不思議な安心感に包まれて、眠りについた。
翌日、早朝。
来兵衛の家の玄関の板戸をドンドンと拳でたたきながら、来兵衛の幼なじみでもある村の青年が、大声で叫ぶ声で目が覚めた。
「たいへんじゃあ!どういうわけか浜にイワシがぎょうさん打ち上げられて、ピチピチと跳ねようる。取っても取っても取りきれんほどじゃ。みんなに浜に集まるように伝えてくれ!!」
来兵衛たちが眠い目をこすりながら布団から出て、青年が言うとおり、ザルやらカゴやらを持って浜へ下って見ると、まこと、波打ち際が大量の、イワシの銀色の腹でキラキラと帯のように光り、手づかみで、いくらでも取ることができる。
来兵衛と青年とで、すぐに村の家を回って、このことを伝え、みんな入れ物を持って浜に集まった。
大人も子どもも、きゃあきゃあ言いながら、手づかみでイワシを取り、人々に、久しぶりに笑顔が広がった。
それぞれが持って来たザルやカゴや鍋がイワシでいっぱいになると、それぞれの家に帰って、イワシを焼いて、お腹いっぱいに食べた。
その日に食べきれない分は、干しイワシにするため内臓を取り、板などに並べて干した。
来兵衛が「おみたま」を持って帰るなり、このようなことが起こったので、みんな、稲荷大神様の御利益だと信じた。
次に来兵衛をはじめ村の若い衆が集まって、山へ入り、山芋を掘ってこようということになった。山芋掘りはこれまでも、それぞれが自由におこなっていたが、集団でおこなうのは、初めてのことだった。
若い衆が山へ入り、それぞれ広がって、山芋につながっているツルと葉を見つけようと目をこらして探していると、不思議なことが起こった。
山芋のツルや葉が、金色に光って見えるのである。おかげで遠くからでもすぐに見つかり、ツルをたどって地面から生えているところにたどり着くと、そこを掘れば山芋を掘り出せるので、おもいのほか多くの山芋を収穫することができた。
帰り道、「山芋のツルと葉が金色に光って見えた。」と一人が言うと、「わしもじゃ。」「わしもじゃ。」とみんな口々に同意し、これも、稲荷大神様の御利益に違いないと信じられるところとなった。
山芋は滋養のある食べ物なので、村の産前産後の女性がいる家庭や、病人のいる家庭に配り、元気になれるよう食してもらった。
村にいよいよ本格的な冬将軍が来て、雪がちらつくようになった頃、家のなかにいた来兵衛は、軒の上にパラパラと何かが当たる音を聞いた。
雹(ひょう)が降っているのだろうか?
そう思いながら来兵衛が板戸を開けると、信じられない光景が広がっていた!!
空から降ってきていたのは、なんと、大豆だった!!
大豆はパラパラパラパラと降り続け、家の庭先の地面をおおってゆく。
大豆が降ってきていることに気づいた村人達も、ぼうぜんとするほど驚いたが、そのうち我を取り戻し、家から入れ物を持って出て、大豆を拾い集め始めた。
村人総出で大豆を拾いながら、「来兵衛さんが持って帰ってくれた、稲荷大神様の、おみたまのお働きじゃ。こんな奇跡にであわせていただけるとは、ありがたいことじゃ、ありがたいことじゃ。」とお互いに言い合った。
この大豆を煮て食べながら暮らすことができたので、この村では冬に死者を出すことなく春を迎えることができた。
春、大豆を食べて体力をつけていた村人たちは、とどこおりなく田植えをおこなうことができた。
大豆はたくさん保存しておいたので、夏の厳しい農作業のあいだも、干しイワシと煮た大豆を食べながら、みんなよく働いた。
そのおかげもあって、この年は去年の不作とはうって変わって、大豊作となった。
こうして飢饉を乗り越えて、村にゆとりができた頃、来兵衛の家はもちろんのこと、村の家々も少しずつお金を出し合って、来兵衛の家よりすこし高いところに、宮大工にたのんで小さな赤い社(やしろ)と鳥居を建ててもらい、社の中に「おみたま」を移して祭った。
これが、盛金稲荷の始まりである。
来兵衛が帰り道で出会った、稲荷大神の遣いの
話をすると、家族の皆は驚いたが、お告げを信じて、「おみたま」が入っている箱を神棚に祭り、皆で手を合わせて、感謝と願いの祈りを捧げ、その夜は、来兵衛も家族も不思議な安心感に包まれて、眠りについた。
翌日、早朝。
来兵衛の家の玄関の板戸をドンドンと拳でたたきながら、来兵衛の幼なじみでもある村の青年が、大声で叫ぶ声で目が覚めた。
「たいへんじゃあ!どういうわけか浜にイワシがぎょうさん打ち上げられて、ピチピチと跳ねようる。取っても取っても取りきれんほどじゃ。みんなに浜に集まるように伝えてくれ!!」
来兵衛たちが眠い目をこすりながら布団から出て、青年が言うとおり、ザルやらカゴやらを持って浜へ下って見ると、まこと、波打ち際が大量の、イワシの銀色の腹でキラキラと帯のように光り、手づかみで、いくらでも取ることができる。
来兵衛と青年とで、すぐに村の家を回って、このことを伝え、みんな入れ物を持って浜に集まった。
大人も子どもも、きゃあきゃあ言いながら、手づかみでイワシを取り、人々に、久しぶりに笑顔が広がった。
それぞれが持って来たザルやカゴや鍋がイワシでいっぱいになると、それぞれの家に帰って、イワシを焼いて、お腹いっぱいに食べた。
その日に食べきれない分は、干しイワシにするため内臓を取り、板などに並べて干した。
来兵衛が「おみたま」を持って帰るなり、このようなことが起こったので、みんな、稲荷大神様の御利益だと信じた。
次に来兵衛をはじめ村の若い衆が集まって、山へ入り、山芋を掘ってこようということになった。山芋掘りはこれまでも、それぞれが自由におこなっていたが、集団でおこなうのは、初めてのことだった。
若い衆が山へ入り、それぞれ広がって、山芋につながっているツルと葉を見つけようと目をこらして探していると、不思議なことが起こった。
山芋のツルや葉が、金色に光って見えるのである。おかげで遠くからでもすぐに見つかり、ツルをたどって地面から生えているところにたどり着くと、そこを掘れば山芋を掘り出せるので、おもいのほか多くの山芋を収穫することができた。
帰り道、「山芋のツルと葉が金色に光って見えた。」と一人が言うと、「わしもじゃ。」「わしもじゃ。」とみんな口々に同意し、これも、稲荷大神様の御利益に違いないと信じられるところとなった。
山芋は滋養のある食べ物なので、村の産前産後の女性がいる家庭や、病人のいる家庭に配り、元気になれるよう食してもらった。
村にいよいよ本格的な冬将軍が来て、雪がちらつくようになった頃、家のなかにいた来兵衛は、軒の上にパラパラと何かが当たる音を聞いた。
雹(ひょう)が降っているのだろうか?
そう思いながら来兵衛が板戸を開けると、信じられない光景が広がっていた!!
空から降ってきていたのは、なんと、大豆だった!!
大豆はパラパラパラパラと降り続け、家の庭先の地面をおおってゆく。
大豆が降ってきていることに気づいた村人達も、ぼうぜんとするほど驚いたが、そのうち我を取り戻し、家から入れ物を持って出て、大豆を拾い集め始めた。
村人総出で大豆を拾いながら、「来兵衛さんが持って帰ってくれた、稲荷大神様の、おみたまのお働きじゃ。こんな奇跡にであわせていただけるとは、ありがたいことじゃ、ありがたいことじゃ。」とお互いに言い合った。
この大豆を煮て食べながら暮らすことができたので、この村では冬に死者を出すことなく春を迎えることができた。
春、大豆を食べて体力をつけていた村人たちは、とどこおりなく田植えをおこなうことができた。
大豆はたくさん保存しておいたので、夏の厳しい農作業のあいだも、干しイワシと煮た大豆を食べながら、みんなよく働いた。
そのおかげもあって、この年は去年の不作とはうって変わって、大豊作となった。
こうして飢饉を乗り越えて、村にゆとりができた頃、来兵衛の家はもちろんのこと、村の家々も少しずつお金を出し合って、来兵衛の家よりすこし高いところに、宮大工にたのんで小さな赤い社(やしろ)と鳥居を建ててもらい、社の中に「おみたま」を移して祭った。
これが、盛金稲荷の始まりである。
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