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第十六話

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 どれほどの時間、キスをし続けていただろうか。
 かなり長い間キスをしていたように思う。
 円香の息が荒れているのが証拠だ。涙目で相宮を見つめる。
 その度に胸がキュンと鳴いて、何度か瞬きをすると涙が零れてしまいそうだ。
 それに気が付いた相宮は、円香の目元に舌を伸ばして涙を拭き取る。
「円香はどんな表情でも綺麗ですね」
「うぅ……相宮さんには負けますけど」
 そうでしょうか、と小首を傾げる相宮だが、その仕草、声、すべてにおいて色気がダダ漏れだ。
 ただ、そこにいるだけで大人な雰囲気を醸し出している。なんだか狡い。
 円香は常に相宮のことをそう分析してきた。
 だが、こうして今まで見たことがない相宮を前にして思うことは、やっぱり相宮は女性の心を鷲づかみにしてしまう何かを持っているということだ。
 不公平だと円香は思う。
 大人で余裕たっぷりの相宮。彼の手のひらで転がされている気がしてならない。
 だけど……相宮にならいい。手のひらで転がされて遊ばれても、それでもいい。
 そんなふうに考えてしまう辺り、円香は相当相宮のことが好きなのかもしれない。
 危険だと思う。だけど、彼から目が離すことなどできないだろう。
 円香は今後相宮にもっと惹かれていくことを覚悟しながら、相宮に手を伸ばした。
 まずは綺麗な指に触れる。いつも触れられている立場の円香からすると、逆転したようになぜか強気になる。
 相宮が円香に触れるように、ゆっくりと触れていく。
 男性の色気を感じる指先に、円香は夢中になった。
 指を絡ませ、相宮の体温を味わっていると、急転ーーー 円香の視界には覆い被さる相宮の顔と天井が見えた。
 ハッとして相宮の目を見つめると、どこか楽しそうに見える。
 円香の背に冷や汗が流れた。
「だいぶ年上の私に、こんなふうに挑発してくるなんて悪い子ですね」
「ちょ、挑発だなんて!」
 先ほど円香が相宮にしていたように、今度は相宮が円香の指に触れて厭らしい手つきで愛撫していく。
 時折相宮の口元に円香の手を持っていき、チュッとリップノイズをするのも忘れない。
「私を誘惑して、どうしたいんですか?」
 していないです、と首を大きく横に振った円香だが、相宮の意味深な笑みは消えることがない。
「貴女より年上だから、余裕があるところを見せたかったのですが……無理そうですね」
「いや、えっと……その」
 いつもの相宮とは違う妖しげな雰囲気に呑まれ、円香は慌てふためいた。
 逃げようとする円香をグッとベッドに押しつけ、相宮は目を細める。
「逃がしませんよ、円香」
「っ!」
「私から逃げることは……許されませんから」
「えっと、その」
「そして、もう私は我慢しない」
 円香は声が出なかった。相宮があまりに真剣にそう呟くからだ。
 目を大きく見開き、相宮の言葉に衝撃を受ける。
「すごく驚いた顔していますね」
「だって、驚きます。我慢……していました?」
 ずっと指に触れていたじゃないですか。円香がそう反論したが、相宮は涼しい顔をして言う。
「指だけ、でしょう?」
「え?」
「私は指だけじゃ物足りなかった」
「相宮さん」
 声が震える。相宮の貪欲なまでに円香を請う気持ちは、その瞳に表れている。
 何か言いたいのに、何を言ったらいいのかわからない。
 円香は、ただ自分を見下ろす相宮を見つめるしかできなかった。
「貴女のすべてに触れたい」
 円香の手を恭しく取り、相宮は手の甲にチュッと唇を寄せた。
 円香、と小さく囁いたあと、相宮は服を脱ぎ捨てていく。
 早急さは感じられない。そういうところが大人の余裕だということなのだろうか。
 円香としては、あまり余裕を見せつけられて面白くない。
 ツンとそっぽを向く円香の行動を見て、相宮はクスクスといたく楽しげに笑う。
「何を拗ねてしまったのかな? 円香は」
「べ、別に。何でもないです」
「ん、その言い方も可愛いね。円香がどんどん私に素を見せてくれて嬉しいよ」
「っ!」
 今までにない饒舌な相宮に、思わず視線を戻してしまう。
 目の前に引き締まった身体が見えた。時折ジムへ汗を流しに行くとは聞いたことがあるが、綺麗な裸身だ。
 男性相手に綺麗なんて言葉は合わないかもしれないが、その言葉が一番しっくりくる。
 相宮の裸身から目が離せずにいると、相宮が円香のブラウスのボタンに手をかけた。
「そんなにボッーとして無防備にしていると、悪い大人が君を食べてしまいますよ?」
「悪い大人って、相宮さんのことですか?」
「そうですよ。他の男になんて触らせて堪るものか」
 手早くブラウスのボタンを外したあと、相宮の腕が円香の背に当たる。
 そのまま起こされると、ブラウスを脱がし、スリップとブラジャーも取り外していく。
 あっという間に裸になった円香だが、身体を隠すことはできない。
 すぐさま相宮が密着し、激しいキスをし始めたからだ。
 先ほどはゆっくりで丁寧なキスだった。だけど、今のキスはとても早急に感じる。
 戸惑う円香に相宮はキスの合間に囁く。
「私のどこに余裕があると思ったんですか?」
「っふぁ……ぅあ……んん!」
「あるわけがないでしょう。こんなにも貴女に触れることを我慢していたのに」
 円香の唇を貪ったあと、相宮の唇は耳に移る。
 耳の縁を舌で辿り、耳たぶを甘噛みした。その少しだけチクリとする痛みまでもが、今の円香にとっては快感に変わっていく。
 ひっきりなしに甘い鳴き声が出てしまい、慌てて円香は自分の手の甲で口を押させた。
 だが、すぐに相宮によって手を外されてしまう。
「っやぁ……」
「いやじゃないでしょう、円香。ダメですよ?」
「だ、だって……声が出て、恥ずかしい」
 視線をフイッと相宮から逸らすと、相宮はそれさえも可愛いと言って頬にキスをしてくる。
 円香の両手首を頭の上に持って行き、相宮は片手で押さえた。
「大好きな円香の指ですが、今は少しだけどいていてもらいましょう」
「ど、どうして?」
 羞恥で頬を赤らめた円香に対し、相宮は人畜無害のような清らかな笑みを浮かべる。
 しかし、内容は全然無害ではない。
「円香の可愛い鳴き声が聞こえなくなってしまうし、何よりこのプルンとして柔らかな円香の唇にキスができなくなるでしょう」
「なっ……」
 そんなのはイヤですからね、とあたかも正論を言っているといった様子の相宮に呆れかえってしまう。
「ほら、こうしてね」
「ふぅんんん!」
 急にキスを仕掛けてきて、尚深く深く奥を貪るように求めてくる。
 舌と舌を絡ませ、耳を覆いたいほど恥ずかしい唾液の音が響く。
 それは円香と相宮の行為から出た音だと気付いたとき、どうにもならないほど恥ずかしくなった。
 キスで翻弄され続けていた円香だったが、相宮の手が違う場所を愛撫し始めたことにより腰が淫らに震えてしまう。
 相宮の手は胸にたどり着き、両胸を寄せるように手でもみ上げる。
 胸の柔らかさを堪能するかのような動きに、円香の身体に快楽が走った。
 円香が感じている様子を見ながら、相宮の指はもっと淫らに乱れていく。
 触れてもいないのに、すでにツンと上を向いて固くなった頂に相宮の長くて綺麗な指が触れた。
 それだけでも気持ちがいいのに、そこをこねくり回すようにして愛撫していく。
 ハァハァと荒い呼吸をしながら円香は涙目で相宮を見上げる。
 すると、相宮は口角をクイッと上げたあと、もっと円香に近づいた。
 鎖骨辺りに相宮の髪が触れた。そう思った瞬間、下腹部が淫らに痺れる。
 相宮の舌が、頂に触れたからだ。
「あああっ!!」
「フッ。可愛いね、円香」
「ぃああ、そこ」
「ん? 気持ちがいいかな?」
 そうじゃない。感じすぎてどうにかなりそうだ。
 円香が小さく首を横に振ったが、相宮の愛撫の手は緩まない。
 きっと円香が感じてどうにかなってしまいそうだという訴えはわかっているはずだ。
 それでも尚、相宮は円香を翻弄したくて仕方がないのだろう。
 チュッと頂を唇に挟んで吸い上げる。口に含んだ頂を、今度は舌を使って転がす。
 時折、頂に歯を当てられ、円香は何度も達しそうになる。
「っやあ……だ、ダメ。ダメですっ」
「ダメじゃないよ。もっと感じなさい、円香」
 命令口調になった相宮の声に、円香は再び反応してしまう。
 唇と舌で胸の頂を愛撫されつつ、相宮の手は脇腹を通り、ショーツに手をかけた。
 円香は腰を動かして抵抗したが、ものもともせずに相宮はショーツを脱がしていく。
「そんなに恥ずかしがって嫌がると……知りませんよ」
「っ!」
 その声は腰に響く。円香は淫ら過ぎる声の威力にひれ伏したい気持ちだ。
 ショーツを脱ぎ捨てられ、どこかに投げられた。
 それを目で追っていると、相宮の手によって大きく膝を割られた。
 驚いた円香はなんとか足を閉じようとするのだが、ガッシリと相宮に膝を抱えられ、その上相宮の身体が円香の足の間に入り込んできたので動かすことは不可能だ。
 大きく開かれた足。その状況を見て、円香は恥ずかしくて何度も首を振った。


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