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十三.

了二、もふもふ小ギツネと会う

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「盛金稲荷前」バス停で、路線バスから降りた了二は、そびえるように立つ大きな赤い鳥居と、鳥居から拝殿までの参道の両側に、隙間がないほどビッシリ立つ、朱色に白く「盛金稲荷大明神」と染め抜かれ、寄進者の名前が書かれた幟(のぼり)の数に、少々度肝を抜かれた。

(ここを信仰している人は多いと聞いていたけど、想像以上だな。)

平日なので、参拝者は少ないが、それでも鳥居をくぐって参拝にむかう人、参拝をすませて出てゆく人は、ポツリ、ポツリとでもとぎれることがない。

了二もその一人となり、鳥居をくぐって拝殿へと向かった。宮司さんと会う前に、参拝をするのが神様への礼儀のように感じたからだ。

今回のお賽銭は、猫の分と自分の分として200円を入れた。森田さんに三万円もいただいたのだから、神様に感謝の気持ちを表したいと思ったのだ。

柏手(かしわで)を打ち、目を閉じて、心の中で、
(ありがとうございます。こちらの宮司さんとの打ち合わせも、うまくいきますようによろしくお願いします。)
と願った。

静かに目を開けた時、えっ!と驚くものが賽銭箱の上にいた!そして、そのものが
猫と同じように声を発したのだ。

(よう。陶士朗さんの猫さん、久しぶり!)

それは、招き猫と同じくらいの大きさの小さな白いもふもふのキツネだった。しかし猫と違って磁器ではなく、ポケモンのような生き物として存在している感じだ。

(眷属(けんぞく)のキツネさん、仕事中の私語は厳禁ニャで。)

(堅いこと言うない。)

(猫は磁器だから堅いニャ。)

了二は突然はじまった、キツネと猫との会話を、茫然と見守った。

(ところで猫さん、このお兄さんのショルダーバッグに入っているということは、このお兄さんの金運を上げる仕事をしてるんだね。俺にできることは手伝うけど。このお兄さんが、今、俺のご主人の稲荷大神(いなりおおかみ)にお願いされたしね。)

(そうニャ。キツネさんがそう言ってくれるならお願いしようかな。じつは、かくかくしかじかで…)

了二は猫が、了二がここに来た理由を、キツネに説明するのを聞いていた。キツネは、

(そっか。じゃあ宮司が、このお兄さんが書いた記事を応援してくれればいいんだね。じゃあ、ちょっくら宮司のところへ行って機嫌をとってくらあ。)

キツネはそう言うと、目にも止まらぬ早さで、賽銭箱の上から拝殿の裏へと走り去った。そして、ものの1分もたたぬうちに、また疾走して戻ってくると、こう言った。

(宮司の潜在意識に、今から訪ねて来る人は、とてもいい人だから、よくしてあげてね、と吹き込んできたぜ。安心して会ってきな。)

(キツネさん、ありがとニャ。)

了二も、お稲荷さんのキツネって、こういうふうに働くんだと感心しながら、
(ありがとう、稲荷大神様へも、ありがとう。)
と、心の中で伝えた。

(おやすいご用さ。安心して行ってきな。)

キツネに見送られながら、了二と猫は社務所へ向かった。
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