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九.

神様へ、お願い!

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翌日。

了二はまた猫と、ブランド品買取り店で受け取った9,220円が入った財布をショルダーに入れ、
当面の食品を買いに出かけた。

派遣社員として働いていた時は、出社の時間は早く、退社の時間は遅いので、アパートや職場の近くのコンビニで買い物するしかなかったが、今は持っているお金で少しでも安く、たくさん買いたい。そこで了二は、アパートから少し遠いけれど、これまで行く機会がなかった「毎日お買い得!スーパーフジムラ」まで歩いて行くことにした。

今日は雨こそ降ってないが、どんよりと重苦しい雲がたれこめている天気だ。歩き始めは寒かったが、1kmほども歩くと、体がぽかぽかしてきた。「スーパーフジムラ」まであと2kmほどだ。

(最近、野菜不足になっているから、キャベツは買おう。米も5kg買っておこう。食パンも買って冷凍しておこう。即席コーンスープも欲しいし、安ければくだものも…)

歩きながら、買いたいものをいろいろ考える。
初めて歩く道の、初めて見る景色のなかを通り過ぎてゆく。

(んっ…?)

了二はふと、その前を通り過ぎてから、何か街なかにあるには似つかわしくないものの前を通ったことに気がついた。

回れ右をして、その前まで戻ってみた。

民家と民家にはさまれて、2メートルほどの間があり、そこに、小さいけれども立派な、朱色の鳥居が立っていた。

(こんなところに神社があったんだ…)

鳥居から10メートルほど奥に、鳥居と同じく朱色の、こじんまりとした社(やしろ)が鎮座している。

了二はせっかくだから神だのみもしようかと思い、猫に、

(この神社で開運のお願いをしていいかな?)
と聞くと、猫は、

(ええよ、ええよ。わしら招き猫と神様は仲がいいニャ。ぜひお願いしときニャ。)
と、猫もすすめてくれる。了二は鳥居をくぐって社の前まで行き、ショルダーから財布を出し、

(今はこれだけしかお賽銭が出せないけど、猫の分と俺の分。)

と思いながら、20円を賽銭箱に入れた。

柏手(かしわで)を打ち、手を合わせて目を閉じ、心の中で祈る。

(この先の仕事運と金運が上がりますように!)

祈りを終え、了二が目を開いた時、少し不思議なことが起こっていた。

重くたれこめていた雲が、社の上あたりから、わずかに割れて、了二の視線の先へ向かって青空がまっすぐな小道のように続いていた。

(これは吉兆かも!)
了二はうれしく感じた。

参拝を終え、道路に出て、また「スーパーフジムラ」へ向かって歩き始めた時、猫が言った。

(了二さん、あの神社、ちょっとおもろい神社ニャン。次の記事のネタになるかもよ。)

(えっ、そうなん?どこが面白いの?)

(それを取材するのが了二さんの仕事ニャン。猫はヒントをあげるだけニャ。)

(そっかあ。まあそうだよね。記事を頼まれているのは俺だからね。でも今回もヒントをありがとう。買物が終わったら、また来ることにするよ。)

猫と話しながら歩いて行くと、遠くに「スーパーフジムラ」の看板が見えてきた。了二にとっては、コンビニ以外の店での買物は久し振りだ。
会社に行かなくなると、それまでとは違う経験をするようになって、これはこれで新しい、ちょっとワクワクする体験だな、と思いながら、店内に入った了二だった。

両手に提げたマイバックがパンパンになるほど食品を買い込み、またあの神社の前を通ってアパートに帰った。

(神様、また来ます。)
と思いながら。
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