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1巻

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   2


「若女将! お電話が入っていますよ」
「ありがとう、良子さん。どなたから?」
「若女将が以前勤めていた、東京の会社の同期だとおっしゃる方からで……」
「っ!」

 言葉をなくす私に、良子さんは笑顔で電話の子機を渡してきた。

「片付けは済みましたし、ここも大丈夫ですから。若女将はもう上がってください」
「で、でも……」

 良子さんの言う通り、客室から夕食のおぜんはすべて下げ、お布団も敷き終わっていた。
 後は諸々もろもろの片付けがあるぐらいなので、時間に余裕はある。
 だが、その電話にはあまり出たくないので、できれば仕事が忙しいと言って切ってしまいたかった。
 けれど、そんなことを知らない良子さんは私に気を遣ってくれているようで、ニコニコとほほ笑みかけてくる。

「久しぶりなんでしょう? 積もる話もあるでしょうし、ゆっくり話してきたらどうかしら」
「そ、そうですね……」

 確かに積もる話はある。でもその大半は、私が謝罪しなければならない案件ばかりなのだ。
 頬を引きらせている私の背中を押してくる良子さんに、私はついに厨房ちゅうぼうから追い出されてしまう。

「ほら、ここはもういいですから。お疲れ様でした、若女将」
「お、お疲れ様です。ありがとうございます」

 お礼を言うと、良子さんは小さくうなずいて厨房ちゅうぼうに戻ってしまった。
 誰もいない静かな廊下で、私は恐る恐る保留を解除して子機を耳に当てる。
「もしもし」と電話に出ると、懐かしい人の声がした。だが、恐ろしいほど低い声だ。

『あ~ら、若女将。ずっとそんなところに隠れていたの?』
文恵ふみえ……よね?」
『そうよ、文恵さんよ。貴女が以前勤めていた会社の、同期だった文恵さん!』

 怒り心頭といった様子の文恵に、私の口元がヒクつく。
 電話のぬしは、会社の同期、秋野あきの文恵だった。
 同期の中で一番仲良くしていた彼女にも、私は何も言わずに行方をくらましたのだ。彼女の声に怒りが含まれているのも当然である。
 申し訳なさに言葉を詰まらせていると、文恵は盛大なため息をついてからつぶやいた。

『元気そうね』
「うん……文恵は、元気だった?」
『ええ、元気よ』
「良かった」

 ホッと胸をで下ろしたそこで、一つの疑問がき上がってきた。
 ――どうして彼女は、私に電話をかけてこられたのか、ということだ。
 私が退職したのは一年前。それも直属の上司にしか事情を告げず、逃げるように会社を去った。
 仲良くしていた同期たちにとっては、まさに寝耳に水の状態だったと思う。
 彼らは、私が会社を辞めた理由も、私がどこへ行ったのかも知らない。
 実家に戻ることくらいは考えたかもしれないが、私の実家が旅館をいとなんでいることは彼らにも話していなかった。
 それなのに、なぜ……?
 私は、文恵に疑問をぶつけてみることにした。

「ねぇ、文恵。どうして私が実家にいることがわかったの? それに私、実家が旅館だって、誰にも話していなかったよね?」
『まぁ、そうね』
「それなのに、どうやって……あ!」

 一つだけ方法がある。というか、それしかない。
 確信を持った私に、文恵は不気味な声で笑った。

『フフフ、経営企画部の部長から聞き出したわ』
「やっぱり……」

 誰にも言わない約束だったのに……
 言葉をなくした私に、文恵は今もなお、不気味に笑っている。

『大変だったわよ~。部長ったら、なかなか口を割らないんだもの。あの手この手でねぇ~。ようやく聞き出せたわ、うふふ』

 怖い。怖すぎる……
 同期どころか社員の間でも『姉御あねご』と称されるほどやり手な文恵だ。
 その文恵ににらまれて、部長は震え上がったんじゃないだろうか。
 そう考えると、部長はむしろ被害者だ。
 辞めてからも迷惑をかけてごめんなさい、とここにはいない部長に心の中で謝罪する。
 それにしても、なぜ今文恵は私の居場所を聞き出したのだろうか。
 私が突如として姿を消したのは一年前なのだから、そのときに聞くのが普通だろう。
 あえてこのタイミングで私の居場所を探ることに、何か意味でもあるのだろうか。
 そんな私の疑問に答えるように、文恵はポツリとつぶやいた。

『沙耶。私、結婚するの』
「え! 本当に? おめでとう!!」

 吉報きっぽうに、自分の今の立場も忘れて喜ぶと、電話口の文恵は声色こわいろやわらげた。

『おめでとうって言ってくれるのね』
「当たり前でしょ!? 私たち、友達じゃない」

 興奮のあまり口走った後に、ばつが悪くなった。
 私は、今も文恵のことを友達だと思っている。だけど、彼女の方はどうだろうか。
 もう友達だなんて思っていないかもしれない。
 ズンと落ち込む私に、けれど文恵ははずんだ声で言った。

『ありがとう。私たち、離れていたって友達だよね!』
「文恵……!」

 鼻の奥がツンと痛くなった。
 感動のあまり、嬉し涙がこぼれそうになる。
 鼻をすすろうとした私に、電話口の文恵はポツリとつぶやいた。

『私たちは友達。その認識でいいわよね?』
「う、うん……」

 もちろんだ。文恵さえ許してくれるなら、友達のままでいたい。
 だが、その声がどこか威圧的に感じて、私は目をしばたたかせた。
 電話口の向こうにいる文恵の姿を見ることはできないが、口角こうかくを意地悪く上げているような……そんな気がする。
 肯定こうていしたことで、何かヤバいことが起きるんじゃないだろうか。
 言葉を詰まらせた私に対し、文恵はクツクツと意味深に笑う。
 その怪しげな声を聞いて、ますます疑惑は深まっていく。

『友達なら、私の結婚を心から祝福してくれるわよね?』
「そ、そりゃあ……もちろん」

 子機を手に、何度もコクコクとうなずく。
 文恵が幸せになるのだ。嬉しいに決まっている。だけど……
 言葉をにごす私に、文恵は命令してきた。

『いいこと、沙耶。私の結婚を祝ってくれる気持ちがあるのなら、次の水曜日に東京へ戻っていらっしゃい』
「えっ!?」
『いつもの居酒屋で、同期皆が私の結婚祝いパーティーを開いてくれる予定なの。もちろん、沙耶も来てくれるわよね?』
「……」
『来なさい。絶対に、来なさいよ!』

 いいえとは言わさないわよ、とおどしてくる文恵に、私は尻込みしてしまう。
 どのつら下げて、今更同期たちの前に出ていけるというのか。
 無理。絶対に無理だ。一人で首を横に振った後、私は逃げの姿勢を見せる。

「えっと……水曜日は、仕事が忙しくて」

 旅館に電話をかけてきたのだし、私が若女将であることを知っているくらいなのだから、その忙しさは文恵にも想像がつくはずだ。
 ということは、仕事を理由に断れば、さすがの姉御あねごも諦めてくれることだろう。

「うちはさ、少人数で回している旅館だから。私がいなくなると、対応できなくなっちゃうんだよね」

 嘘だ。平日の中日なかびは宿泊客も少ないので、私一人抜ける程度、何も問題はない。
 その上、次の水曜日は大浴場のメンテナンスを行うため、もともと旅館は休みの予定だったのだ。
 とにかく、この場では嘘をつき通そう。私はどうしたって文恵や同期たちと顔を合わせることはできないのだから。
 心の中で土下座しつつ、私は電話口にいる文恵に謝罪する。

「ごめんね、文恵」

 行きたいんだけど行けない。そんなニュアンスで断った私に、文恵はフフフとこれまた恐ろしく低い声で笑った。

『大丈夫よ、沙耶』
「え?」
『水曜日はお休みなんだから、来ることができるでしょ?』
「っ!」

 なんでそのことを。口元をヒクつかせていると、文恵はフンと鼻を鳴らす。

『隠そうとしたって無駄よ、無駄』
「な、な、なんのことだか、私にはさっぱり?」

 これはマズイ展開になってきた。今更遅い気もするが、ここはとぼけたふりで押し通すしかない。
 言葉をにごす私に対し、文恵は鬼の首を取ったようにホホホと高笑いをした。

『沙耶のお母さんに、数日前に確認済みだし!』
「は、はぁ!?」

 まさか母も一枚噛んでいたとは思いもよらなかった。
 唖然あぜんとする私に対し、文恵はさらに続ける。

『とにかく。かくれんぼは、もうおしまいよ』
「文恵……」
『あれからもう一年よ。そろそろ皆の前に出てきてもいいでしょ?』
「……」

 何も言えない私を、文恵は口調をやわらげてさとし始めた。

『皆、アンタのことをすごく心配していたのよ。だけど、沙耶には沙耶の事情がある。そう思って、今までソッとしておいたの』
「……」
『私、結婚したら会社を辞めるの』
「会社を!?」
『ええ、そうよ』

 文恵の返事に、私は呆然ぼうぜんとしてしまう。
 バリキャリな彼女は、これからもずっと仕事を続けていくと思っていたからだ。
 言葉をなくした私に、文恵は苦笑をらす。

『彼の転勤が決まっているの。だから、私も彼についていくことにしたわ』
「そう……なんだ」

 同期が、一人、また一人と減っていく。
 私や直のように、彼らにもそれぞれの人生があるのだから、どうしようもないことだとわかっている。だけど、それがなんだかとてもさびしい。
 おまけに会社を辞めるのは、一番仲良しだった文恵だ。
 黙りこくる私に、文恵はカラッとした声で言った。

『だからさ、沙耶。会いに来てよ』
「文恵……」
『皆だって、沙耶に会いたがっているのよ』
「……」
『いつもの居酒屋に夜七時集合よ。待ってるから!』

 それだけ言うと、文恵は私の返事を聞くことなく電話を切ってしまった。
 私に弁解と抵抗の余地を与えないためだろう。
 ツーツーという電子音を聞きながら、私は天井をあおいだ。

「……行くしかないかぁ」

 皆に会うのは怖い。だけど、ずっと会って謝りたかった。
 詳しい説明をせず、それどころか一言も声をかけずに会社を去ったことは、私の心の中で罪悪感として残り続けている。
 いつかは皆に、直との関係も含めて本当のことを話したいとは思っていた。
 直とは別れたし、もう二度と会うこともないだろうから、今なら真実を話せる。
 彼のことも、そろそろ過去として受け入れるべき時期がやってきたのかもしれない。
 約束の日から、すでに半年がった。直だって、私を忘れて新たな生活を始めているに違いない。
 私も、未練を断ち切らねばいけないときがやってきたのだ。
 これはいい機会なのかもしれない。
 文恵が退職してしまったら、今度こそ同期の皆に謝る機会がなくなってしまう。
 私はすぐさま女将に相談をして、東京へ行かせてもらうことにした。
 文恵が前もって事情を話してくれていたおかげで、すんなりと承諾を得られたことには複雑な思いをいだきつつも、ホッとする。
 こうして土下座をしに行く覚悟で、私は水曜日に東京へと向かったのだった。


     * * *


 約束の七時はすでに五分ほど過ぎている。だが、私は居酒屋の扉をひらけずにいた。
 店の前であれこれ考えていても始まらない。とにかく今は、中に入って同期の皆に謝罪することが重要だ。
 わかっているのに、なかなか一歩が踏み出せない。
 持っていた紙袋の取っ手をギュッと握りしめていたことに気づき、ハッとする。
 この紙袋の中には、文恵への結婚祝いの品が入っているのだ。今日、ここにやってきたのは、彼女におめでとうとお祝いの言葉が言いたかったからでもある。
 折角文恵が用意してくれたチャンスだ。きちんと対応しよう。

「よしっ」

 小さくこぶしをつくり、私はゆっくりと居酒屋の引き戸を開けた。
 いらっしゃいませ! という威勢のいい店員の声に迎えられた私は、連れが中にいることを告げる。
 予約していた団体は一組しかいなかったようで、すぐに奥の座敷に案内された。
 ごゆっくり、という店員の明るい声をバックに、私は意を決してふすまに手をかける。
 すると向こう側から、誰かが勢いよくふすまを開けた。

「遅いよー、沙耶!」
「ふ、文恵……」

 ビックリして目を丸くしている間に、私は文恵に腕をつかまれて座敷の中へと連れ込まれてしまった。

「はいはい。沙耶は、この席ね」

 無理矢理座布団の上に座らされ、思わずうつむく。
 皆の視線を一身に浴びて居たたまれない気持ちになるが、私は顔を上げ、同期の皆を見回した。
 一年ぶりに見た彼らの顔に、懐かしさと申し訳なさが同時に胸に込み上げてくる。
 グッと奥歯を噛みしめた後、私はガバッと頭を下げた。

「色々と内緒にしていてごめん! 何も言わずに会社辞めてごめん!」

 怒られるのを覚悟でやってきたが、やっぱり緊張してしまう。
 けれど、今日は文恵の結婚祝いの席だ。あまり空気が悪くなるようだったら、すぐさまおいとましよう。
 そう思っていると、背中をポンと叩かれた。
 慌てて顔を上げると、文恵が腕組みをしてニカッと笑っている。
 他の同期たちも、ニヤニヤしながら私を見つめていた。

「何を内緒にしていたって?」
「……会社を辞めた理由と、直と付き合っていたことだけど……」

 直と付き合っていたことは、今さら言わなくてもいいかと思ったが、私が皆に何も言わず会社を辞めた理由を話すとなると、それを言わずには説明ができない。
 そう考えてカミングアウトしたのだ。
 彼との関係を、同期の皆にはもちろん、会社関係者には内緒にしていた。
 直と付き合い始めた頃の私は、彼との未来に自信が持てず、公言できなかったのだ。
 直はモテたから、彼のファンににらまれるのが厄介だったというのも、皆に内緒にしていた理由の一つでもあった。
 別れた今なら、きちんと話せる。そう思って伝えたのだけれど……
 こうして皆の顔を見るに、私一人だけが何か噛み合っていないように感じてならない。
 戸惑いつつ文恵の顔を見ると、再びフンと鼻を鳴らして自慢げに言い放つ。

「沙耶は志波君と付き合っていたことを内緒にしていたつもりみたいだけど、バレバレだから」
「ま、まさか……そんな!」

 驚愕のあまり声を上げる私に、文恵は楽しげに笑った。

「うそじゃないわよ? ここにいる同期みーんな知っていたわよ」

 ヨロヨロと力なくたたみに手をつけば、皆が私を見て噴き出した。
 同期の皆は口々にあの頃の私たちのことを言い出した。

「瀬野が必死に隠しているのを見て、志波が面白くなさそうにしていたよな」
「そうそう。瀬野に近づく男をにらみだけで牽制けんせいしていてな」
「なのに沙耶だけ隠そうと必死なのが、また面白くって」
「ね! でもバレバレなの。だって志波君ったら、沙耶のこと甘ったるい表情で見つめているんだもん」
「これで隠しているつもりなの? っていうぐらい、二人で甘い雰囲気かもし出していてね~」

 頭が痛くなってきた。グリグリとこめかみを押しながら、私は皆の会話に耳をかたむける。
 普段から目敏めざとい同期の皆が何も言わないから、うまくごまかすことができていたと思っていたのに……
 まさか私と直が付き合っていることを知ったうえで、黙って見守ってくれていたとは。
 今更だが、恥ずかしさで顔が熱くなる。
 顔を真っ赤にさせていると、文恵が私の顔をのぞき込んできた。

「ってことで、沙耶と志波君が付き合っていることは、みーんな知っていたというわけ。だから、全然内緒になんてしてなかったから。その点については気にしなくていいわよ」
「ううっ……」
「だからこそ、志波君の送別会のとき、二次会もせずに早々はやばやと解散したんでしょうが」
「あ……」

 いつもなら二次会に繰り出すところなのに、あっさりと一次会で解散になったことを思い出す。
 あの夜、そのことについて違和感をいだいていたのは確かだ。
 彼らは、私と直を早く二人きりにしてあげようと気を利かせて、あの行動を取ったのだろう。
 頭を抱える私を見て、文恵は眉を下げた。

「部長に聞いたわ。実家の旅館を立て直すために会社を辞めたんだってね」
「……」
「だけど、私たちに何も言わずに去ったのは……志波君に居場所を知られたくなかったから。違う?」

 その通りだった。
 彼が私を訪ねてきたら、私は実家の旅館を見捨ててしまうかもしれない。そんなふうに思ったからだ。
 私は直が好きだった。だからこそ、怖くて逃げた。
 彼の手を取ってしまったら、旅館瀬野は廃業への道を辿たどってしまう。
 それがわかっていたために、私は彼が追ってこないよう姿を消したのだ。
 涙がこぼれ落ちそうになるのをグッとこらえて、私は小さくうなずいた。
 すると文恵は、私の頭をギュッと抱きしめてくる。

「文恵?」
「もう、逃げなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「私たちからも、そして……志波君からも」

 直の名前を聞いて、私は慌てて彼女の腕の中で顔を上げた。
 私と視線が合うと、文恵は柔らかくほほ笑んで、もう一度私をギュッと抱きしめてくる。

「かくれんぼは、もうおしまいよ」
「文恵……?」

 意味深な言葉と表情に、私は危機感をつのらせた。
 今日、私をこの場に呼んだのは、文恵の結婚祝いをするからということだった。
 だけど、もしかして他にも理由があるとしたら?
 彼女の腕の中で硬直していると、一人の男性が見計らったように座敷へと入ってくる。
 胸が痛い。ドキドキしすぎて、息がうまくできない。それでも意を決して、入ってきた人を見る。
 ――そこには、ずっと会いたかった人が立っていた。

「直……?」

 一年半前に別れを告げて以来、彼とは会っていない。連絡も取っていなかった。
 久しぶりに会う彼は、また一段と男の色気が増しているように見える。
 異国の地で、彼がどんなふうに過ごしてきたのか。仕事をしていたのか。
 自信に満ちあふれた彼の表情を見れば、その期間がどれほど充実していたのかがよくわかる。
 ドクンドクンと速まっていく胸の鼓動だけが聞こえ、私はただ彼を見続けることしかできずにいた。
 彼の瞳は、確実に私に向けられており、その強い視線に私は身じろぎもできない。
 ツカツカとこちらに近づいてきた直は、文恵の腕の中にいた私を強引に引っ張り、みずからの腕の中へとみちびいてしまった。
 逃げなくちゃ。直に触れてはいけない。
 そう思っているのに、私の身体は彼の体温に安堵あんどしてしまっている。
 マズイ、本当にマズイ。
 彼は危険すぎる。私の心を揺さぶるのは、いつだって直だけだ。
 今のこの状況に危機感をつのらせていると、直は私の耳元でささやいた。

「俺から逃げようとした落とし前。どうつけてもらおうか?」

 相変わらずの俺様発言にさえ、懐かしさを感じてしまう。
 だが、今はとにかく離れなくては。直に捕まってしまったら、心も体も捕らわれてしまう。
 彼の腕の中から飛び出そうと体勢を整えたときだった。
 文恵の恐ろしく低い声が響き渡る。

「あ~ら、沙耶。もしかして逃げる気?」
「ふ、ふ、文恵……」

 彼女の声には、怒りが込められているように感じた。
 慌てて振り返ると、彼女は腕組みをしつつ、私をにらむように見つめている。

「私の結婚祝いをしてくれるつもりで、今日はここに来たんでしょう?」
「うっ!」
「すっごく心配をかけた同期への結婚お祝い、しっかりとしてくれるわよね?」


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