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五.

猫の教え、人は何に価値を見る?

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「ブランド品買取り店」を出た了二は、店で体験したさまざまなことで心がぐるぐるしていて、気持ちを静めるために、散歩がてら遠回りしてアパートに帰ることにした。

商店街から離れると、中古自動車販売店や町工場、運送会社などが並ぶエリアになる。

さらにそこからも離れ、50メートルほどの川幅がある、すこし大きな川の川土手に出た。

小春日和で空は青く、川の水はキラキラ光りながら流れている。了二はこの川土手の道を歩くのが好きだった。

やっと気持ちが落ちついて、猫に話しかけることができた。

(猫は、あの腕時計が偽ブランド品だということを知っていたのかい?)

猫が答えた。
(それは知らんかったニャ。招き猫やっとっても、なんでもかんでも知ってるわけじゃないニャ。)

(それならなんで、あの「ブランド品買取り店」に行くように、指定したの?この辺りには同じような店は外にもあるじゃない?)

(それはなあ、あの店の鑑定士さんは勉強熱心で、ものすご詳しいし、それに、お客さんの立場を考えて、できる限りは買い取ってあげようとしてくれる人だと、「招き猫協同組合」の会合で教えてもらったことがあるからニャン。)

(え?「招き猫協同組合」?そんな組織あるの?)

(そやで。わしらも情報交換しながら、日々研さんしてるニャン。)

(は~。俺にはわからん世界がいっぱいあるんだなあ。)


了二はぶらぶらと、川土手の道を歩きながら、社会や世界の広さ、深さに思いをはせた。


小学校低学年くらいの女の子が2人、了二のうしろからキャッキャと言いながら走ってきて、
のんびり歩いている了二を追い越し、川土手の道を追いかけっこしながら駆けてゆく。


猫が突然、質問してきた。
(せや。了二さんにはわかるかな?なんであんなにわずかな量の金属が、9,220円にもなるのかということが?)

(えっ?それは…あれが金(きん)だったからじゃないの?)

(それだけでは答えになってないニャ。金(きん)より人間の生活に役立っている金属は、いろいろあるやろ?鉄とか銅とかアルミとか。あれらの値段は安いのに、なんで金(きん)は別格で高いんニャ?)

(あらためて、そう言われると、よくわからなくなるな…)

(しゃーない、答えを言おか。金(きん)は地球上でわずかしか取れないからやニャン。役に立つものよりも、希少なものに人間は価値を見いだすニャン。)

(希少なものに人間は価値を見いだす…)
了二は心のなかで繰り返した。

(そうや。このことは、お金(カネ)に困らん人生にするために、押さえとかにゃいけん必須のことニャン。ほら、あの女の子達を見てみ。小さい子どもでも、希少なものには価値があることを理解してるニャン。)

了二はさきほど自分を追い越していった女の子2人が、川土手の草むらにしゃがんで、何かを探しているようすなのを見た。

ひとりが言う「みつかった?」
もうひとりが答える「まだ、みつかんな~い。」

2人は草むらの中を、少しずつ移動しながら手で草をかき分けてしきりに探していたが、やがて、ひとりが

「あったあ~!」

と大きな、うれしそうな声と同時に、小さな手に握ったものをもうひとりのほうに差し出して見せた。

その手には、クローバーのなかでは希少な、四つ葉のクローバーがしっかりと握られていた。
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