200の❤️がついた面白さ!わらしべ招き猫∼お金に愛される道しるべ(完結)

むめ

文字の大きさ
上 下
4 / 34
四.

意外なところに価値はあり

しおりを挟む
了二は自分のアパートの部屋に帰ってきた。

(ふう、今日は午前中の短い時間のうちに、いろんなことがあったなあ…)

と思いながら、ローテーブルのそばに座り、まずショルダーから「招き猫」を出して、テーブルの上にそっと置いた。

時間をかけてよくよく見る。見れば見るほどかわいらしい猫だ。首に金色の鈴をつけ、お腹に小判を抱えている。

次に例の超有名ブランド腕時計を出して、猫のかたわらに置いた。

それからハンバーグ弁当を取り出すと、親切に割り箸も付けてくれていたので、箸を割ってお弁当を食べ始めた。

(うま…)

なかなかボリュームのあるハンバーグが入っていて、至福のひとときを味わった。

お腹が満たされると、次のことを考えようという思考になってくる。

「なあ、猫よ。このブランド腕時計をどうするのがいちばんいいかなあ?」

他人のいない一人部屋の中なので、了二は声を出して猫に尋ねた。

猫はすぐに返事をした。

(錦町(にしきまち)の商店街のアーケードに入る手前に、「ブランド品買取ります」ゆう、のぼり旗を出してる店を知ってるかニャ?)

「ああ、知ってる。前を通ったことなら何度もある。」

(あの店に、時計に詳しい鑑定士がいるから、明日行って見てもらうといいニャ。)

了二は高級ブランド品とは関わりのない生活をしてきたこともあって、鑑定と聞き、胸がドキドキしてきた。

「この高級ブランド腕時計なら中古でも数十万円もすると噂には聞くけど、そんなに価値あるのか?」

猫は含みを持たせるように、
(それは鑑定してもらってからの、お楽しみニャン。)
と言い、それ以上は何も教えてくれなかった。

了二はその夜、ドキドキワクワク、明日を楽しみにしながら眠りについた。





 
~~~






「よくできた、偽ブランド商品、いわゆるコピー商品ですね。」

黒縁眼鏡の鑑定士が、ルーぺから顔を上げ、了二の目を見て言った。

「ええっ!!!」

こういう展開になるとは、1mmも予想していなかった了二は、おもわず大きな声を出してしまった。

ここは、きのう、「招き猫」に指定されて訪ねて来たブランド品買取り店。

(おい、猫、これはどういうことだよ!!)

了二はショルダーの布の上から、猫が入っているあたりを手のひらでポンポンたたいたが、猫はだんまりを決め込んでいる。

そんな了二の様子はおかまいなしに、鑑定士が淡々と尋ねた。

「この腕時計、どこで手に入れられました?」

「昨日、駅のホームで偶然出会ったご老人に、親切にしてあげたら、お礼だと言って僕にくれたんです。東京で時計店をやっていたけど、廃業したからあげますと言われて。」

了二は昨日のことを、かいつまんで伝えた。

鑑定士は表情を変えることなく了二の顔を見ながら聞いていたが、やがて言った。

「まあ、あなたのおっしゃることを信じましょう。御存知のこととは思いますが、偽ブランド商品を売買したら、刑事罰になりますからね。うちで真贋(しんがん)がついて、良かった。」

(えぇぇぇ!もしかしたら俺、逮捕されることになるかもしれなかったのかよ!あのじいさん、上品そうにして何者だったのかよ!じいさんの時計店て、偽物の時計店だったのかよ!それともじいさん当人も、騙されていたのか?)

了二は混乱して、心の中で、じいさんに悪態をついた。頭も心もムカムカしてきた。

しかし、鑑定士が「ん?」とつぶやいて、何かに気づき、ふたたびルーぺをのぞき始めたことから、了二の関心も鑑定士の様子に、ふたたび惹き付けられた。

鑑定士はルーぺを時計に近づけたり離したり、上から見たり、側面から見たりしていたが、
「ちょっと気になるところがあるので、奥の機械で確認してきます。」
と言い、席を立って、ついたての向こうへ姿を消した。

了二は「偽ブランド品」を換金しようとした人物がいる、と警察に通報されるのでは?と気が気でなかったが、今、店を出ると、逃げたと思われますます疑われてしまうと思い、店内の椅子に座って待った。

長い時間が流れたように感じたが、本当は3~4分だったのかもしれない。

鑑定士が戻ってくると、また、思いもよらないことを話しだした。

「この偽ブランド時計は、偽物としては出来のよいものでしてね。出来のよい偽物というのも変な言い方ですが。で、本物らしく見せるために、この文字盤を囲むフレームのみには本物の金(きん)が使ってあります。」

「はい…」

了二は鑑定士が何を言わんとしているのかわからなかったが、とりあえずうなずいた。

「それで、この腕時計を時計としてうちで買い取ることはできませんが、フレームの部分だけはずして、金(きん)として買い取ることはできます。どうなさいますか?」

了二はこれまた予想外の提案に驚いたが、少しでも現金になればありがたいことだ。すぐさま、

「そうしてください。」

と申し出た。

「わかりました。では、フレームをはずして重さを量りますね。」

鑑定士は小さな工具を取り出すと、器用にフレームの部分をはずし、卓上のデジタル式のはかりにのせて重さを量った。それから電卓を取り出し、パンパン音をたてながら電卓を打った。

「買取り価格はこちらになりますが、よろしいですか?」
鑑定士は電卓を了二に見せながら言った。

電卓のデジタル表示の数字は…

[9220]

了二はまたまた驚いた。

「あんなに細いフレームの部分だけで、それほどの価格になるんですか?」

「ええ。今日は金の相場が高くて、良かったですね。」
鑑定士はにっこりわらって答えた。


こうして、了二のカラ財布に、9,220円が収まることになったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

魔王様は退屈過ぎて勇者へと転職する

れのひと
ファンタジー
後先考えず転職をしてしまった元魔王様とそれに付き合わされ魔王となってしまった元側近が、元の職業を取り戻すためにレベル上げの旅をするお話です。はたして二人は魔王城へと帰ることが出来るのでしょうか…

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにて先行更新中

処理中です...