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十四.
盛金稲荷、宮司の笑顔
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社務所の一角で、お札やお守りを売っている巫女さんのところへ行って、了二は言った。
「あの、森田さんの紹介で、三時から宮司さんと面会の約束をしている朝倉と申しますが、宮司さんにお取り次ぎいただけますか?」
巫女さんは、さっと立ち上がると、手で社務所の入り口のほうを示しながら、
「あちらの入り口で、靴をぬいでお上がりください。」
と言った。
了二が靴をぬいで、入り口にあった靴入れに入れ、社務所に上がると、巫女さんがスリッパを渡してくれて、
「どうぞこちらへ。」
と言い、先に立って歩き出した。
板張りの通路の角を何度か曲がり、ここの社務所は広いな、と了二が思い始めた頃、ひとつのドアの前に着いた。
巫女さんがドアを開け、
「宮司、朝倉様が来られました。」
と、部屋の中へ呼び掛けた。
巫女さんの肩ごしに見えた部屋の中は、向かい合わせに事務机が6つ置かれ、おのおのの人がパソコンに向かって作業をしている。その奥にひとつ離れて置かれた机に着いている人が宮司さんだろう。
この部屋にいる人達が、着物と袴の装束でなかったら、どこかの会社のオフィスと変わりない光景だった。でも、考えてみれば、事務的な仕事については、神社も会社もそう変わらないのかもしれない。
巫女さんの声に応えて、奥の机に着いていた年配の男性が顔を上げた。
にっこり~~~
了二は、宮司さんの丸く穏やかな、満面の笑みに少し驚いた。
「ああ、君が朝倉くん?おおよその話は森田さんから聞いているよ。どうぞこちらへ。」
宮司は立ち上がって、パーティションで区切られた応接室へといざなった。
宮司にすすめられたソファーに座ると、宮司は向かいに座った。
了二は話を切り出した。
「本日は、お時間を取っていただきありがとうございます。森田さんから多和海比賣命が祭られている神社のお話を聞き、現在では地域の人々に神社の由来の記憶が忘れられていることから、記事にしてインターネットで公開し、森田さんと地域の皆様の何かのお役にたてれば、という思いで、このように書かせていただきました。あの神社は、戦後は盛金稲荷の宮司さんがお世話をされているということも聞き、記事を公開する前に、宮司さんにも下書きを見ていただいておくべきだと思い、来させていただきました。」
了二はそう言いながら、プリントした記事を、宮司さんのほうへ差し出した。
にっこり~~~
宮司さんは、また満面の笑みを浮かべてプリントを手に取ると、丁寧に目を通し始めた。
「この絵は君が描いたの?上手いねえ。今度、盛金稲荷についても書いてもらおうかなあ。」
そうほめられて、了二は、招き猫が助けてくれたので、とは言えず、どぎまぎした。
「あの神社は、私も今のままではいけないなあと、長いこと気にしていたんだよ。あの神社は森田家の氏神様で、由緒の写本もある。森田さんが話してくれた戦前のようなあり方が、ふさわしいと思っていたのだけれども、具体的にどうすればいいのか私にはわからなくてね。君たちのような地域のメディアが取り上げてくれて、地域の人達が、あの神社本来の姿を知って、自然なかたちで、あの神社が生まれ変わってくれれば、とても喜ばしい。」
にっこり~~~
「記事の内容と長さも、これでいいじゃないかね。あまりに詳しい長い記事だと、最後まで読まない人がいるからね。私は何も言うことはないよ。」
にっこり~~~
了二もほっとして笑顔になり、
「ありがとうございます。それではこの内容で「アンノウン ニュースレター」に掲載になると思います。スマホからでもパソコンからでも読んでいただけます。記事が掲載されましたらご連絡しますので、どうぞそちらも読んでいただけましたらうれしいです。」
「楽しみにしているよ。今度はぜひ、うちの「盛金稲荷縁起」の紹介もたのむよ。」
にっこり~~~
これはお世辞で言われているのではなく、「盛金稲荷縁起」を記事にしてほしいと本心で言われているのだと了二は感じた。それなら次の仕事は決まったも同然だ。
「ではまた「盛金稲荷縁起」の取材にうかがわせていただきます。本日はこれで失礼します。」
了二は立ち上がって、事務室のドアに向かった。宮司もドアのところまで見送りに来てくれた。
了二が宮司を振り返り、一礼した時、宮司の紫色の袴の裾から、「眷属のキツネさん」が現れて、了二に向かって得意そうな顔をした。
了二は心の中で伝えた。
(キツネさんありがとう。また来るね。)
「あの、森田さんの紹介で、三時から宮司さんと面会の約束をしている朝倉と申しますが、宮司さんにお取り次ぎいただけますか?」
巫女さんは、さっと立ち上がると、手で社務所の入り口のほうを示しながら、
「あちらの入り口で、靴をぬいでお上がりください。」
と言った。
了二が靴をぬいで、入り口にあった靴入れに入れ、社務所に上がると、巫女さんがスリッパを渡してくれて、
「どうぞこちらへ。」
と言い、先に立って歩き出した。
板張りの通路の角を何度か曲がり、ここの社務所は広いな、と了二が思い始めた頃、ひとつのドアの前に着いた。
巫女さんがドアを開け、
「宮司、朝倉様が来られました。」
と、部屋の中へ呼び掛けた。
巫女さんの肩ごしに見えた部屋の中は、向かい合わせに事務机が6つ置かれ、おのおのの人がパソコンに向かって作業をしている。その奥にひとつ離れて置かれた机に着いている人が宮司さんだろう。
この部屋にいる人達が、着物と袴の装束でなかったら、どこかの会社のオフィスと変わりない光景だった。でも、考えてみれば、事務的な仕事については、神社も会社もそう変わらないのかもしれない。
巫女さんの声に応えて、奥の机に着いていた年配の男性が顔を上げた。
にっこり~~~
了二は、宮司さんの丸く穏やかな、満面の笑みに少し驚いた。
「ああ、君が朝倉くん?おおよその話は森田さんから聞いているよ。どうぞこちらへ。」
宮司は立ち上がって、パーティションで区切られた応接室へといざなった。
宮司にすすめられたソファーに座ると、宮司は向かいに座った。
了二は話を切り出した。
「本日は、お時間を取っていただきありがとうございます。森田さんから多和海比賣命が祭られている神社のお話を聞き、現在では地域の人々に神社の由来の記憶が忘れられていることから、記事にしてインターネットで公開し、森田さんと地域の皆様の何かのお役にたてれば、という思いで、このように書かせていただきました。あの神社は、戦後は盛金稲荷の宮司さんがお世話をされているということも聞き、記事を公開する前に、宮司さんにも下書きを見ていただいておくべきだと思い、来させていただきました。」
了二はそう言いながら、プリントした記事を、宮司さんのほうへ差し出した。
にっこり~~~
宮司さんは、また満面の笑みを浮かべてプリントを手に取ると、丁寧に目を通し始めた。
「この絵は君が描いたの?上手いねえ。今度、盛金稲荷についても書いてもらおうかなあ。」
そうほめられて、了二は、招き猫が助けてくれたので、とは言えず、どぎまぎした。
「あの神社は、私も今のままではいけないなあと、長いこと気にしていたんだよ。あの神社は森田家の氏神様で、由緒の写本もある。森田さんが話してくれた戦前のようなあり方が、ふさわしいと思っていたのだけれども、具体的にどうすればいいのか私にはわからなくてね。君たちのような地域のメディアが取り上げてくれて、地域の人達が、あの神社本来の姿を知って、自然なかたちで、あの神社が生まれ変わってくれれば、とても喜ばしい。」
にっこり~~~
「記事の内容と長さも、これでいいじゃないかね。あまりに詳しい長い記事だと、最後まで読まない人がいるからね。私は何も言うことはないよ。」
にっこり~~~
了二もほっとして笑顔になり、
「ありがとうございます。それではこの内容で「アンノウン ニュースレター」に掲載になると思います。スマホからでもパソコンからでも読んでいただけます。記事が掲載されましたらご連絡しますので、どうぞそちらも読んでいただけましたらうれしいです。」
「楽しみにしているよ。今度はぜひ、うちの「盛金稲荷縁起」の紹介もたのむよ。」
にっこり~~~
これはお世辞で言われているのではなく、「盛金稲荷縁起」を記事にしてほしいと本心で言われているのだと了二は感じた。それなら次の仕事は決まったも同然だ。
「ではまた「盛金稲荷縁起」の取材にうかがわせていただきます。本日はこれで失礼します。」
了二は立ち上がって、事務室のドアに向かった。宮司もドアのところまで見送りに来てくれた。
了二が宮司を振り返り、一礼した時、宮司の紫色の袴の裾から、「眷属のキツネさん」が現れて、了二に向かって得意そうな顔をした。
了二は心の中で伝えた。
(キツネさんありがとう。また来るね。)
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