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第五話(10)
舞い上がれ!龍も人も!
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「2024年7月16日
全日本ひきこもり当事者の会
会長 中光 正希 様
詳しいメールをいただき、誠にありがとうございました。
私達、精神科医や精神医療に携わる者が、全く気づかぬうちに、あなたがたが精神世界で、龍を治療する、という偉大な仕事を成し遂げておられたこと、たいへん驚きましたし、また、とても感動いたしました。
また、あなたがたの仕事を、じかに目撃させていただける証人に、私を選んでくださったことを、光栄に感じています。
集合的無意識の中の、龍がいる場所に行くのに、案内をしていただかなければなりませんが、顕在意識の世界で待ち合わせをするのに、せっかくですから、龍にご縁のある場所から出発したいのですが、私に付き合っていただけますか?
六本木に「六本木 天祖神社 龍土神明宮」という 神社があります。品川沖から毎夜、龍が御灯明を献じていたと言われている神社です。
こちらの鳥居のそばで、21日に待っていますから、迎えに来ていただけますか?
よろしく願います。
精神科医 鈴木 恵 」
「2024年7月16日
精神科医 鈴木 恵 先生へ
六本木 の 天祖神社 龍土神明宮 ですね。
承知いたしました。
当日、私は意識体でお会いし、そのまま先生の意識体を集合的無意識にお連れします。
先生の容姿は、記憶しているつもりですが、万一人違いをしてはいけないので、白衣を着ておいていただけますか?
それでは、7月21日(日)、午前8時30分に神社にうかがいます。
たいへん嬉しいです。お会いできることを楽しみにしています。
全日本ひきこもり当事者の会
会長 中光 正希 」
7月21日、朝、鈴木医師は地下鉄と徒歩で
「六本木 天祖神社 龍土神明宮」へ向かった。
石の鳥居をくぐって境内に入り、参拝をする。お賽銭として500円硬貨を入れ、柏手を打ち、両手を合わせながら、
(本日、龍が無事、集合的無意識から舞い上がることが出来て、関係してきたすべての人々の喜びとなりますように、お願い申し上げます。)
と心の内で祈った。
鳥居まで引き返して、腕時計を見ると、8時15分頃になっている。鈴木医師は持参した白衣を取り出して、Tシャツの上からはおった。病院以外の場所で、白衣を着るのは、少し気恥ずかしいが、幸い日曜日の朝、神社周辺の人通りは少ない。
8時30分きっかりに、鈴木医師が立っている鳥居のそばから5,6メートル離れた場所に、突然、ひとりの男性の姿が立ち現れた。
体の輪郭と風景との間に、微妙なズレがあることから、意識体であることがわかる。
Tシャツにジーパン姿で、四十才前後に見える、その男性は、鈴木医師のほうへ歩いて来ると、
「私が中光です。今日は来ていただき、ありがとうございます。」
と、言いながら、右手を差し出した。
鈴木医師が、
「鈴木です。」
と言い、右手を出すと同時に、右手をぐっとつかまれて、下へ引っ張られた。
その瞬間、ふたりはもう、薄暗闇の集合的無意識のなかにいた!
「はっ、はやいですね、移動が。」
鈴木医師が思わず言うと、中光氏は、
「十年以上も、こうしたことをやってますから。」
と、少しはにかんだ笑顔で答えた。
鈴木医師と中光氏のそばに、2人の男性が近づいて来た。
うつむきかげんのひとりは、
「私が長谷川です。」
と名乗り、
鈴木医師の目をまっすぐに見るひとりは、
「私が関屋です。」
と名乗った。
中光氏が、
「鈴木先生、この場所は、龍の全身が見渡せる場所です。」
と、言いながら、したを指差した。
足元の下、とても遠い暗闇のなかに、明かりがポツポツと灯った、横に長い物体がある。明かりは、だいだい色、桃色、緑色、黄緑色、白色とさまざまな色が光っていて、とてもきれいだ。
「あの明かりは、最終点検をしている者の手のひらの明かりです。」
長谷川氏から説明があった。
鈴木医師は言った。
「ここから明かりの広がり具合を見ると、日本列島の形に似ていますね。」
「そうなんです。龍が日本列島に似たのか、日本列島が龍に似たのか、今度、龍さんに聞いてみます。」
関屋氏が言った。
「お~い、そろそろ時間だ。みんな上がって来~い。」
長谷川氏が指示を出した。
明かりが次々と消えて、おおぜいの人々が上昇してくる気配と共に、周囲からもわんさかわんさか人々が集まって来て、やがて龍のいる底を見下ろすように、円状の人垣を作り、ちょうど、スタジアムの観客席のような大きさと形になった。
龍を見下ろすと、ところどころがキラッ、キラッと輝きながら、動いている。
そして、ついに姿を現した!
巨大な頭が水面から上がるように、出てきた。
まずは、巨大な二本の、ふたまたに分かれたつのが。
その下に、大きく丸く透きとおって、ギラギラ輝くふたつの目。
長い顔と顔から生えて、流れるようにたなびく一対のひげ。
龍が口を開いて、鋭い歯を見せた時、
(ヴオォォォォォォオー!!)
という龍の吠え声を、その場の全員が聞いた。
頭に続いて、キラキラと虹色の鱗に覆われた、太い胴体が持ち上がる。
そして鋭い爪のついた、両前足が現れ、胴体が垂直に立ち上がると、人々が見守るほうへ、ゴォーッと上昇を始めた!
龍の頭部が目の前を上る時、ものすごい風圧に、鈴木医師の白衣は、旗のように翻り、みんなの服や髪も、風にみだれた。
頭部に続いた長い胴体が、みんなの前を、まだ通り過ぎている間に、龍の頭部は、集合的無意識の世界の天井に、すでに達しようといていた。
鈴木医師は、周囲の人達に言った。
「私達も、龍に続いて上昇しよう!」
その掛け声と同時に、鈴木医師から周囲の人々へ、手と手がつながれ、龍を追ってすごい速さで、みんなの上昇も始まった!
龍の頭部は、すでに潜在意識の世界を抜け、顕在意識へ出るところだった。
関屋氏が言った。
「龍が顕在意識に出てゆくから、これからの日本は勢いのある国になるでしょうね。」
中光氏が鈴木医師に尋ねた。
「鈴木先生は、日本がどんな国になってほしいと思われますか?」
鈴木医師は答えた。
「私は、ひとりひとりの人が、ひとりひとりの幸せを、見つけられる国になってほしいと思う。」
長谷川氏が同意した。
「本当に、そうですね。」
龍の頭が顕在意識に出て、そこから、太陽のまぶしい光が、人々の大きな輪に降り注いだ。
ひとりひとりの顔が照らしだされ、その顔は、一人残らず、よろこびと満足の表情で輝いていたーー
(了)
全日本ひきこもり当事者の会
会長 中光 正希 様
詳しいメールをいただき、誠にありがとうございました。
私達、精神科医や精神医療に携わる者が、全く気づかぬうちに、あなたがたが精神世界で、龍を治療する、という偉大な仕事を成し遂げておられたこと、たいへん驚きましたし、また、とても感動いたしました。
また、あなたがたの仕事を、じかに目撃させていただける証人に、私を選んでくださったことを、光栄に感じています。
集合的無意識の中の、龍がいる場所に行くのに、案内をしていただかなければなりませんが、顕在意識の世界で待ち合わせをするのに、せっかくですから、龍にご縁のある場所から出発したいのですが、私に付き合っていただけますか?
六本木に「六本木 天祖神社 龍土神明宮」という 神社があります。品川沖から毎夜、龍が御灯明を献じていたと言われている神社です。
こちらの鳥居のそばで、21日に待っていますから、迎えに来ていただけますか?
よろしく願います。
精神科医 鈴木 恵 」
「2024年7月16日
精神科医 鈴木 恵 先生へ
六本木 の 天祖神社 龍土神明宮 ですね。
承知いたしました。
当日、私は意識体でお会いし、そのまま先生の意識体を集合的無意識にお連れします。
先生の容姿は、記憶しているつもりですが、万一人違いをしてはいけないので、白衣を着ておいていただけますか?
それでは、7月21日(日)、午前8時30分に神社にうかがいます。
たいへん嬉しいです。お会いできることを楽しみにしています。
全日本ひきこもり当事者の会
会長 中光 正希 」
7月21日、朝、鈴木医師は地下鉄と徒歩で
「六本木 天祖神社 龍土神明宮」へ向かった。
石の鳥居をくぐって境内に入り、参拝をする。お賽銭として500円硬貨を入れ、柏手を打ち、両手を合わせながら、
(本日、龍が無事、集合的無意識から舞い上がることが出来て、関係してきたすべての人々の喜びとなりますように、お願い申し上げます。)
と心の内で祈った。
鳥居まで引き返して、腕時計を見ると、8時15分頃になっている。鈴木医師は持参した白衣を取り出して、Tシャツの上からはおった。病院以外の場所で、白衣を着るのは、少し気恥ずかしいが、幸い日曜日の朝、神社周辺の人通りは少ない。
8時30分きっかりに、鈴木医師が立っている鳥居のそばから5,6メートル離れた場所に、突然、ひとりの男性の姿が立ち現れた。
体の輪郭と風景との間に、微妙なズレがあることから、意識体であることがわかる。
Tシャツにジーパン姿で、四十才前後に見える、その男性は、鈴木医師のほうへ歩いて来ると、
「私が中光です。今日は来ていただき、ありがとうございます。」
と、言いながら、右手を差し出した。
鈴木医師が、
「鈴木です。」
と言い、右手を出すと同時に、右手をぐっとつかまれて、下へ引っ張られた。
その瞬間、ふたりはもう、薄暗闇の集合的無意識のなかにいた!
「はっ、はやいですね、移動が。」
鈴木医師が思わず言うと、中光氏は、
「十年以上も、こうしたことをやってますから。」
と、少しはにかんだ笑顔で答えた。
鈴木医師と中光氏のそばに、2人の男性が近づいて来た。
うつむきかげんのひとりは、
「私が長谷川です。」
と名乗り、
鈴木医師の目をまっすぐに見るひとりは、
「私が関屋です。」
と名乗った。
中光氏が、
「鈴木先生、この場所は、龍の全身が見渡せる場所です。」
と、言いながら、したを指差した。
足元の下、とても遠い暗闇のなかに、明かりがポツポツと灯った、横に長い物体がある。明かりは、だいだい色、桃色、緑色、黄緑色、白色とさまざまな色が光っていて、とてもきれいだ。
「あの明かりは、最終点検をしている者の手のひらの明かりです。」
長谷川氏から説明があった。
鈴木医師は言った。
「ここから明かりの広がり具合を見ると、日本列島の形に似ていますね。」
「そうなんです。龍が日本列島に似たのか、日本列島が龍に似たのか、今度、龍さんに聞いてみます。」
関屋氏が言った。
「お~い、そろそろ時間だ。みんな上がって来~い。」
長谷川氏が指示を出した。
明かりが次々と消えて、おおぜいの人々が上昇してくる気配と共に、周囲からもわんさかわんさか人々が集まって来て、やがて龍のいる底を見下ろすように、円状の人垣を作り、ちょうど、スタジアムの観客席のような大きさと形になった。
龍を見下ろすと、ところどころがキラッ、キラッと輝きながら、動いている。
そして、ついに姿を現した!
巨大な頭が水面から上がるように、出てきた。
まずは、巨大な二本の、ふたまたに分かれたつのが。
その下に、大きく丸く透きとおって、ギラギラ輝くふたつの目。
長い顔と顔から生えて、流れるようにたなびく一対のひげ。
龍が口を開いて、鋭い歯を見せた時、
(ヴオォォォォォォオー!!)
という龍の吠え声を、その場の全員が聞いた。
頭に続いて、キラキラと虹色の鱗に覆われた、太い胴体が持ち上がる。
そして鋭い爪のついた、両前足が現れ、胴体が垂直に立ち上がると、人々が見守るほうへ、ゴォーッと上昇を始めた!
龍の頭部が目の前を上る時、ものすごい風圧に、鈴木医師の白衣は、旗のように翻り、みんなの服や髪も、風にみだれた。
頭部に続いた長い胴体が、みんなの前を、まだ通り過ぎている間に、龍の頭部は、集合的無意識の世界の天井に、すでに達しようといていた。
鈴木医師は、周囲の人達に言った。
「私達も、龍に続いて上昇しよう!」
その掛け声と同時に、鈴木医師から周囲の人々へ、手と手がつながれ、龍を追ってすごい速さで、みんなの上昇も始まった!
龍の頭部は、すでに潜在意識の世界を抜け、顕在意識へ出るところだった。
関屋氏が言った。
「龍が顕在意識に出てゆくから、これからの日本は勢いのある国になるでしょうね。」
中光氏が鈴木医師に尋ねた。
「鈴木先生は、日本がどんな国になってほしいと思われますか?」
鈴木医師は答えた。
「私は、ひとりひとりの人が、ひとりひとりの幸せを、見つけられる国になってほしいと思う。」
長谷川氏が同意した。
「本当に、そうですね。」
龍の頭が顕在意識に出て、そこから、太陽のまぶしい光が、人々の大きな輪に降り注いだ。
ひとりひとりの顔が照らしだされ、その顔は、一人残らず、よろこびと満足の表情で輝いていたーー
(了)
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